先ご紹介した、韓国で「尿素水」不足によって陸送の要であるディーゼルエンジンのトラックが動かせなくなる――というの続きです。
尿素水が品薄でガソリンスタンドにトラックの列
そもそも尿素水が必要な理由は排気ガスを浄化するためです。韓国ではガソリンスタンドで尿素水を補給できるようになっているのですが、これが品薄で枯渇。ガソリンスタンドにトラックが列をなして並ぶ光景が出現しています。
尿素水が切れたトラックは韓国の環境基準に抵触するため走行できなくなります。環境規制を無視すればOKですが、この場合、排ガス低減装置のロジックシステムを「尿素水がゼロでも走行できる」ように書き換えないといけません。
韓国メディアの報道によると、国内貨物車の大半が『ボッシュ』社製の装置を積んでいるため、最悪の場合、同社に依頼して書き換えを推進する必要があります。
2021年は尿素の輸入の97%を中国に依存していた!
2021年11月04日、事態が緊迫しているため、韓国の産業通商資源部は「産業用尿素」を輸入している業界・企業と緊急懇談会を開催し、解決のための施策を検討しました(以下がプレスリリース)。
緊急懇談会
出席者:産業通商資源部、企画財政部、外交部、調達庁、『KOTRA』、『韓国輸入協会』、民間企業7社産業用尿素の中国依存度
2020年:88%
2021年:97%
(01~09月)
産業通商資源部から、中国と交渉する外交部、現場の民間企業まで、関係者総出の会議です。驚くのは、原材料となる「尿素」の対中依存度。
先にMoney1では、2019年のデータを引いて「中国からの輸入が66%」とご紹介したのですが、依存度はそんな甘いものではなく、2020年には「88%」、2021年はここまで「97%」に達しています。
つまり、必要量のほとんど全部を中国からの輸入に頼っていたのです(韓国内で尿素を製造する企業は2013年に消滅している)。
中国が検疫を課し、海外への輸出量を絞ると一気に韓国が干上がってしまったのは、これが原因だったのです。
尿素水の価格は「7.5~8.6倍」に上がった!
今回のプレスリリースでは以下のように困難さを書いています。
○業界は、中国の措置以後、中国から輸入することに多くの苦労を経験していると述べ、その他の国からの輸入も物量不足、価格上昇などで非常に難しい状況だと言及した。
(中略)
○現在、従来比で輸入価格は3~4倍ほど上昇しており、業界のコスト負担が大きい。業界の負担緩和を提案した。
*工業用要素輸入単価(トン当たり、貿易協会)
2020年10月:267ドル
2021年09月:483ドル※データ引用元は同上
価格は従来比で3~4倍としていますが、上掲のとおり、1年で見ると「2020年10月:267ドル/トン」から「2021年09月:486ドル/トン」まで上がっているようです。
しかもこれは原料の「尿素」の輸入価格。尿素水になると小売価格はさらに上がると考えられます。
実際、品薄になる前は尿素水の価格は「10リットルで7,000~8,000ウォン(約672~768円)」、つまり「1リットルで700~800ウォン(約67.2~76.8円)」だったのですが、現在は「1リットルで6,000ウォン(約576円)水準」です。
尿素水は約7.5~8.6倍に値上がりしたのです。
韓国メディア『中央日報』は、韓国のガソリンスタンドでは「尿素水がガソリンよりも3倍以上高い値段で売られている」と報じています。
ガソリン:1,787ウォン(約171.55円)/リットル
(全国平均)
尿素水:6,000ウォン(約576.00円)/リットル
これだけ値上がりしても尿素水の入手は困難です。原材料の尿素が中国から入ってこないからです。
人の弱みにつけこんで詐欺まで現れる
いつでも人の弱みにつけ込む悪い人間がいるものですが、韓国メディアの報道によれば、「尿素水」詐欺まで出現しています。
『中央日報』の記事の一部を以下に引用します。
(前略)
全羅北道益山(イクサン)では尿素水を販売するといって5、6人から8,000万ウォン(約770万円)をだまし取る電話金融詐欺(ボイスフィッシング)被害が発生した。
(後略)
こうなってくると上から下まで尿素水狂想曲といった趣です。
――04日の会議では、中国に引き続き供給を協力を依頼すると同時に、輸入先の多角化を推進するとしています。今から急いで間に合うかどうか……です。
11月05日には、青瓦台・大統領府が動きました。兪英民(ユ・ヨンミン)大統領秘書室長の主導で青瓦台内秘書官室が共同参加する「尿素水対応TF(タスクフォ-ス)チーム」が結成されました。
まあ、このようなタスクフォースができたからといって、特に状況が変わるわけではないでしょうが、お手並み拝見といったところです。
すぐに結果が出なければ、本当に韓国の物流が止まるかもしれません。
(吉田ハンチング@dcp)