韓国で(事実上の)徳政令の準備が進んでいます。
これは、コロナ禍で経済的苦境に陥った小商工人・個人事業主への「融資の満期延長、元利償還の猶予」措置が2022年09月末で終わることへの対応です。
この措置が終わると「はい、借金を返済してください」となりますので、「無理」な人が債務整理を行うために実施されます。
30兆ウォン規模の「新出発基金」を組成し、ここで不良債権を引き受けます。この基金がいわゆるバッドバンクの役割をするわけです。
債務の元本を「60~90%」減免することが可能ですが、条件があります。先にご紹介した際には、条件部分が規定されていませんでした。
9割も減免したらほとんど「棒引き」で、苦しみながらもきちんと借金を返済している人と比較してフェアではない、という声が上がったので修正を加えたのです。
もともと「モラルハザードが起こるのでいかがなものか」という批判がありましたから、これは当然の修正といえます(もちろん韓国なので「何を今さら」ではあります)。
モラルハザードを防ぐために修正した結果
韓国の金融委員会の発表によれば、まず「不良借り主」と「不良懸念借り主」に分けて対応します。
「不良借り主」は「すでに90日以上、債務返済を滞納した人」で、この場合は60~90%減免の対象となります。ただし、負債よりも資産が多い場合は対象になりません。
対象はあくまでも「純負債」です。
また、減免率は所得に対する純負債の比重と経済活動可能期間、さらには返済期間などを考慮して最大80%までの適用です。
減免率90%が適用されるのは、基礎年金の受給者、重度の障害者、満70歳以上の低所得高齢者など、償還能力がほとんどない脆弱層のみです。
一方の「不良懸念借り主」は、廃業したり長期間休業したりで債務返済が困難な人を対象とします。延滞期間に応じて金利を下げる計画です。
つまり、決まった金利以上の部分については政府が負担するわけです。
延滞が30日に及ばず、9%を超える融資を受けていた場合、金利を9%まで下げます。
30日以上延滞している借り主の場合も、一定の金利に調整する機会を設ける計画となっています。具体的な金利は09月末に決まりますが、返済期間が短いほど金利は低くなる予定です。例えば、
3年以下:3%後半
3~5年:4%半ば
※あくまでも2022年08月28日時点での予定
といった金利が予定されています。
尹政権が間違ったことをしているわけではない
念のために付記しますが、尹錫悦(ユン・ソギョル)政権は、特に経済的に間違ったことをしているわけではありません。
というのは、そもそも「満期延長、元利償還の猶予」措置が長すぎたのです。
2020年04月から始めて2.5年でやっと終わるのです。小商工人、個人事業主の皆さんには申し訳ないのですが、前文在寅政権がどう処理するのかを決めて財源の手当をしておくべきでした。文政権時代ならまだしも財政に余力がありましたので、「文在寅なら仕方がない」でバッドバンク作りもなんとかできたでしょう。
尹錫悦(ユン・ソギョル)政権には財政的な余力は全くありません。先にご紹介したとおり、上半期の時点ですでに管理財政収支の赤字が100兆ウォンを超えています。税収は増えているのですが、その分の行き先はもう決まっています。
韓国史上最大の第2次補正予算の財源に充ててしまったのです。
しかし、(事実の)徳政令はやらざるを得ません。金融機関の健全性を損ねる事態にまで進むと、本当に「おしまい」だからです。
不良債権化するかもしれない133.4兆ウォン(しかも2022年01月末時点の数字なので現在はもっと膨らんでいるはず)がせき止められており、2022年09月末にダムがぱっとなくなるのです。
10月になったら津波が押し寄せてくるかもしれません。
何%が不良債権になるのか分かりませんが、133.4兆ウォンといえば、韓国政府の支出を約600兆ウォンとして、「約22.2%」にも達する金額です。
金融機関の不良債権の激増、おまけに小商工人・個人事業主の大量破綻というような事態になれば、韓国経済の屋台骨が揺らぐ危険性があります。
これを防ぐためには、政府が出張って不良債権を引き受けるしかないのです。
ですから、尹政権の行っていることは特に間違っていません。
しかしながら、このように徳政令に類したものを定期的(?)に出さないと国が回らないかもしれない――というのは、やはりおかしな話です。
「徳政令の頻出」もまた「OINK」(Only IN Korea:韓国でしか起こらないこと)の一例といえるのではないでしょうか。
(吉田ハンチング@dcp)