韓国メディア『NEWSIS』に「?」な記事が出ています。
貿易収支の赤字を積み上げるスピードが「2008~2009年の韓国通貨危機の時よりも速いので危険」という記事です。
韓国は輸出1本で食べている国なので、貿易のもうけを示す貿易収支が減少したり、赤字になったりするのは危険な兆候です。それは正しいのですが……。
韓国通貨危機時より貿易赤字を積み上げる速度が速い?
まず、以下に『NEWSIS』の記事から該当箇所を引いてみます。
(前略)
01日、産業通商資源部が発表した05月の輸出入動向資料によると、韓国の05月の輸出額(通関基準暫定値)は615億2,000万ドルと前年比21.3%増えた。19カ月連続増加傾向で、歴代05月の中で最高の実績だ。昨年05月の実績は507億ドルだった。
ただし、先月の輸入額は1年前より32%増の321億2,000万ドルを記録した。
輸入額が輸出額を超えて貿易収支も17億1,000万ドルの赤字で、2カ月連続の赤字記録を続けた。
今のような赤字傾向が続くと、2008年のグローバル経済危機以後14年ぶりに「3カ月連続」貿易収支赤字を記録する可能性を排除できない。
赤字を累積するスピードも尋常ではない。
『韓国銀行』の国際収支動向資料によると、08年の経済危機当時01~05月の貿易収支は累積63億4,000万ドルの赤字だったが、今年(01~05月)すでに78億5,000万ドルとなった。
100億ドルの赤字に上るのも近いと思われる。
年間基準でも14年ぶりに歴代最大水準の貿易赤字を記録するという展望が出ている。
韓国が2000年以降で年間の貿易赤字を出したのは2008年(133億ドル)が最後だった。
(後略)
輸入が輸出よりも増加しているので、貿易のもうけを示す貿易収支は赤字になっているといい、2022年01~05月は累計で「78億5,000万ドル」の赤字と述べています。
ここまでは合っています。関税庁が公開した通関ベースの輸出入と貿易収支のデータを再度貼ると以下のようになります。
2022年01~05月の累計赤字は「78億4,200万ドル」なので、10万ドルの位を四捨五入すると「78億4,000万ドル」になるので、そこは合っていません。
しかし、「?」なのは「『韓国銀行』の国際収支動向資料によると、08年の経済危機当時01~05月の貿易収支は累積63億4,000万ドルの赤字だった」の部分です。
この、
2008年:-63億4,000万ドル
2022年:-78億4,000万ドル
によって、現在2022年の方が危ないと結論付けています。本当にそうでしょうか?
国際収支統計のデータではこうなっている
2008年の韓国通貨危機時にでも、国際収支統計では01~05月「63億4,000万ドル」だったと言っているのですが、このような数字を『韓国銀行』は公表していません。
『韓国銀行』がECOSで公表している国際収支統計の「2008年01~05月」のデータを切り出してみると、以下のようになるのです。
上掲の黄色でフォーカスした部分が2008年01~05月の貿易収支です。合計すると「+12億8,000万ドル」です。
国際収支動向だという「-63億4,000万ドル」がどこから出た数字なのかがよく分かりません。
そもそも通関ベースの貿易収支と国際収支統計の貿易収支を比較するのが無理なのです。
Money1では何度もご紹介していますが、通関ベースの貿易収支が赤字でも国際収支統計では平気で黒転します。英語版でも公表され国際的に信認を受けるべき国際収支統計と、インチキかもと指摘されることもある通関ベース統計では、当然ですが国際収支統計の方を信用するべきです。
外国との取り引きのフローを確認するなら国際収支統計を見なければいけません。
通関ベースの貿易収支2022年01~05月の累計:-78億4,200万ドル
というふうに比較して「やはり2022年の方が悪いじゃないか」とおっしゃるかもしれませんが、そうではありません。
2022年の国際収支統計は03月までしか出ていませんので、01~03月で比較してみましょう。
2008年01~03月累計: 13億4,900万ドル
2022年01~03月累計:104億290万ドル
上掲のとおり、貿易収支は『NEWSIS』の記事とは真逆に2022年の方がはるかに良い成績なのです。念のために、同様に『韓国銀行』のECOSから切り出した貿易収支のデータを以下に貼ります。
↑2022年01~03月の貿易収支は黄色でフォーカスした部分です。合計すると104億290万ドルになります。
2008年の韓国通貨危機時よりの2022年の方が貿易収支の赤字を積む速度が速いでしょうか? そのような事実はありません。
だからといって大丈夫なわけじゃない!
ですので『NEWSIS』の記事には数字の上で疑問があります。
ただし、だからといって「韓国経済が大丈夫」という話ではありません。『韓国銀行』が公表してる国際収支統計の貿易収支も確実に前年割れを続けているからです。
論より証拠、2021年と2022年の貿易収支を比較してみます。
⇒データ引用元:『韓国銀行』公式サイト「ECOS」
上掲のとおりです。2022年は確実に貿易収支が減少しています。そして、韓国の場合、貿易収支が減少、あるいは赤転といったことがあると確実に国が傾くのです。
(吉田ハンチング@dcp)