2025年11月14日、韓国の大統領室が米韓関税交渉が妥結したとし、共同ファクトシートを公表しました(それを裏付ける文書がホワイトハウスが公表)。
この公表記者ブリーフィング時に、金容範(キム·ヨンボム)政策室長は「非関税関連の具体内容については、産業通商資源部長官と通商交渉本部長が本日午後3時に詳細にブリーフィングする予定です。参考にしてください」と述べました。
この産業通商資源部の金正官(キム·ジョングァン)部長(長官)による説明を以下に和訳します。
ホワイトハウスが公開した共同ファクトシートにはないことまで述べているので要注目です。
以下に引きます。長文になりますので、面倒くさい方は、強調文字の部分だけでもご注目ください。
産業通商資源部(産業通商部、以下「産業部」)は14日、金正官(キム·ジョングァン)長官がハワード・ラトニック米商務長官と共に3,500億ドルの戦略的投資運用に関する詳細内容の合意を土台として、去る07月30日の関税協商大枠合意から3カ月半ぶりに、韓米戦略的投資に関する了解覚書(MOU)に署名したと明らかにした。
◆ 韓米戦略的投資了解覚書の主な内容
3,500億ドルの戦略的投資(Strategic Investment)は、総額2,000億ドルの投資と、わが企業の直接投資(FDI)、保証、船舶金融などを含む1,500億ドルの造船協力投資で構成される。
投資事業は、米商務長官が委員長を務める投資委員会の推薦を受けて、合衆国大統領が選定する。ただし投資委員会は事前に、韓国産業部長官が委員長である協議委員会と協議し、商業的に合理的(commercially reasonable)な投資だけを米国大統領に推薦する。
ここでいう商業的合理性のある投資とは、投資委員会が信義誠実の原則に従って判断したとき、十分な投資資金の回収が保証される投資を意味する。
協議委員会は、事業関連の各国の戦略的・法的考慮事項について投資委員会に意見を提出し、両国の国内法と抵触してはならないという MOU 第26項に従って、法的考慮事項を提示していく。
投資分野は、両国の経済と国家安全保障上の利益を増進させる分野であり、造船、エネルギー、半導体、医薬品、重要鉱物、人工知能・量子コンピューティングなどである。
事業選定は、トランプ大統領の任期が終わる2029年01月までに行う。
事業推進に必要な資金は、合衆国から投資先選定の通知を受けた日から最少45営業日(business days)が経過した日に払い込む。
わが方が米国からの投資金払い込み要請を履行できない場合、合衆国は、わが方が未払いの投資金額を埋め合わせるまで、わが方が受け取るはずの利子を代わりに受け取ることになり、関税が引き上げられることもありうる。
わが方が MOU を誠実に履行している間は、今回の合意による関税水準を維持することになる。
2,000億ドルの投資は、外国為替市場の負担を軽減するため、年間200億ドルの上限で、事業進捗度(milestone)に応じた資金要請(capital call)方式で支出し、外国為替市場の不安などが懸念される場合には、払い込み時期や規模の調整を要請できるようにした。
合衆国は、事業推進に必要な連邦土地の賃貸、水・電力の供給、購買契約のあっせんおよび規制手続きの加速化のために努力することにした。
合衆国は、全体プロジェクト管理のための投資 SPV(特別目的法人、Special Purpose Vehicle)を設立し、個別プロジェクトごとにプロジェクト SPV を設立する。
投資SPVは、多数の個別プロジェクト SPV を管理するアンブレラ(Umbrella、傘型)SPV 的性格を有し、個別プロジェクトで発生する収益は当該プロジェクトSPVが受け取り、投資 SPV は全てのプロジェクト SPV の収益を取りまとめて、韓国が投資した元金と利子を償還する。
すなわち、リスクを統合管理するリスク・プーリング(risk-pooling)構造であり、特定プロジェクトで損失が発生したとしても、他の成功プロジェクトを通じて収益補填が可能となるようにした。
投資収益の配分は、元利金償還前までは韓国と合衆国にそれぞれ5対5の割合で配分し、元利金償還以降からは韓国と米国にそれぞれ1対9の割合で配分する。
ただし、20年以内の全体元利金償還が困難と見込まれる場合、収益配分比率の調整も可能とした。
償還金利は、基準金利とスプレッド(加算金利)の合計で構成されるが、基準金利は合衆国の国債20年物の固定金利を適用し、スプレッドの上限は、合衆国・日が合意したスプレッドに30ベーシスポイント(bp)を加えた値を適用することにした。
合衆国は、プロジェクトに商品・サービスを提供するベンダーおよびサプライヤーを選定する際、韓国企業を優先しなければならず、個別プロジェクトごとに、可能な範囲で韓国が推薦する韓国人プロジェクトマネージャーを選定しなければならない。
また、投資履行過程で紛争や対立が発生した場合、協議委員会などを通じて、最大限友好的に解決していくことにした。
投資委員会が承認した事業について、韓国政府は直接または協議委員会を通じて、造船分野の民間投資、保証、船舶金融などを支援(facilitate)する。
これは2,000億ドル投資と同じ収益配分方式を適用せず、発生する全ての収益がわが企業に帰属する構造である。
造船協力投資についても、合衆国は連邦土地の賃貸、水・電力供給、購買契約のあっせんおよび規制手続きの加速化のために努力することにした。
◆ 関税引き下げ
戦略的投資に関する了解覚書締結とともに、米国は、わが方がこれまで要求してきた関税引き下げを共同説明資料(ジョイント・ファクトシート)に明示し、これを施行する。合衆国はすでに相互関税を15%に引き下げ、去る08月07日から施行しており、MFN(最恵国待遇)関税が15%を超える品目についても、米韓FTA(自由貿易協定)を満たす場合には15%の関税のみを賦課することを明確にし、FTA締結国としての利点を再確認した。
