保険基金が枯渇して政府が負担に耐えられない
韓国は「低負担・低福祉」の国で、福祉にはそこまでお金をかけずにきました。被保険者は保険料が少なくて済みますが、そこまで手厚く保護を受けられるわけではありません。
それでよしとしてきました。
しかし、人口が減少傾向に向かって寿命が長くなると、健康保険や老齢年金において、徴収できる保険料(収入)は減少して治療費・年金支払い(支出)が増加することになります。
こうなると、社会福祉基金にお金がなくなり、政府の補てん額が増加して財政を圧迫します。
実際、社会的セーフティーネットの一つである雇用年金基金(失業保険の給付を行う基金です)は、すでに事実上枯渇しています。他の基金からお金を融資してもらわないと失業保険(韓国では求職給付)を支払えなくなっているのです。
韓国は2020年から人口の自然減少フェーズに入っており、健康保険・老齢年金・雇用保険のどれもが破綻する可能性があり、システムをどう変えるのかを早急に議論する必要があるのです。
すでにご紹介したとおり、李昌洙(イ・チャンス)崇実大教授は「現在の年金制度は一種のポンジ・スキーム(出資金詐欺)のようで、後世代に負担を転嫁するものだ」と指摘していらっしゃいます。
所得税を上げるしかない?
そこで、福祉関連支出を賄(まかな)うために「所得税改革を行うべき」という話が出ているのです。簡単にいえば所得税を増税して拡大する福祉関連支出に充てようというわけです。
韓国の所得税の税収額は、他の国と比較して低い水準にあるから――というのがその理由です。
対GDP比で所得税の額を比較してみると以下のようになるのです。
所得税の税収額「対GDP比」
韓国:4.9%
日本:6.1%
フランス:9.4%
アメリカ合衆国:10.0%
ドイツ:10.5%
スウェーデン:12.9%
デンマーク:24.1%※2018年のデータ
データ出典:『OECD』(Organisation for Economic Co-operation and Developmentの略:経済協力開発機構)
ご覧のとおり、韓国は低い方です。そのため、これを上げるのが良いのではないかというわけです。
ただし、韓国の場合には上に挙がった国のどこよりも速く人口が減少し、老いていきます。そのため、高負担にしたところで現在の給付水準を維持でできるだけ、あるいはそれもできないという結果になれば、「高負担・低福祉」の国になる可能性があります。
日本も他人事ではないのですが、韓国の場合、手を打つのが遅きに失した感があります(まだ打っていないのですがね)。
(吉田ハンチング@dcp)