分かっていた話なのですが、韓国であらためて危機として注目されていますのでご紹介します。
例の『現代重工業』と『大宇造船海洋』の合併をEUが否決するだろう、という話が出て、危機感を覚えた模様です。
とりあえず韓国当局は条件付きながら暫定承認
2019年に事実上破綻して身売りが決まっていた韓国『アシアナ航空』は、結局、国策銀行『産業銀行』が主導して『大韓航空』と合併させることになりました。
韓国の航空産業の再編になるのでよい選択といえます。しかし、このような世界的に有力な企業同士の合併では主要国による結合審査をクリアしなければなりません。
寡占的な支配力を持つようになると困るので、公正取引委員会が承認するかどうかが焦点になります。
残っていたのは、韓国自身、アメリカ合衆国、EU、中国などですが、2021年12月29日、韓国の公正取引委員会は「条件付きで合併承認」という暫定の結論を出しました(まだ本決まりではないのでご注意ください)。
公正取引委員会は系列会社5社(『大韓航空』『アシアナ航空』『ジンエア』『エア釜山』『エアソウル』)が運航する250の路線、合計119社との競合状況を分析。
結果、『大韓航空』『アシアナ航空』が合併した場合に寡占状況となる一部路線の「運輸権」「スロット(空港の滑走路を使用することができる機会)」を返却すること、という条件を付けました。
俎上に上がったのは旅客87路線で、「仁川 – LA」「仁川 – ニューヨーク」などの国際線が含まれています。
問題なのは、これら路線が放棄された場合、韓国の航空会社が分配には預かれないことです。LCC(格安航空会社)には、長距離国際線を飛べる飛行機がないからです。また、韓国にとってLCC以外の航空会社は『大韓航空』『アシアナ航空』しかないので引き受ける会社がありません。
合衆国・EUが結合審査にOKを出す可能性は低い
「この先どうするんだ」という問題はあるものの、とりあえず韓国当局は『大韓航空』『アシアナ航空』の合併について条件付きで承認しました。
しかし、この先が問題です。合衆国、EUという難関が残っています。
先にMoney1でもご紹介したことがありますが、「航空会社間での企業結合を公取委が認めた例はほぼない」のです。
例えば、EUの公正取引委員会は、カナダ第1位の『エア・カナダ』と第3位の『エア・トランセット』の合併を認めませんでした。
また、スペイン第1位『IAG』と第3位『エア・ユーロパ』の合併は、合併後に独占を解消するための新規航空会社を立てることまで提案しましたが、当局は不十分として却下。結局、合併を取り下げることになりました。
合衆国の司法省は先に「航空事業者の数が一つ減ると7%の値上げが起こる」という見解を出しており、このような認識を基に公正取引委員会が結合審査に臨むことは明らかです。
ですので、『大韓航空』と『アシアナ航空』の合併は韓国にとっては最もスジのいい選択なのですが、この先の結合審査で了承されるかどうかは非常に危ういのです。むしろ了承されると「奇跡が起こった」とさえいえます。
――というわけで、すったもんだの揚げ句、『大韓航空』と『アシアナ航空』の合併に向けて進んできたのですが、EUあるいは合衆国の結合審査で認可されなければ雲散霧消します。
合併できないと、また『アシアナ航空』をどうするんだという問題に逆戻りです。
(吉田ハンチング@dcp)