韓国の綱渡り外交です。アメリカ合衆国と中国の間でまさに右往左往しています。
まず合衆国に台湾問題で言質を取られる
韓国で第53回米韓安保協議体(SCM:Security Consultative Meetingの略)が開催され、アメリカ合衆国のLloyd James Austin III(ロイド・オースティン)国防長官と韓国の徐旭(ソ・ウク)国防部長官が顔を合わせて話し合いを持ちました。
2021年12月02日、共同声明が出されたのですが、合衆国国防総省(略称「DoD」)は直ちにこれを公表。この中に重要な部分があります。以下をご覧ください。
面倒くさい方は、強調文字、赤アンダーラインの箇所だけお読みくださませ。
(前略)
16. In consideration of complex regional and global security situation, the Minister and the Secretary pledged to continue promoting defense and security cooperation in the Indo-Pacific region and the world where mutual interests align, in order to better respond to regional and global security challenges. In this context, the two leaders committed to seeking cooperation between ROK’s New Southern Policy and the U.S. vision for a free and open Indo-Pacific region.16. 複雑な地域および世界の安全保障状況を考慮し、徐大臣とオースティン長官は、地域および世界の安全保障上の課題によりよく対応するために、相互の利益が一致するインド太平洋地域および世界における防衛および安全保障協力を引き続き推進することを約束した。
この観点から、両首脳は、韓国の「新南方政策」と合衆国の「自由で開かれたインド太平洋地域」のビジョンの間で協力を模索することを約束した。
The two leaders reaffirmed the importance of the rules-based international order and adherence to international rules and norms, including those of freedom of navigation and overflight. They further expressed their intent to work together for that purpose. Additionally, the Minister and the Secretary acknowledged the importance of preserving peace and stability in the Taiwan Strait, as reflected in the May 2021 Joint Statement between President Biden and President Moon. They also reaffirmed support for Association of Southeast Asian Nation (ASEAN) centrality and the ASEAN-led regional architecture.
両首脳は、ルールに基づく国際秩序、航行および飛行の自由を含む国際的なルールと規範の遵守の重要性を再確認した。
さらに、その目的のために協力していく意向を表明した。
さらに、大臣と長官は、2021年5月のバイデン大統領と文大統領の共同声明に反映されているように、台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を認めた。
また、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中心性とASEAN主導の地域構造への支持を再確認した。
The two leaders decided to promote human rights and the rule of law both at home and abroad. They jointly condemned violence by the Myanmar military and police against civilians, and committed to continuing to press for immediate cessation of violence, the release of political prisoners, and a swift return to democracy. They called on all nations to prohibit arms sales to Myanmar.
両首脳は、国内外で人権と法の支配を促進することを決定した。
両首脳は、ミャンマー軍および警察による民間人に対する暴力を共同で非難し、暴力の即時停止、政治犯の釈放、民主主義への迅速な復帰を引き続き求めていくことを約束した。
また、全ての国に対し、ミャンマーへの武器売却を禁止するよう求めた。
(後略)⇒参照・引用元:『アメリカ合衆国 国防総省』公式サイト「53rd Security Consultative Meeting Joint Communique」
※赤アンダーライン、強調文字は筆者による(以下同)
2021年05月のバイデン大統領・文在寅大統領の米韓首脳会談で盛り込まれた、「台湾の安全性と平和の維持」についての言及があります。
台湾の安全保障について韓国は合衆国と認識を同じにするという言質を取られたわけです。韓国メディアの報道によれば、この台湾についての言及は合衆国の強い要望によって入れられたとのこと。
韓国と合衆国のこの共同声明が出たことは、中国にとっては「こんちくしょー」といったところでしょう。
また、一応ミャンマーについてとなっていますが、「国内外で人権と法の支配を促進することを決定した」とあります。これはもちろん、ウイグル問題などにも展開可能な基本的な認識です。
韓国がもめごとを起こすのを許さない
さらに、先日合衆国で行われた日米韓の次官級協議で、三カ国の連携が割れたと世界に見られるような事態がありましたが、これに対するしっぺ返しのような文言が入っています。
韓国の役人が日本領である竹島に上陸するという愚かな行動を取ったため、協議後の共同会見ができなかったわけですが、今回のコミュニケの「18」は以下のようになっています。
18. The Minister and the Secretary assessed that trilateral security cooperation among the ROK, the United Sates, and Japan remains critical to regional stability, and committed to continuing trilateral defense cooperation such as information-sharing, high-level policy consultation—including the defense trilateral talks (DTT) and Trilateral Defense Ministerials—combined exercises, and personnel exchanges to achieve the complete denuclearization on the Korean Peninsula, as well as to advance the peace and security of Northeast Asia.
