2020年03月13日『中央日報(日本語版)』に「韓米通貨スワップ、10年ぶり復活か…韓日間は2017年に交渉中断」という記事が出ました。
ウォールストリートジャーナル(WSJ)は10日(現地時間)、「米連邦準備制度理事会(FRB)の市場安定策」と題した社説で、10年ぶりに発生した金融市場パニックを収拾するためにFRBが韓国、中国、台湾、香港、豪州などの中央銀行と通貨スワップ契約を締結すべきだと主張した。(後略)
⇒参照:『中央日報(日本語版)』「韓米通貨スワップ、10年ぶり復活か…韓日間は2017年に交渉中断」
https://s.japanese.joins.com/JArticle/263637?sectcode=300&servcode=300
先の記事でもご紹介したとおり、牽強付会(けんきょうふかい:自分に都合のいいように無理に理屈をこじつけること)もいいところです。
⇒これがWSJの元記事です:『The Wall Street Journal』「The Fed’s Market Emollients」
https://www.wsj.com/articles/the-feds-market-emollientsthe-feds-market-emollients-11583794286
この社説記事では、FED(「連邦準備制度」ここでは中央銀行としての「連邦準備銀行」の意味)が流動性を確保するためにいくつかの手段が考えられるが、そのうちの一つして他国の中央銀行と通貨スワップ協定を結ぶという手もあるよ、と述べているに過ぎません。
そもそも、これはWSJが独自の見解を述べているコラムであって、実際にFED・FRBがそのようなことを考慮しているなんてどこにも書かれていません。その上、WSJの元記事には「FED」と書いているのに「FRB」(連邦準備制度理事会)としています。
FED・FRBは何も関係していない記事を根拠にいきなり「韓米通貨スワップ、10年ぶり復活か」というタイトルを掲げているわけです。世界の基軸通貨「ドル」をなんとか入手したい韓国の願望が丸出しの記事なのです。
しかし、現段階でアメリカ合衆国が韓国と通貨スワップ協定を結ぶ可能性は0と考えられます。
合衆国が通貨スワップ協定を結んでいるのは、ユーロ、円、ポンド、スイスフランのハードカレンシーを持つ4つの「国と地域」。すなわちEU、日本、イギリス、スイス。加えて地続きのカナダだけです。
これは当たり前の話で、ローカルカレンシーを持つ国と協定を結んでもなんら合衆国の得にならないからです。
ですから、韓国がドボンを回避する(先延ばしにする)ために合衆国と通貨スワップ協定を締結したいと望んでもそれは無理スジというもの。まさに「絵に描いた餅」です。
合衆国は実際に韓国がドボンになってから支援をするかどうかを考え、支援するとなればIMF経由で処方箋を作るでしょう。その処方箋の中に通貨スワップ協定があるかもしれませんが、あくまでも実際にドボンになってからの話です。
しかも合衆国がドボンになった韓国を助けるのかという問題があります。
先の記事でご紹介しましたが、1997年のアジア通貨危機の際には合衆国が韓国を助けない可能性もあったのです。合衆国が助けないと判断すればIMFは動きません※。
しかし、当時のクリントン大統領の判断で支援が決まりました。
背景には、北朝鮮の金正日総書記が当時不穏な動きを見せていたことがあります。1995-1996年は飢餓で死者が350万人も出た年ですが、その一方でミサイル開発に勤(いそ)しんでいました(1998年にはテポドンの発射を行いました)。
朝鮮半島を不安定にしないための判断だったわけです。
さて現在、仮に韓国が再びドボンになったとして、トランプ大統領は「支援せよ」という判断を下すでしょうか?
政治姿勢は「反米」で「親中・親北」、在韓米軍の撤退も始まっており、経済的なうま味もなくなってきた国を助けるでしょうか?
重要な追記
無理スジが通りました。合衆国のFRBは、2020年03月19日「FED(連邦準備銀行)が韓国を含む9カ国と新たなスワップラインを結ぶ」と声明を出しました。上掲で、合衆国は韓国にドルを融通する取り決めなど結ばないと断定したことは誤りでした。深くお詫びを申し上げます。誠に申し訳ありませんでした。
このスワップラインについての記事を以下にまとめました。併せてお読み頂ければ幸いです。
※
IMFの意思決定の場面では合衆国が拒否権を持っています。その意味ではIMFは合衆国の出先機関といっていいのです。
追記
また『中央日報』の当該記事には、
韓国が締結した通貨スワップのうち今年満期が到来するのは1月のマレーシアとの約47億ドル、2月の豪州との77億ドル、3月のインドネシアとの100億ドル、10月の中国との560億ドルなど。韓国はこれらの国と通貨スワップ契約を延長した。
と書かれていますが、2020年10月10日に満期終了となる中国との協定まで延長されたという話はウソでしょう。確かに、マレーシア、オーストラリア、インドネシアとの協定延長には成功していますが、中国との協定がすでに延長されたという話は寡聞にして聞きません(以下の記事を参照してください)。
(柏ケミカル@dcp)