韓国と中国の外交当局の間で「三不一限」が改めて議論され、国民の間でも第2の「THAAD事態」が起こるのではないかと緊張が走りました。
↑THAAD(Terminal High Altitude Area Defenseの略)。弾道ミサイルを終末段階で迎撃するためのシステムです。
三不の誓い
①アメリカのミサイル防衛に参加しない
②日・米・韓の安保協力を軍事同盟化しない
③THAADの追加配備をしない
一限
すでに配備したTHAADについては運用を制限する
その緊張はいまだ解けてはいません。
一方の中国は中国で「どうしたものか」と手をつけかねている節があります。
習近平総書記の続投問題がある上に、何よりも中国内経済の崩壊が目に見えてひどいことになっており、韓国まで手が回らないというのが本当のところでしょう。
半導体の供給問題で合衆国とのデカップリングが深まっているので、韓国を中国側に留めておきたいという意図も透けて見えます。
尹錫悦(ユン・ソギョル)さんは、大統領に就任する前の選挙戦で「THAADの追加配備」を主張していました。「THAADをどうするか」については「韓国の安全保障」、その主権に関わることであって、中国の干渉を受けることではない――というのが基本姿勢です。
それはそれで立派なものですが、これを中国に押し通すのは至難の業。先に行われた中国・王毅外相と韓国・朴振(パク・ジン)外交部長官との会談の結果がそれを証明しています。
前政権が放置したTHAAD基地
その混迷の中、尹錫悦(ユン・ソギョル)政府は「08月末までには現在のTHAAD配備基地を正常化できるだろう」という見通しを示しました。
そもそもTHAADの配備を行ったのは朴槿恵(パク・クネ)政府ですが、当時から中国の嫌がらせは始まり、朴槿恵(パク・クネ)大統領弾劾、文在寅政府になってから、(英語がうまいだけのド素人ながら)外相となった康京花さんが「三不の誓い」を国会で披露するはめになりました。
文政権下では、THAAD基地用の土地を市民団体が取り囲んで抗議活動を行う、道路を遮断するなどがあり、まともに資材搬入もできないような具合でした。何より、環境アセスメントの問題があって……などと政府が言い訳して作業を進行させなかったのです。
そのような困難があるのに、尹錫悦(ユン・ソギョル)政府が「08月末までには正常化できる」という意見表明を行ったわけですから、それだけでも驚きでした。
で、どうなったかというと……できませんでした。少なくとも韓国政府からは「作業完了」のお知らせも出ていませんし、その上……。
住民がTHAADを阻んでいる
2022年09月03日、住民600人余りが参加した「THAAD撤回」の大規模集会が行われました。
以下は本件を報じた韓国メディア『NEWSIS』の紙面です。
住民の間では「電磁波が人体に有害」「電磁波が農作物には悪い影響を与える」という説が流布されており、「じゃあ電磁波を測定しましょう」というと電磁波測定にも反対するという始末。
実際に2017年には測定も終わっており「そんなことはない」という結果だったのですが、自然への影響は長いスパンで見ないと……などと根強い反対があります。
たとえ、尹錫悦(ユン・ソギョル)政権がTHAAD基地の正常化を目指しても、これら市民団体の動きを鎮火しないといけません。
――というわけで、08月末の正常化はできませんでした。
これまた文政権の尻拭いなのです。
(吉田ハンチング@dcp)