18. 徐大臣とオースティン長官は、韓国、合衆国、日本、3国間の安全保障協力が地域の安定に不可欠であると評価し、朝鮮半島の完全な非核化を達成し、北東アジアの平和と安全を推進するために、情報共有、日米韓防衛大臣協議(DTT)や日米韓防衛大臣会合を含むハイレベル政策協議、合同演習、人的交流などの日米韓の防衛協力を継続することを約束した。
※データ引用元は同上
このとおり、韓国が日本ともめごとを起こして日米韓の連携を崩すことを許さないという文章です。またGSOMIA(General Security of Military Information Agreementの略:軍事情報包括保護協定)の破棄を言い出すのを阻止するような内容でもあります。
日本ではさっぱり報道されていませんが、傑作なことがコミュニケ発表後の記者会見でありました。
韓国が「逃げ」を打つ!「中国とは言ってません」
韓国メディア『毎日経済』の記事から一部を以下に引用します。
(前略)
しかし、徐長官は続いての記者会見で「最近、安倍晋三元日本首相が中国が台湾を攻撃する場合、日本は台湾を助けると言ったが、このような事態が発生した場合、韓国はどのような立場を取るのか?」と合衆国記者の質問を受けて、「特定国の脅威を想定して議論はしなかった」
と述べた。
徐長官は「私たちの新南方政策と合衆国のインド・太平洋戦略間の相互協力を模索している」と付け加えた。
(後略)⇒参照・引用元:『毎日経済』「米韓国防長官「台湾海峡の安定重要」を初の明示」
中国を名指しすることを恐れた徐長官は「特定の国を念頭に置いていない」と逃げを打ったのです。
台湾でことを起こす国が中国の他にあるとでも言うのでしょうか。
恐らくオースティン国防長官は「ええーっ」という顔したはずですが(あるいは吹き出したか)、その表情を抜いた映像は見つけられませんでした。
徐長官のこのような態度は、関西の芸人用語で「泣きよった」というのかもしれません。
――話はまだ終わりません。
韓国の安保室長が中国から呼び出される
さて、同日12月02日、韓国の徐薫(ソ・フン)大統領府国家安保室長は、中国・天津で楊潔篪(ようけっち)政治局員と会談を行いました。会談といえば聞こえはいいですが、要は呼びつけられたわけです。
自由主義国家が北京冬季五輪の外交的ボイコットなどを議論しているややこしい時期なので、釘を刺すために呼んだと見て間違いないでしょう(オースティン国防長官が訪韓している同日です)。
先にご紹介したことがありますが、この楊潔篪という人は中国外交畑の超大物です。合衆国のエスタブリッシュメントとも太いパイプを持っています。
で、今回の会談ですが、韓国側としては文大統領の悲願である「朝鮮戦争の終戦宣言」に対する賛同を得る機会としたいわけです。しかし、上記のように「台湾の安全性」について合衆国に言質を取られてしまいました。
韓国メディア『毎日経済』の記事から一部を以下に引用します。
(前略)
この日ソウルで開かれた米韓安保協議会議(SCM)で史上初めて「台湾」問題が共同声明に含まれた。今回の会合では、これに対する両国間の議論があったことが分かった。
(後略)
これは推測ですが――恐らく硬軟取り混ぜて目茶苦茶怒られたのではないでしょうか。
また、同記事には以下のような見逃せない記述があります。
(前略)
また、この日の会談では、来年2月、北京冬季五輪に文在寅大統領が参加する問題も議論されたことが分かった。習近平中国国家主席の訪韓がまだ成就していないため、これに関する協議も行われた。
(後略)※引用元は同上
自由主義国家が外交的ボイコットを議論しているというのに、文大統領は行く気なのです。また、このご時世に習近平総書記の訪韓を希望しています。
呆れる他ありません。
合衆国は、いえ合衆国だけではなく、日本、そして自由主義陣営の国家は韓国を信用するべきではありません。韓国は自ら望んで中国の飲み込まれる方向に走っています。
(吉田ハンチング@dcp)