ドル強が弱まったにもかかわらず、ウォン安はまだ高い水準にあります。かつての心理的抵抗線、マジノ線と呼ばれた「1ドル=1,200ウォン」を100ウォン以上も上回っている状況です。
↑ドルウォンチャートにDXYを重ねたもの(チャートは『Investing.com』より引用:以下同/日足)
ただし、ドルの強さを示す「DXY」とドルウォンのディバージェンスは上掲のとおり、解消方向にあります。しかし、韓国の金融当局からすればまだ安心はできません。少なくとも「1ドル=1,200ウォン」台中盤にまでは戻したいでしょう。
韓国のウォンは脆弱でボラティリティーが高く、何か重大事案が起こった場合、一気にウォン安が進行する可能性があるからです。
そんな中、韓国メディア『ソウル経済』に大変興味深い報道が出ました。
政府が『韓国ガス公社』(以下『ガス公社』と表記)に、「為替スワップ」(韓国メディアの表記に合わせます)の続いて、「ドル買いのタイミングを分散するよう」に要請していたというのです。
以下に記事の一部を引用します。
(前略)
21日、関係省庁によると、企画財政部は最近、『ガス公社』にドル分割買い付けを要請した。通常、毎週木曜日に集中する『ガス公社』の為替取引を週2~3回に分散する案だ。
政府関係者は「『ガス公社』の為替取引が毎週木曜日に集中し、他の日よりも為替レートの変動性が大きくなる側面がある」とし「木曜日に為替レートの上昇圧力が大きくなるため、分割購入は『ガス公社』の立場でも合理的な提案」と説明した。
(後略)
『ガス公社』は、海外からLNG(液化天然ガス)を購入していますが、この代金を支払うのにドルを用意しなければなりません。このドル調達が毎週木曜日に集中しているので、2~3日に分けて行え――つまりバラしてくれというのです。
ドル調達は、当然ですが「ウォン売りドル買い」ですので、これが巨額になるとウォン安を進行させます。
先に『ガス公社』に「30億ドル規模の為替スワップ」を要請して突っぱねられたとのと同じスジの、市場でドル調達を行うとウォン安が進行するので控えさせたい、という話です。「せめてバラして調達してくれ」――と。
これが本当なら、政府が市場に介入しているのと変わりませんし、「なぜ、そんなに困ってるんですか?」という話です。
恐らく理由はシンプルで、韓国の金融当局がウォン安阻止のために介入するための資金、手元のドルに不安を抱えているためです。
手持ちのドルに不安を抱えている理由も簡単で、経常収支が赤字に傾いて外貨準備が積めなくなってきたからです。その上、『国民年金基金』と「為替スワップ」契約を行っているため、必要なドルは『韓国銀行』が用意しなければなりません。
記事には、『ガス公社』が木曜日にドル買いを集中するためにボラティリティーが高まっている側面がある、と書いています。本当にそうなのか、ここ最近の日足チャートを見てください。
4本値を分析したわけではありませんが、「木曜日に特異的にボラティリティーが高い」と本当にいえるだろうか?というのが第一勘です。
また、仮に木曜日に特異的にボラティリティーが高かったとしても、それが『ガス公社』の取引のせいだと結論付けることができるでしょうか。
さらに、1回の取引を2~3回に分けたとして、本当にそれでボラティリティーを抑えることができるのでしょうか。
実際、『ガス公社』だってばかではないので為替ヘッジを行って取引しているはずです。政府がそれを横からどうこうするというのは、いかがなものでしょうか。
面白いのは、『ソウル経済』の記事では「企画財政部は、LNG価格の動向に応じて、今年下半期に『ガス公社』に為替スワップ締結やドル分散購入を再度要請する可能性があるという立場だ」と書いている点です。
企画財政部は『ガス公社』にまた要請するかもしれない――というのです。
(吉田ハンチング@dcp)