2021年07月14日、「韓国版ニューディール」1周年(?)を記念し、文在寅大統領がその成果を誇り、「2.0」に拡張する演説を行いました。
しかも予算規模をこれまで予定していた「160兆ウォン」(約15兆3,600億円)から2025年までに「220兆ウォン」(約21兆1,200億円)に拡大するというのです。
この演説には突っ込みどころ、隙がけっこうあります。幾つか挙げてみます。
(前略)
雇用のセーフティネットと社会安全網もしっかり構築を行っています。
(後略)
行っていません。Money1では何度もご紹介しているとおり、雇用保険基金は事実上破綻していますし、雇用は回復しているという統計庁の発表にもかかわらず、失業給付は1兆ウォン超えで高止まっています。
また、雇用保険改革も行っていません(芸術家を雇用保険に加入できるようにして保険料を稼ごうという改正は行いました)。
(前略)
データ、ネットワーク、人工知能事業への投資が拡大しており、世界最大の海上風力発電団地、浮遊式洋上風力団地などの大規模な再生可能エネルギーへの投資計画が発表されています。
(後略)
施設を造って電力生産を拡大しても送電網が脆弱であるため、消費地に送ることができません。クリーンエネルギー政策は勇ましいですが、ロジスティクスの部分が欠落しています。
(前略)
民間ニューディールファンドが継続的にリリースされており、「国民参加ニューディール・ファンド」は、早期に完売しました。
(後略)
ここで言及されている国民参加ニューディールファンドは、「ポリシー型ニューディール・ファンド」で2,000億ウォン規模のもの。
確かに早急に完売しました。
これは、先にご紹介したとおり、政府と運用会社が劣後出資しており、「21.5%の損までは政府と運用会社が損をかぶる」という仕組みになっているためです。
事実上の元本保証ですから完売するのも当然です(ちなみに元本保証をうたうのは違法です)。
2021年下半期にも同じファンドで資金を集める予定だったのですが、規模は半分の「1,000億ウォン」になりました。
理由は劣後出資する資金が政府と運用会社にないという情けない事態になっているからです。
そもそも計画ではこのファンドは「13兆ウォン」の予定でした。まだ3,000億ウォン(2,000億ウォン + 1,000億ウォン)規模が見えた段階ですでに息切れしているのです。この先どうなるのか、国民でなくても暗澹たる気持ちになるでしょう。
しかも劣後出資ぶんは政府のお金ですので、結局のところ国民の税金で賄われているのです。
(前略)
韓国版ニューディールの「デジタルニューディール」と「グリーンニューディール」に追加して、「ヒューマン・ニューディール」をもう一つの新しい柱に立てます。「ヒューマン・ニューディール」は、雇用のセーフティネットと社会安全網を一層拡大し、発展させるものです。
これにより、韓国版ニューディールは、デジタル、グリーン、ヒューマンという三本柱となり、地域のバランスの精神を実践する包括的な国家プロジェクトとして一歩進化しました。
進化していません。「ヒューマン・ニューディール」の中身は、これまで進めてきた文政権なりの雇用対策を韓国版ニューディールに編入しただけです。つまり、パッケージを変えただけで、新しいものでも効果が出ているものでもありません。
(前略)
国民参加型ニューディール・ファンド1,000億ウォンを追加で造成して韓国版ニューディールの成果を国民と共有します。
(後略)
この「1,000億ウォン」のファンドは上記のものと同じです。政府と運用会社にお金がないので、劣後出資20%で組成されます。何度も指摘して恐縮ですが、もともと13兆ウォンの予定だったのです。この先どうするつもりなのでしょうか。
長くなるのでこれぐらいにいたしますが、韓国版ニューディールなるものは次期政権になっても続くのでしょうか。ここまでの成果はあまりにも不毛です。
言うのは簡単ですが、増やした60兆ウォンをどこで調達するのか?という財源の問題もあります。つまり韓国政府の債務増が必至です。
(吉田ハンチング@dcp)