先にご紹介した、韓国『サムスン電子』の株主総会が荒れる原因にもなった「GOS事態」。
これについて韓国メディアに本質を突いた報道が出ていますのでご紹介します。本件の本質は『サムスン電子』の技術的限界に問題があるのだ――という指摘です。
GOS事態は発熱問題への対処だったが……
まず、韓国でいわれる「GOS事態」について簡単におさらいしておきます(すでにご存じの方は次の小見出しまで飛んでください)。
そもそもこのGOS事態とは、『サムスン電子』がスマホの新機種S22シリーズに「Game Optimizing Service」(略して「GOS」)という機能を導入したことに端を発します。
この機能はゲームを最適化するために導入したという触れ込みだったのですが……実はこの機能によってアプリの性能が著しく落ちるということが明らかになりました。
しかも、スマホの性能をテストするためのベンチマークソフトだけは普通に動くということも判明したのです。
つまり、このスマホに搭載されたGOSという機能は、アプリの動作によってスマホが過熱しないよう「発熱対策」に盛り込まれたものと考えられるのです。
しかも最高性能という『サムスン電子』の触れ込みがウソにならないようにベンチマークソフトだけが普通に動かすというインチキを行っていたのです。
その上、GOS機能はユーザーがオフにできないようになっていました。
これらのユーザーへの背信行為によって、『サムスン電子』の新スマホは大問題になりました。
結局、GOS機能はオフにできるようにソフトのアップデートが行われ、先にご紹介したとおり株主総会で『サムスン電子』副社長が謝罪する羽目になったのです。
昔、筆者は電池を作っている技術者にインタビュー取材を行ったことがありますが、「電池というのは一種の爆弾みたいなものともいえます。大きなエネルギーを小さく固めるわけですから。高出力で小さくというのがニーズなので、それを突き詰めていくとますます爆弾みたいになる」とおっしゃっていたのが印象的でした。
そもそもスマホという製品はCPU、メモリー、電池、センサーなど高性能な電子デバイスを狭いスペースにぎゅうぎゅうに押し込んだものです。放熱のための仕組みを組み込むのも難しいですから、過熱への対応は非常に難しいのです。
『サムスン電子』も困ってこのような対応を行ったのかと推測されますが、しかしウソはいけません。ベンチマークアプリの会社はS22シリーズを比較対象から外すという措置まで行いました。
このGOS事態は、『サムスン電子』のズルというだけではなく、背後にもっと深刻な問題があることを示唆していると指摘したのが韓国メディア『KBS』の報道です。
記事から一部を以下に引用します。
(前略)
GOS事態の主人公は、『Qualcomm(クアルコム)』の<スナップドラゴン8 gen1>チップセット(AP)だ。4ナノプロセスで『サムスン電子』のファウンドリーが委託生産してギャラクシーに搭載した。しかし、発熱問題が浮き彫りになり、次世代チップに急速に置き換えられるものと見られる。
問題は、『クアルコム』が次のチップを『TSMC』に生産を任せたという点だ。
外信は、その理由が『サムスン電子』ファウンドリーの低い歩留まりのためだと見ている。
『サムスン電子』の4ナノ工程の歩留まりは30~35%台と推定されるが、これは製品100個を作れば不良品が60個以上という話だ。
一方、『TSMC』は歩留まりが70%台で安定している。
『サムスン電子』ファウンドリーの低い歩留まりと発熱問題などに直面した『クアルコム』がパートナー会社を変えたという話だ。
『サムスン電子』ファウンドリーは、『TSMC』と共に7ナノ以下のプロセスに入った唯一のファウンドリー企業ではあるが、低い歩留まりが示すように、依然としてプロセスと生産技術の面でかなり遅れているようだ。
『Intel(インテル)』も『Apple(アップル)』も次世代3ナノプロセス製品は全て『TSMC』に任せる。
中国のあるIT専門家はツイートを通じて「今年下半期以降、『TSMC』が生産する新しいスナップドラゴンの消費電力と性能は確実に改善されるだろう」と話した。
そうなれば、『サムスン電子』ファウンドリーの評判は大きく損なわれる可能性がある。
(後略)
『サムスン電子』のファウンドリーで製造された『クアルコム』のスナップドラゴンに問題があって、これは台湾『TSMC』(Taiwan Semiconductor Manufacturing Companyの略:台湾積体電路製造)と『サムスン電子』に技術格差があるからだ、と指摘しています。
↑『クアルコム』のスナップドラゴン。PHOTO(C)『Qualcomm』
『アップル』も『インテル』も『TSMC』にチップの製造を委託し、『サムスン電子』ファウンドリーの評価が大きく毀損されるとしています。
『サムスン電子』のシステム半導体も大きな岐路に立っているのです。
『サムスン電子』はスマホ用のAPとして「Exynos 990」を開発・製造したのですが、発熱問題が深刻なため自社のスマホに搭載するのをスナップドラゴンに置き換えたという経緯があるのです。また、新しく「Exynos 2200」を2022年になってから発表したのですが、性能も芳しくはない上に歩留まりも低かったのです。
つまり、『サムスン電子』はファンドリーとしての技術力、またシステム半導体を開発する能力においても他社に遅れをとっており、追いついてはいないというわけです。
で、上掲の記事では、「GOS事態が本当に意味するのは、サムスンの技術的優位が終わってしまったこと」としています。
まあ「頑張ってください」としかいえないわけですが。
(吉田ハンチング@dcp)