『韓国銀行』総裁「チョンセはやめようよ」⇒ 家計負債を膨らませるから

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2025年10月20日、韓国国政監査に出席した『韓国銀行』の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、

「チョンセ制度を変えなければ、ローンを通じたレバレッジ(借金して住宅購入)が継続して拡大する」

「痛みがあっても断ち切らなければならないときだ」

――と述べました。これは非常に重要なポイントです。

전세(伝貰:チョンセ)」

読者の皆さまもご存じのとおり、「チョンセ」は韓国独自の賃貸システムです。もともと金融が大変に脆弱だったころに始まり、(他国にも似たシステムはあるものの)社会全体に定着し制度化されているのは韓国特有です。

「伝貰チョンセ」って何?

チョンセが何かをご存じの方は次の小見出しまで飛ばしてください。

「チョンセって何?」という方のために改めて説明します。チョンセは――、

❶借り手は家主にまとまった保証金(数百万円〜数千万円規模)を前払いして入居する
❷家賃(月々の支払い)は基本ゼロまたはごく少額
❸退去時に保証金は全額返還される

――いう仕組みです。

賃貸物件を借りる際に、まとまった大金が必要になりますが、借りている間は家賃を支払う必要はありません。

退去する際には最初に支払ったお金は、大家さんから全額返ってきます。

つまり「借り賃」がゼロ円でその物件を借りることができるのです。

このシステムのキモは「最初に巨額の保証金を入れる」という点です。

借り主から保証金を預かった大家さんは、そのお金を運用することができるのです。かつては預金金利が高かったため、借り主から預かった保証金を銀行にそのまま放り込むだけで、十分な利益を得ることができました。

しかし、金利が下がっているので、銀行に預けるだけでは利益を出せなくなっています。そのため、他の利殖方法を取ることが多くなっています。

なにせ韓国の皆さんは博打ばくちが大好きですから。

――で、その利殖に失敗して「元本割れ」が発生したりすると――借り主に「保証金が返せない」という事態に陥ります。

「借り手のローンだけが残る」リスク

もうひとつ、チョンセには重要な側面があります。「チョンセローン」を借りる人が多い――という点です。

最初に用意しなければならない保証金が巨額ですから、それを現金で支払うというのは難しいのです。そのため、チョンセの保証金をローンで借りるという人が少なくありません。

チョンセローンで保証金を借りて、大家さんに振り込み、借り手は金融機関にローンを返済するわけです。

数百万円〜数千万円規模が普通で、キャッシュで準備できない層が多いため、

保証金を金融機関から借りて
⇒家主へ一括で預ける
⇒借り手は銀行へ月々返済

という構図が「一般化」してしまいました。

つまり本来「家賃ゼロのはずの制度」が実質的に「月払いの債務返済」に変質したわけです。

こうなると、チョンセじゃなくて普通に「月額払い」(월세ウォルセ:月貰)で物件を借りればいいじゃないか――という話になりますが、まさにそうです。

また、このチョンセローンは借り手にとってリスクがあります。大家さんが保証金を返金できない場合は、借り手はローンを返済できずに「抱えてしまう」のです。

こうなると「借り手がローンを返し続けるだけの構図」になります。

李昌鏞総裁が「もうチョンセはやめようよ」は極めて妥当!

――というけで、冒頭の『韓国銀行』李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁の発言に戻ります。

李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁の「痛みがあっても断ち切らなければならないときだ」には妥当性があります。

まず「チョンセ」には「家計の借入依存を膨らませる構造」(レバレッジを効かせるための仕組み)を内包しています。

チョンセは「まとまった保証金」を賃借人が用意しなければならず、家主はそれを元手に追加投資や借入返済に回しやすいのです。ここでレバレッジがかかるわけです。

特に低金利の場合には(銀行に預けても増えないので)、チョンセの保証金が投資に回ることが増えます。

一方で金利が高いときには、賃借人・大家さんの双方が返済圧力にさらされることになります。

大家さんが返済圧力にさらされる、というと不思議かもしれませんが、多くの大家さんが、チョンセ契約のための物件取得・改修・または他物件へのギャップ投資(「チョンセを担保に次の物件を買う」)のために借入を利用しています

ここでもレバレジがかかるわけです。

金利が低いときは返済負担も小さくて済むのですが、金利が上がるとこの借入の利息・返済が重くなるのです。

次に、リスクが「庶民保護」から逸脱し、高所得層偏重になっている点を挙げなければなりません。これはある意味当然の話で、物件が高額になり保証金も高額となっていますので、チョンセの仕組みを利用できるのは、高所得な人たちに偏ります。

『韓国銀行』の資料によれば――「2025年第2四半期時点で、チョンセ貸出残高の65.2%を『所得上位30%』が占める――となっています。

先の記事でご紹介しましたが、さすがの韓国政府も「10.15不動産規制」でチョンセにもDSR規制を盛り込むことにしました。

さらには(この言い方はどうかと思いますが)「チョンセ詐欺」も2023~2024年に多発。「チョンセ保証金が返ってこない」という状況に多くの賃借人が直面する――という事態になりました。

――総じて言えば、李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁の指摘は真っ当です。

韓国は家計負債が対GDP比で高水準です。中央銀行『韓国銀行』や監督当局は、住宅価格と債務の歪みがシステミックリスクに発展し得る――としつこく警告してきました。

金利据え置きや政策運営でも「不動産市場で発火しない」よう姿勢を続けてきました。

もっとも、李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁の指摘が正しくても、スグに「チョンセは禁止だ」といかないのも確かです。

レバレッジを抑制し、保証金に上限を設けたり、保証適用の段階的縮小を行うなど、「軟着陸」を目指さなければならないでしょう。

(吉田ハンチング@dcp)

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