2024年10月29日、欧州委員会は以下のプレスリリースを出しました。
中国産の電気自動車が不当な補助金を受けて競争力を高め、その結果安価で欧州に入ってきており、現地欧州メーカーの業績を悪くしている――という件についての調査が「完全に終了」し、予定どおり即発効(官報の翌日)という結果となりました。
一応、プレスリリースの全文和訳を下掲しますが、基本的に課せられている関税10%にプラスして、17.0~35.3%の追加関税がオンされます(『テスラ』は7.8%)。
つまり、最も重い場合には45.3%の関税が掛けられ、ほぼ1.5倍の価格になるわけです。これでイナゴのような中国産自動車の欧州への流入がどのくらい止められるか?――です。
欧州委員会は「現行の措置が回避されないよう徹底するなど、措置の有効性を監視していく」とし、中国企業が「迂回輸出」などの姑息な手を講じようとも、それを遮断するという意思を示しています。
欧州委員会は本日、中国からのバッテリー電気自動車(BEV)の輸入に5年間の期限付きで確定的な相殺関税を課すことで、補助金反対調査を終了した。
以前に公表されたように、調査により、中国のBEVバリューチェーンが不当な補助金の恩恵を受けており、それがEUのBEVメーカーに経済的損害を与える恐れがあることが判明した。
その結果、関税は官報での発表の翌日から発効する。
同時に、EUと中国は、調査で特定された問題に対処するのに効果的であろう、WTOに準拠した代替解決策を見つけるべく引き続き取り組んでいる。
欧州委員会はまた、EUおよびWTOの規則で認められているとおり、個々の輸出業者との価格交渉にも前向きである。
相殺関税は5年間課せられる
措置の発効後、サンプル調査の対象となった中国の輸出生産者は、以下の相殺関税の対象となる。BYD:17.0%
吉利:18.8%
SAIC:35.3%その他の協力企業には20.7%の関税が課せられる。
個別調査の根拠のある要請を受けた後、『Tesla(テスラ)』には7.8%の関税が課せられる。その他の非協力企業には35.3%の関税が課せられる。
確定関税は発効と同時に徴収される。 2024年07月04日に中国からのBEV輸入に課された暫定関税は徴収されない。
対策の有効性と公平性の確保
今後、委員会は、現行の措置が回避されないよう徹底するなど、措置の有効性を監視していく。協力し、サンプル平均関税の対象となる輸出生産者、または新規輸出者は、個別の関税率を確立するための迅速審査を要請する権利がある。
この措置は、期限切れの見直しがその日付より前に開始されない限り、5年の期間の終了時に失効する。
輸入業者は、輸出生産者が補助金を受けていないと考える場合、または補助金の差額が輸入業者が支払った関税より少ない場合、払い戻しを請求することができる。
このような請求は、それぞれの証拠によって適切に立証され、裏付けられる必要がある。
背景
この調査は、2023年09月13日の欧州連合(SOTEU)演説で、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長によって発表された。この決定は、中国からEUへの低価格電気自動車の輸出が最近急増していることを示す証拠が増えていることに基づいている。
委員会は、EUとWTOの規則に沿って厳格な法的手続きに従い、中国政府、企業/輸出業者を含むすべての関係者がコメント、証拠、議論を提示できるようにした。
⇒参照・引用元:『欧州委員会』公式サイト「EUは不当に補助金が支給されている中国製電気自動車に関税を課す一方、価格協定に関する議論は続く」
面白いのは、これで中国産電気自動車の調査は終了したけれども、「EUと中国は、調査で特定された問題に対処するのに効果的であろう、WTOに準拠した代替解決策を見つけるべく引き続き取り組んでいる」とし、中国政府との交渉は「やぶさかではないよ」と表明していることです。
また、上掲の「個々の輸出業者との価格交渉にも前向き」としている点も注目ポイントです。
つまり、欧州委員会は個別の電気自動車企業と交渉して各個撃破してやろうという意図を見せています。
この点を覚えていてください(最後にまた出てきます)。
この最終決定が出たことに、さんざん欧州委員会にかみつき、泣き言・非難を繰り返してきた中国はブーブー文句を言っています。
中国はブーブー文句を言う!
2024年10月30日、中国の商務部は「欧州委員会の決定」についての非難声明を出しました。以下をご覧ください。記者団からの質問に答えた――という形になっています。
質問:
現地時間10月29日、欧州委員会が中国製電気自動車に対する反補助金調査の最終決定を発表しました。中国側の見解を教えてください。回答:
欧州側の発表には注目していますが、中国側は、欧州連合による中国製電気自動車への反補助金調査には、多くの不合理かつ規則違反があると繰り返し指摘してきた。これは「公正な競争」を名目にした「不公正な競争」であり、保護主義的な行為である。
中国はこの裁定結果を認めず、受け入れない。
また、世界貿易機関(WTO)の紛争解決機構に提訴している。
中国は引き続き、必要な手段を講じて中国企業の合法的権利を断固として守る。
また、欧州側が価格保証に関する協議を続ける意思を示している点も注目している。
中国側は一貫して、対話と協議による貿易紛争の解決を主張しており、そのための最大限の努力を行っている。
現在、双方のチームが新たな段階の協議を行っているところであり、欧州側が建設的な姿勢で協力し、「実務的でバランスの取れた」原則に基づき、お互いの重要な懸念を尊重し、貿易摩擦の拡大を避けるために、早期に双方が受け入れ可能な解決策を見出すことを望んでいる。
中国商務部は「この決定を受け入れない」と述べていますが、受け入れないも何も、もう発効されました。5年間継続されます。
面白いのは「中国当局が自国の自動車メーカーに欧州政府との個別投資議論を避け、集団的な対話を進めるべきだと要請したと伝えられた」という報道が出ていることです。
これは中国政府から(中国電気自動車メーカーへ)の「各個撃破されるんじゃねーぞ」というメッセージです。
Money1でもご紹介したとおり、中国産の電気自動車は4割が欧州に輸出されています。そのため、欧州で電気自動車が締め出されると、中国は壊滅的な打撃を受けることになります。
これを回避するために、中国は必死です。
しかし、この交渉については欧州委員会の方が一枚上手のようです。
(吉田ハンチング@dcp)