中国の「伊鵬3号」(YI PENG 3)という船(「Bulk Carrie」日本語で「ばら積み貨物船」)が、わざと海底ケーブルを切断したのではないか――という疑いが持たれ、世界的に注目を集めています。
何が起こったのかを時系列で以下に示します。
午前10時頃、リトアニアとスウェーデン領ゴットランド島を結ぶ海底ケーブル「BCSイースト・ウェスト(BCS East-West Interlink cable)」が切断されました。
2024年11月18日
早朝、フィンランドとドイツを結ぶ海底ケーブル「シー・ライオン1(C-Lion1)」が切断されました。
2024年11月19日
スウェーデンのカール・オスカー・ボーリン民間防衛相は、両ケーブルの切断時に現場付近にいた船舶として、中国籍の貨物船「伊鵬3号(YI PENG 3)」を特定したと発表しました。
2024年11月20日
デンマーク海軍が「伊鵬3号」を拿捕し、カテガット海峡に停泊させました。
2024年11月27日
リトアニアは『欧州検察機構』(ユーロジャスト)の支援を受け、スウェーデン・フィンランドと共にケーブル断線に関する合同調査チームを立ち上げた――と公表。
2024年11月28日
捜査当局は、「伊鵬3号」が故意に錨を下ろした状態で約160kmにわたって航行し、海底ケーブルを切断した可能性が高いと報告しました。
↑青いラインが「伊鵬3号」の航路。赤い丸で囲った①②が海底ケーブルが切断されたポイントです。
ご注目いただきたいのは、1本目の海底ケーブルを切断した後、2本目のケーブルを切断するまでの間、AIS(自動船舶識別装置)が検出されていない部分があることです(赤い楕円で囲んだ部分です)。
船舶の安全な往来を確保するため、AIS(自動船舶識別装置)をオンにしておくことは、特に国際航行を行う商船において、国際法で定められた義務です※。
AISがオンになっていれば、『MarineTraffic(マリン・トラフィック)』や『VesselFinder(ヴェッセル・ファインダー)』のサイトで、その船がどこにいるのかを確認することができるのです。
例えば、2024年12月02日18:30現在(日本時間)、『VesselFinder』に「Yi Peng 3」を入力すると、「2分前にはココ」と表示されます(下掲スクリーンショット)。
↑2024年12月02日18:30現在(日本時間)の「伊鵬3号」の位置。
このデータが正しければ、「伊鵬3号」はデンマークとスウェーデンに挟まれたカテガット海峡に停泊したママということになります。
「伊鵬3号」はなぜAISを切ったのでしょうか? 意図的に切ったのなら「隠蔽工作」でしょうか。
海底ケーブルが立て続けに2本切断される、しかもアンカーを引きずったまま航海するというのはとても偶然とは考えられません。
故意に行ったのなら、これは破壊工作です。破壊工作なら、その背景を究明しなければなりません。
誰が何を企図して行ったか?――です。
リトアニアが中国大使を国外追放!
本件に絡んでと確認されていませんが、2024年11月29日、リトアニア外務省は、中国代表事務所の職員3人をウィーン条約や国内法に違反したとし、国外追放を命じました。
上掲図のとおり、リトアニアとスウェーデンを結ぶ海底ケーブル「BCSイースト・ウェスト」が切断された――ことが原因と見ることも可能です。
この追放劇について、中国外交部は猛反発、2024年12月02日、以下のような文書を出しました。
外交部報道官がリトアニア外務省による中国外交官の退去要求について声明を発表
2024年12月2日 14:3011月29日、リトアニア外務省は何の正当な理由もなく、中国駐リトアニア代理事務所の関係外交官を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」に指定し、期限内に退去するよう要求した。
この粗暴な挑発行為に対し、中国は強く非難し、断固反対する。
周知のとおり、リトアニア側は台湾問題に関して一つの中国原則に深刻に違反し、両国の国交樹立時に交わされた政治的約束を裏切った。
このため、中国とリトアニアの関係は深刻な困難に直面している。両国関係が格下げされてから3年が経つ中、リトアニア側はむしろ状況をさらに悪化させ、度重なる行動で二国間関係を損ねている。
中国はリトアニア側に対し、中国の主権と領土保全を損なう行為を直ちに停止し、中国とリトアニアの関係を困難にする行為をやめるよう強く求める。
また、中国はリトアニアに対して対抗措置を取る権利を留保する。
新たに発足するリトアニア新政府が国際社会の普遍的な合意に従い、一つの中国原則を真摯に遵守し、中国とリトアニアの関係正常化に向けた条件を積み重ねることを期待する。
さあ本当に「何の正当な理由もなく」でしょうか。
この「伊鵬3号」について、調査の結果何が出てくるのか、要注目です。
ただし、AISをオフにできる例外はありますが、これは極めて限られたケースです。以下のような場合です。
安全のためのオフ
特に海賊が頻繁に出没する危険海域では、船舶の位置を隠すためにAISをオフにする場合があります。たとえば、ソマリア沖やマラッカ海峡などでは、船舶が自身を守るために一時的にAISを停止することが認められることがあります。
システムの故障
技術的な問題によってAIS信号が途絶える場合。ただし、この場合は迅速に修理を行い、復旧することが求められます。
(吉田ハンチング@dcp)