2023年06月04日、『韓国銀行』が「最近の海外直接投資増加背景および外国為替部門の示唆点」というリポートを出しました。
米中の対立激化とサプライチェーンの組み換えによって韓国内企業の海外直接投資が急増しており、これが外国為替需給に悪影響を与える可能性がある――としています。
まず、指摘する海外投資の増加の様子をご覧ください。
2021年:494億ドル(対前年比:+81.4%)
2022年:502億ドル(大前年比:+1.6%)
2023年第1四半期:89.5億ドル
小計:1,085.5億ドル
※この直接投資金額は「収益再投資を除く国内企業の海外直接投資」です
ご注目いただきたいのは、2021年の81.4%も増加した「494億ドル」です。
韓国の海外直接投資は2008~2009年の韓国通貨危機以来、微増を続けてきましが2021年以降のその増加規模が急拡大しています。
『韓国銀行』がこのようなリポートを出すのは、『韓国銀行』が『国民年金公団』との350億ドル規模の為替スワップ(韓国の表記に合わせます)を締結し、『韓国ガス公社』とも30億ドル規模の同様の協定を締結しようとしているのも同じ文脈で語れるでしょう。
ローカルカレンシー・ウォンのまま海外には投資できません。必ず「ウォン ⇒ ドル」の両替がワンクッション入ります。ウォン安が進行するので、「ウォン売りドル買い」を行われたくないのです。
『韓国ガス会社』の場合は、燃料を海外から購入して代金を決済するときに外貨が必要になりますので、巨額のドル買いが発生し、やはり現物市場でウォン安を進行させる素になります。
↑黄色でフォーカスしているのが、2021年と2022年の直接投資の資産の部。2020年は「約348.2億ドル」しかなかったのに、2021年は「約660.0億ドル」です。
2020年から2021年にかけて、韓国の対外直接投資(資産)は1.9倍に拡大しています。つまり、異常なほど海外への投資が拡大したのです。
これは対外資産の増加ではありますが、資金流出です。
⇒データ出典:『韓国銀行』公式サイト「ECOS」
『韓国銀行』が何を恐れるているかというと、ウォン安もさることながら、現物市場の需給バランスです。読者の皆さまもご存じのとおり、韓国は貿易収支が赤字に傾いています。ということは外貨のIncomeが減って、出ずっぱり方向になっているわけです。
つまり、民間の韓国企業が市場に供給できるドルが減少しています。その上にウォンからドルに換えて海外に投資だー!というトレンドが大きくなったら(なっていますけど)どうなるでしょうか?
ドルの調達コストが上がりますし、トレンドが続けばドルの流動性が逼迫する可能性があります。
韓国金融当局が最近、『韓国ガス公社』に為替通貨スワップを持ちかけたり、「木曜日に集中してドル換えを行うな」といったりするのは、この懸念が高まっているためだと思われます。
ドル(外貨)の流入を増やしたいところですが、なにせ経常収支が赤字化トレンドなのでそうもいきません。「じゃあ、せめて出るのを防ごうよ」というわけです。しかし、ここで海外投資をケチると、脱中国、サプライチェーンの組み換えが焦眉の急なのに、乗り遅れてしまうでしょう。
韓国はいつも困っているヘンな国ですが、外貨流動性についても「どうするよ」という状況です。
(柏ケミカル@dcp)