韓国メディアは「誇らしい」と賑やかしの記事を出しているのですが、さあどうでしょう――という話です。
2026年09月08日、『韓国銀行』が「2026年第2四半期の国民総所得」を公表しました。
国民所得統計
2026年09月08日 公報2026-09-13号2026年第2四半期 国民所得(暫定)
◆ 2026年第2四半期の実質国内総生産(GDP)は前期比0.6%成長、前年同期比3.7%成長— 名目GDPは前期比9.2%成長、前年同期比26.4%成長
◆ 実質国民総所得(GNI)は前期比3.1%増加、前年同期比15.6%増加
— 名目GNIは前期比8.8%増加、前年同期比26.4%増加(詳細については「添付」参照)
添付:2026年第2四半期 国民所得(暫定)
※2025年の経済活動別設備投資(暫定)の推計結果は、韓国銀行経済統計システム(ECOS)を通じて公表⇒参照・引用元:『韓国銀行』公式サイト「2026年第2四半期の国民総所得」
一見して異常に好調の数字を叩き出しているのが分かります。特に実質GNIの伸びは対前年同期比で「+15.6%」という異常な数字です。
まずGDPの方を支出面から分解すると以下のようになります。
| 実質GDP・前期比 | 増減率 | GDP成長への寄与度 |
|---|---|---|
| GDP | +0.6% | +0.6%pt |
| 内需 | — | +0.3%pt |
| 最終消費支出 | +0.3% | +0.2%pt |
| └ 民間消費 | +0.4% | +0.2%pt |
| └ 政府消費 | +0.1% | 0.0%pt |
| 総固定資本形成 | +0.9% | +0.2%pt |
| └ 建設投資 | -0.1% | 0.0%pt |
| └ 設備投資 | +0.2% | 0.0%pt |
| └ 知的財産生産物投資 | +3.4% | +0.2%pt |
| 在庫等 | — | -0.1%pt |
| 純輸出 | — | +0.3%pt |
| 輸出 | +1.3% | +0.6%pt |
| 輸入 | +0.7% | ▲0.3%pt |
実質GDPの対前期「+0.6%」のうち、純輸出が+0.3%と半分を占めています。GDP成長の半分を純輸出が稼いだ計算になります。
これほど純輸出が稼げた理由は何でしょうか。『韓国銀行』自身が「IT品目(半導体など)を中心に輸出が8.9%増加」と説明しています。
そもそも実質GDPが前年同期比+3.7%なのに実質GNIが+15.6%まで跳ねた主要因は何でしょうか?
これも『韓国銀行』のプレスリリースから明らかです。
GDP ⇒ GDI ⇒ GNIの順番に見てみよう
『韓国銀行』の定義では、
実質GDI = 実質GDP + 交易条件変化による実質貿易損益
です。さらに、
実質GNI = 実質GDI + 実質国外純受取要素所得
――となります。つまり、
GDP = 国内でどれだけ「生産量」が増えたか
GDI = その生産物を外国と交換した結果、実際にどれだけの購買力を得たか
GNI = そこに海外からの純所得まで加えたもの
――という関係です。『韓国銀行』の表組によれば、以下のようになります。
| 実質・季節調整値 | 2025年2Q | 2026年2Q | 増加額 |
|---|---|---|---|
| 実質GDP | 578.7兆ウォン | 600.5兆ウォン | +21.8兆 |
| 実質貿易損益 | -10.0兆 | +58.5兆 | +68.5兆 |
| 実質GDI | 568.7兆ウォン | 659.0兆ウォン | +90.3兆 |
| 国外純受取要素所得 | 7.4兆ウォン | 7.9兆ウォン | +0.5兆 |
| 実質GNI | 576.2兆 | 666.8兆 | +90.6兆 |
ご注目いだきたいのは「(交易条件変化による)実質貿易損益」です。これが、2026年第2四半期には「68.5兆ウォン」もあり、実質GDIを大きく増加させているのです。
韓国が1年間で増やした「生産量」による所得増は約21.8兆ウォンなのに対して、交易条件変化による購買力の改善は約68.5兆ウォンもあります。
丸めた数字で計算すると、実質GDIの増加約90.3兆ウォンのうち、約76%が交易条件改善によるものです。
なぜ交易条件がそこまで良くなったのでしょうか?――答えは「半導体価格」です。
ここについては、『韓国銀行』が「BOKイシューノート」※ではっきり説明しています。
『韓国銀行』によれば、2000年代以降の過去3回の大きな交易条件改善局面――2009年、2015~16年、2020年――は、主として原油などの輸入価格下落によるものでした。
ところが今回は違います。