現在賦課中の韓国産自動車・部品に対する232条関税は15%に、木材製品に対する232条関税は最大15%に調整する。
今後賦課が予告されていた医薬品232条関税は最大15%を適用し、半導体(半導体装備を含む)232条関税については、合衆国がわが主要競争対象(台湾)と今後妥結する合意より不利ではない条件を付与することにした。
併せて、特定の航空機・部品については相互関税と鉄鋼・アルミニウム・銅の232条関税を免除し、ジェネリック医薬品(原料・前駆体を含む)、一部天然資源など戦略品目についても相互関税を免除することにした。
関税引き下げの発効時点は、自動車・部品関税については、戦略的投資MOU履行のための法案が国会に提出される月の01日付で遡及適用することで合意した。
木材製品232条関税引き下げ、そして航空機・部品に対する相互関税と、航空機・部品に入る鉄鋼・アルミニウム・銅関税の免除は、戦略的投資MOU署名日から発効する。
ジェネリック医薬品、一部天然資源など戦略品目に対する相互関税免除は、年内に開催することにした米韓FTA共同委員会で、共同説明資料に含まれた非関税関連履行計画に合意する時点から適用することにした。
◆主な成果および評価
今回の米韓戦略的投資に関する了解覚書への署名と関税引き下げによって、まず、わが国の対米輸出とわが経済の不確実性を緩和した。主力輸出品目である自動車と医薬品について、232条関税15%を確保し、半導体232条関税についても主な競争対象である台湾より不利ではない待遇を確保して、輸出の不確実性を緩和した。
これに加え、去る07月30日の米韓関税協商合意には含まれていなかった木材製品、特定航空機・部品、ジェネリック医薬品、一部天然資源など戦略製品に対する関税引き下げと撤廃も追加で確保した。
続いて、商業的合理性を考慮して元金回収可能性を高める装置を設けた。
合衆国が商業的合理性のあるプロジェクトのみを推進できるようにし、特定プロジェクトで発生した損失を他の成功プロジェクト収益で補填できる構造を反映した。
元利金償還が困難と見込まれる場合には、わが方の収益配分比率を高めて償還可能性を高めることができるようにもした。
また、外国為替市場に対する負担を軽減した。
投資は、合衆国側が当初要求していた3,500億ドルから2,000億ドルへと43%縮小し、2029年01月までに投資を行うとの約定(事業選定)のみを行ったが、これは実際の資金払い込みとは異なる。
年間払い込み限度は最大200億ドルであり、事業進捗度に応じて払い込みが行われる予定であるため、資金調達も長期間にわたって進行される。
併せて、わが企業の対合衆国進出拡大の基盤を整えた。
特に、プロジェクト推進過程で、連邦土地の賃貸、水・電力供給、購買契約のあっせんおよび規制手続きの迅速な進行など、合衆国側の有形・無形の支援を確保し、合衆国が可能な限り韓国企業を選定し、韓国が推薦する韓国人プロジェクトマネージャーを採用するようにして、わが企業の米国でのビジネス機会が拡大されると期待される。
米韓造船協力(MASGA)についても、わが企業が主導的に推進できる基盤を整えた。
両国は熾烈に協商し、ときには立場の隔たりが埋まらず膠着状態にも陥ったが、結局は、わが国力が許す範囲内で商業的合理性の原則の下で事業を推進できるよう、相互互恵的な合意に至った。
その結果、今回の関税合意は、両国間の信頼関係が一層堅固になった契機となり、政府は今回の合意の精神を土台として、今後の戦略的投資MOU履行過程において、相互互恵的なプロジェクトによって産業・サプライチェーン協力をさらに加速させるものと期待している。
金正官(キム·ジョングァン)産業部長官は、「この3カ月半の間、関税協商を見守りながら応援してくださった国民の皆さまに感謝の言葉を申し上げ、特に政府とワンチーム(one team)として共にしてくれた企業人にも深い感謝の意を表します」と述べ、「これまで関税協商過程で苦楽を共にしてきた企画財政部などの関係部署や韓国銀行などにも謝意を表し、3,500億ドルが国益にかなうように使われるよう最善の努力を尽くす」と強調した。
MOU公開の非対称性も問題
合衆国のかけた25%関税が15%に下がることは決まったのですが、問題は「いつから」です。EUおよび日本は訴求して関税引き下げ分が還付されることになりました。
ところが、韓国は(最も重要視された)自動車および自動車部品について、関税引き下げは「戦略的投資MOU履行のための法案が国会に提出される月の01日付で遡及適用することで合意した」となっています。
この表明は、とりもなおさず「そもそも妥結なんかしていなかったんじゃないのか」が想起されます。
また、「木材製品232条関税引き下げ、航空機・部品に対する相互関税と、航空機・部品に入る鉄鋼・アルミニウム・銅関税の免除」については、「戦略的投資MOU署名日から発効する」と述べています。

↑2025年11月14日、韓国の産業通商資源部が公開した「MOU」なのに、この文書には「非公式翻訳版」というハンコが押されています。
先にご紹介したとおり、韓国の産業通商資源部は「MOUは締結された」として、その内容を公開したのですが(2025年11月14日)、そこには「非公式翻訳版」と書かれています。
早い話が、これに対応する文書を2025年11月15日現在、合衆国政府およびホワイトハウスはいまだ公開していないのです。
なぜ、このような非対称な対応になったのか、そもそもここが不明です。
(吉田ハンチング@dcp)






