アンカーが「徳政令」とタイトルに付けていますが、借金がまるっと全部棒引きになるわけではありませんし、また借金を割り引きにしてくれるシステムはすでに韓国にあります。今回あらためてご紹介するのは、システムをより利用しやすく改編するからです。
保証付き融資は脆弱層向けなものですが……
2021年12月29日、韓国の『金融委員会』のコ・スンボム委員長は、「小商工人・庶民の再起支援のための保証付き融資信用回復支援強化業務協約式」に出席。
「保証付き融資」の改善案について議論を行いました。これが借金棒引きが可能な融資システムです(全額チャラにできるわけではありません)。コ長官はこれを改善して棒引きをより簡単に行えるようにしようと指示を出したのです。
「保証付き融資」というのは、『信用保証基金』『庶民金融振興院』などの公共金融機関が保証して、庶民や所得が脆弱な人々にお金を貸すシステムです。
お金を借りた人が返済できなくなると、これら公的な保証機関が代位弁済(債務者に代わって支払い)を行ってくれるのです。ただし、代位弁済となると借りた人の社会的な信用はゼロになって、新規に融資を受ける(新規に借金をする)なんてことはできなくなります。
ですから、たとえ代位弁済になったとしてもできる限り借金を返済するにしくはありません。そこで利用できるのが「借金の元本の減免措置」です。
借金の元本を最大70%減免できる
現在、『信用回復委員会』と金融会社・保証機関との協約によって、「償却された債権」は最大70%、「未償却の債権」は最大30%の元金減免を受けることができるようになっています。
「債権の償却」というのは、倒産した取引先や経営が破綻した取引先に対して持っている債権を、もう回収できないとして損失計上することです。
「未償却の債権」というのは、回収不能が見込まれる債権だけれども、まだ償却の処理をしていない債権のことです。
つまり、「もうこれは返してもらえない」と貸した側がギブアップしてその債権を償却した場合、借金の元本の最大70%を割り引いてもらえるのです。例えば1,000万ウォン借りていれば、300万ウォンに減らすことができるのです。
また、「これはもう返却してもらえないだろうけど、また償却処分には至っていない」という債権については、借金の元本の最大30%を割り引いてもらえるというわけです。
ところが、今回の「改善」によって、代位弁済が始まって1年以上が過ぎた全ての融資案件について最大70%の元本の減免措置が受けられるようになります(償却・未償却を問いません)。
『金融委員会』はこの措置によって約2.1兆ウォン(30万件)が減免措置の適用になると見ています(約2,037億円)。
また減免措置の基準も緩和されます。
現在の保証部融資では、延滞後3カ月が経過すると代位弁済となり、代位弁済が始まって1年以上たつと減免手続きを申請することができます。しかし、今後は代位弁済開始後6カ月で申請できるようになります。
つまり、延滞から最短9カ月で元本減免措置の申請を行えるようになるのです。
『金融委員会』はこの措置によって約0.8兆ウォン(7.2万件)のが減免措置の対象になると見ています(約776億円)。
上記と合わせると、計約2.9兆ウォン(37.2万件)の融資が減免を受ける可能性があります(約2,813億円)。
モラルハザードが起きないか
『金融委員会』は減免措置で庶民、所得の脆弱層を救います、などと書いていますが、貸した側からすれば不良債権が拡大する話ですし、お前らがかぶれという内容です。
また、借金の棒引きの話なので、いくら「全額チャラになるのではない」とはいえ、生真面目に借金を返済している人からすれば「ふざけるな」と怒っても当然の話です。
韓国では時に「徳政令」の話が出ますが、「まじめな人が馬鹿を見る」のであれば、誰も借金をまともに返済しなくなってしまいます。そのようなモラルハザードが起こる国はまともとはいえないでしょう。
韓国政府は家計負債の急増を気にしているのでしょうが、さて今回の『金融委員会』の決定は波紋を呼ばないでしょうか。
(吉田ハンチング@dcp)