「半導体価格上昇に伴う輸出物価上昇」が交易条件改善を主導している」と『韓国銀行』自身が明記しています。さらに背景にはAI拡大による構造的な半導体需要があると分析しています。
交易条件を単純化すれば、
交易条件 = 輸出価格 ÷ 輸入価格
――になります。
輸出品の価格が輸入品より速く上昇すれば、同じ量を輸出しても以前より多くの外国製品を買えるようになります。
今回の韓国はまさにそれです。
添付資料のGDPデフレーターを見ると、2026年第2四半期の前年同期比は、
内需デフレーター:+3.6%
輸出デフレーター:+56.6%
輸入デフレーター:+21.0%
――です。はっきりいいますが「+56.6%」などというデフレーターの数字は異常です。
輸入価格も上昇しているのですが、輸出価格の上昇幅がはるかに大きいのです。この異常に大きな輸出価格上昇の中心に半導体があります。要するに――、
半導体需要急増
⇒ 半導体価格上昇
⇒ 韓国の輸出価格上昇
⇒ 輸入価格以上に輸出価格が上がる
⇒ 交易条件改善
⇒ 実質貿易利得急増
⇒ GDI急増
⇒ GNI急増
――という流れで、GNIが対前年同期比「+15.6%」という異常な数字が達成されたのです。
※韓国銀行 BOKイシューノート 第2026-16号「이번 교역조건 개선은 왜 다른가: 반도체 경기 호조의 실물경제 파급영향」/2026年07月19日に公表
「半導体の生産増」と「半導体の価格上昇」を分けて考えよう
ここはかなり重要な区別です。半導体好況はGDPにも効いています。
先ほど確認したとおり、2026年第2四半期は製造業が前年同期比+6.7%、ICT産業は+16.6%。輸出も半導体などIT品目を中心に+8.9%でした。
つまり半導体の生産量・輸出量増加が実質GDPを押し上げています。しかし、それだけではGNI+15.6%を説明できません。
もう一つ、「半導体1個を以前より高い値段で外国に売れるようになった」という効果こそがキーです。実質GDPでは基本的にこの相対価格変化による購買力増加を成長として数えません。GDPは「物量」を測ろうとするからです。
『韓国銀行』はGDPに「交易条件変化による実質貿易損益」を加えてGDIを作ります。
『韓国銀行』自身も、実質GDPは物量の尺度、実質GDIは相対価格変化による購買力を反映した尺度だと説明しています。
上掲のとおり、2025年2Qには、この交易条件効果はなんと「-10.0兆ウォン」でした。
それが2026年2Qには、「+58.5兆ウォン」です。つまり前年比では「68.5兆ウォンの改善」です。
これがGDPとGNIの伸び率を大きく乖離させた正体です。
国外所得は今回の主因ではありません。「韓国企業が海外で稼いだからGNIが増えたのではないか」と考えたくなりますが、今回は違います。
上掲のとおり、実質国外純受取要素所得は、「2025年2Q:7.4兆ウォン」 ⇒ 「2026年2Q:7.9兆ウォン」と、前年比ではわずかに増えただけです。
したがって
GDP +3.7%
↓ 交易条件効果
GDI +15.7%
↓ 海外純所得はほぼ横ばい
GNI +15.6%
――です。
今回の+15.6%は、ほぼ完全に「交易条件効果による」GDIの急増で説明できます。
韓国民がその分豊かになったのか?
では韓国の国民が15.6%豊かになったのか――というと、これは違います。
「実質GNI +15.6%」は、韓国家計の実質所得が15.6%増えた――ではありません。
『韓国銀行』の添付資料を見ると、実質家計総処分可能所得は、
「前年同期比:+5.5%」
――にとどまっています。
「GNI +15.6%」との間には約10ポイントもの差があるのです。
ここが非常に重要な点です。
半導体価格上昇によって得られた所得は、まず半導体企業の売上・利益として現れます。すべてが直ちに家計賃金や消費に流れるわけではありません。
実際、『韓国銀行』KOBイシューノートの分析(前述)でも、今回の交易条件改善の恩恵がITなど特定産業に集中しており、半導体産業は生産・雇用誘発効果が比較的小さく、製造装置の輸入依存や海外直接投資も国内への波及を制約すると指摘しています。
したがって今回の数字を要約すれば、
「韓国は半導体を大量に作ってGDPを増やしただけでなく、その半導体を以前より圧倒的に有利な価格で売れるようになった。
その『値上がりによる購買力増加』がGDP統計には十分現れず、GDI・GNIに現れた」
――となります。しかし派手な数字なものの、韓国民の肌感覚からは遊離した数字です。半導体企業がいくら儲けようとも韓国はどん底景気から回復してはいません。
(吉田ハンチング@dcp)





