韓国の文在寅大統領がバチカン市国を訪問し、ローマ教皇に謁見しました。韓国の青瓦台・大統領府の公表によれば、教皇は「北朝鮮からの招きがあれば喜んで行く」とおっしゃったことになっています。
これについて、「教皇庁からの公式発表には教皇がそのような発言したとは書いていない」と指摘が出ています。
まず、バチカンの公式なニュースを伝える『VATICAN NEWS』では、文大統領と教皇との会談について以下のように書いています。
<<以下は全文和訳>>
教皇、韓国の文在寅大統領を謁見
<<以下リード部分>>
教皇フランシスコは、韓国の文在寅大統領と会見しました。文大統領は、週末にローマで開催される『G20』に他の世界の指導者と共に参加します。<<以下本文>>
教皇フランシスコは金曜日、バチカンの使徒宮殿で韓国の文在寅大統領に謁見しました。その後、韓国大統領はバチカン国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿と、対国家関係長官のポール・リチャード・ギャラガー大司教を伴って会談しました。
バチカン報道部(『Holly See』)の声明によると、友好的な話し合いの中で、両国間の良好な関係と、カトリック教会が社会に提供している積極的な貢献に感謝の意が示され、特に韓国人同士の対話と和解の促進に熱心に取り組んでいることが明らかになった」とのことです。
これに関連して、共同の努力と善意が、連帯と友愛に支えられた朝鮮半島の平和と発展をもたらすことへの期待がさらに共有されました。
その後のディスカッションでは、現在の地域情勢や人道的問題に関する幾つかのテーマについて意見交換が行われました。
贈り物の交換
教皇フランシスコと文大統領は贈り物を交換しました。教皇フランシスコは文在寅大統領に、ベルニーニが設計したサンピエトロ広場を描いたブロンズメダル、教皇文書、2021年世界平和の日のメッセージのコピー、アブダビで署名された人間の友愛に関する文書、バチカン出版社が発行した2020年03月27日のスタティオ・オルビスに関する本を贈りました。
文在寅大統領は、教皇に応え、北朝鮮との国境にある非武装地帯の有刺鉄線で作られた十字架を教皇に贈りました。
韓国大統領は、10月21日~30日に開催される『G20』サミットのためにローマに滞在しており、スコットランドのグラスゴーで開催される国連COP26気候変動会議に向かうための最初の目的地となっています。
⇒参照・引用元:『VATICAN NEWS』公式サイト「Pope receives South Korean President Moon Jae-in in audience」
※強調文字は筆者による(以下同)
韓国側が「教皇に北朝鮮を訪問するように要請した」のは窺わせますが、「北朝鮮」という言葉すら出てきません。「韓国人同士の対話と和解」「朝鮮半島」という表現で代替されています。
バチカン報道部も「北朝鮮」という単語すら使っていない
このニュースの大本となる公式なプレスリリースは以下のようになっています。
<<以下は全文和訳>>
本日、2021年10月29日(金)、バチカン使徒宮殿で、フランシス教皇は聴衆の中に、韓国の文在寅大統領を迎え、その後、国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿と、対国家関係担当長官のポール・リチャード・ギャラガー大司教閣下を伴って面会しました。
心のこもった議論の中で、両国間の良好な関係と、カトリック教会が社会に提供する積極的な貢献に感謝の意が表明され、韓国人同士での対話と和解の促進に特別な努力が払われた。
この点で、連帯と友愛に支えられて、共同の努力と善意が朝鮮半島の平和と発展に有利に働くかもしれないという期待が共有された。
その後、会談により、現在の地域情勢や人道問題に関する幾つかのテーマについて意見交換が行われました。
バチカンニュースは、このプレスリリースのママを伝えており、やはり大本のプレスリリースにも「北朝鮮」という単語はありません。
韓国の文在寅大統領が「北朝鮮を訪問してほしい」と要請したのは確かでしょうが(金大中大統領からの伝統で言わないわけがありません)、教皇が「喜んで北朝鮮を訪問しよう」などとおっしゃったのかは不明です。
ただ、北朝鮮という単語すら使っていないことから、少なくともバチカンが本件をデリケートな問題と考えていることは確かです。
文大統領は自身もカトリックなので、もし教皇の発言をねつ造したのであれば大問題。さすがにねつ造はないかと思うのですが、しかし可能性は否定できません。韓国の大統領府が文大統領の以降を受け、教皇のリップサービスを拡大解釈して報じた可能性もあります。
南国出身の教皇は冬には行かない
本当に教皇がそんなことをおっしゃったのか……という疑問は、前期のとおり韓国メディアからも上がっています。さすがに、青瓦台・大統領府もこの疑問を払拭しなければと考えたのでしょう、報道官からの回答が韓国メディアで報じられています。
しかし、それはひどいものです。以下に『朝鮮日報(日本語版)』の記事から引用します。
青瓦台(大統領府)の朴ギョン美(パク・ギョンミ)報道官は2日(現地時間)、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が主導したローマ教皇フランシスコの訪朝推進と関連して、「教皇は暖かい国であるアルゼンチンの出身なので、冬に動くのは難しいと承知している」と述べた。
文大統領が教皇に会った後、教皇訪朝がすぐに実現するかのように言及したが、基調が変わったものだ。
青瓦台はまた、今回の文大統領の欧州歴訪で韓米首脳会談の可能性を残していたが、実現できなくなると「韓米首脳が同じ日に教皇に会ったため、間接会談効果がある」とも述べた。
(後略)
「承知している」じゃないだろ、という話です。
教皇は暖かい国の出身なので、北朝鮮への訪問を行うのはスグには無理――という屁理屈には呆れるより他ありません。スグにでも教皇が北朝鮮を訪れるという大統領府の公式発表はなんだったのでしょうか。
一方の米韓首脳会談が開催できなかった言い訳もひどいものです。
バイデン大統領が教皇と会い、文大統領も教皇と会っているので、バイデン大統領と文大統領は会ったも同然――というのです。
教皇をだしにして……と評されても仕方ないでしょう。
教皇は実際に訪北する可能性は……
いずれにせよ、教皇の北朝鮮訪問の可能性はほとんどないものと考えるべきではないでしょうか。
文大統領はやたらと推していますが、そもそも文大統領あるいは韓国政府が「北朝鮮からローマ教皇への正式な招待状」を持っているわけではないからです。
北朝鮮は、韓国に対して「仲裁者のような顔をやめろ」と批判したことがありますが、それは本件にも当てはまるかもしれません。
(吉田ハンチング@dcp)