読者の皆さんは中国の「雄安新区」をご存じでしょうか。
習近平総書記のメンツのかかった一大プロジェクトなのですが、それが……という話です。
まず雄安新区について簡単にご説明します。ご存じの方は次の小見出しまで飛ばしてください。
雄安新区とは? 鄧小平・江沢民に並びたい!
雄安新区(Xiong’an New Area)は、中国の河北省に位置し、北京市の南約100キロメートルに位置する新たな都市開発プロジェクトです。
「国家級新区」とされました。
「国家級新区」というのは、国務院の批准を経て設立される「国家の重大発展と改革開放戦略の任務を受け持つ総合機能区」を意味します。
2017年に中国の習近平さんの指導の下で発表され、北京周辺の都市機能の分散と首都圏の発展を支えるために構想されました。
雄安新区は「千年大計、国家大事」とも呼ばれ、長期的な視点で発展する国家レベルのプロジェクトとされています。
なんでまた、こんなビッグプロジェクトを始めたかというと――しばしば習近平さんの野心の現れ(名誉欲)といわれます。
中国経済の発展は「資本主義経済(っぽい)体制」に舵をきった鄧小平が開始して、中国南部沿岸沿いの都市の発展し、これが起爆剤となりました。
鄧小平さんは、1980年08月に設立された「深セン経済特区」をつくりました。
次に大きな成果を挙げたのは江沢民さんです。彼は、1992年に国務院の批准を受けて設立された上海市「浦東新区」を主導。
実はこの「浦東新区」こそが中国で最初に設立された国家級新区なのです。
2006年には2番目の国家級新区天津市「濱海新区」が決まります。
重慶市「両江新区」
浙江省「舟山群島新区」
甘粛省「蘭州新区」
広東省「広州市南沙新区」
が、2014年には陝西省「西咸新区」と貴州省「貴安新区」、2016年末までに山東省「青島市」、遼寧省「大連市」、四川省「成都市」など計12カ所の国家級新区が設立されました。
ここまでで計18の国家級新区です。
――というわけで、雄安新区は19番目の国家級新区です。
しかし、この雄安新区は習近平さんの肝いり企画という点で、他の国家級新区とは一線を隠します(国務院だけでなく中国共産党中央委員会も批准している)。
中国を代表する御用メディア『新華社』は、
「これは習近平同志を核心とする中国共産党中央委員会が行った重大な歴史的戦略の選択であり、広東省の『深セン経済特区』と上海市『浦東新区』の後を継ぎ、全国的な意義を持つ新区であり、『千年大計、国家大事』である」と書きました。
つまり、
●鄧小平の「深セン経済特区」
●江沢民の「浦東新区」
●習近平の「雄安新区」
というわけです。
「鄧小平、江沢民に比する経済的な成果を中国にもたらすオレ」を目指している――と解釈されるのが雄安新区であり、習近平さんのメンツがかかっているビッグプロジェクトなのです。
「雄安新区」はポンコツです
ところが……この雄安新区はポンコツです。
まず――場所がヘンです。
雄安新区は低地に位置しており、歴史的にも洪水のリスクが高い地域なのです。
読者の皆さまもご存じのとおり、中国では夏の大雨・洪水・街の水没が風物詩のようになっています。
雄安新区は水没するリスクが高いエリアで、しかし水没すると習近平さんの沽券に関わるのです。そこで、雄安新区を守るために、堤防を切って水の流れを変えて、他の村・街を遊水地に使っている――という疑惑が持ち上がっています。
例えば2023年夏、中国北部の記録的な豪雨によって河北省の複数の都市や村が深刻な浸水被害を受けました。
この際、北京市や雄安新区を保護するために、河北省の涿州や霸州などが「遊水地」として使われて洪水の被害に遭った――と指摘があり、地元住民の間で不満が噴出しました。
特に、涿州の一部で堤防が切られて意図的に洪水が流されたことが、雄安新区を守るためだったとする見方が一部メディアで取り上げられました。
⇒参照・引用元:『日立評論』公式サイト「中国の未来都市 雄安新区」
上掲は、『日立評論』のサイトで紹介されている「雄安新区の位置と開発イメージ」の図ですが、「なんでまたこんな湖沼地帯に造るの?」――と聞きたくなる場所です。
理由は「習近平さんが決めたから」に他なりません。
最先端のテクノロジーを注ぎ込んで最先端の都市になるそうですが、「最先端の水没都市」になったら仕方ないでしょうに。
ゴーストタウン化してきた!
場所もヘンですが、中国共産党政府が「企業はココに移転しろ!」と強要している割には、全然活気のある街にならない点が泣かせます。
例えば、以下は新興宗教法輪功系で歌舞いているメディア『看中国』がYouTubeに上げた「雄安如鬼城!中國高鐵虧6萬億!遍地是荒廢高鐵站!杭州高鐵站下陷(雄安はまるでゴーストタウン!中国の高速鉄道は6兆元の赤字! 至る所に廃れた高鉄駅が! 杭州の高鉄駅が沈下)」
↑YouTube『看中国』アカウントの動画。
「今私がいる場所は、閑散とした雄安新区の雄安駅の近くです。
雄安新区の高鉄駅は荒地に建てられ、駅前は一面荒れ地で、地面には少し野草が生え、わずかに苗が植えられている程度です。
これが雄安駅です。荒地の中にある鉄道駅で、少し住宅地が開発されているだけです」
と述べています。
習近平さん肝いりのビッグプロジェクトは寂しい姿をさらし出しているのです。
(吉田ハンチング@dcp)