韓国の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は、前文在寅政権と異なり、親米へ舵を切りました。
就任後スグにアメリカ合衆国・バイデン大統領が訪韓し、積極的に親米外交を展開。Money1でもご紹介したとおり、『サムスン電子』『現代自動車』『SKハイニックス』が次々と合衆国への投資を表明。
合衆国が企図する中国外し・サプライチェーンの再構築について、韓国企業も乗ったということになります。
韓国政府は、尹錫悦(ユン・ソギョル)さんの公約どおりにインド太平洋経済フレームワーク、またクアッドへの参加を表明しましたし(結果はどうあれ)、明らかに合衆国を旗印とする自由主義陣営国側に立つ姿勢を見せました。
が、第2のTHAAD事態を避けたい、また中国に工場を建てて脱出できていない半導体産業のことも鑑み、今ひとつ「脱中国」の覚悟を示せていません。そのため、合衆国も「韓国は本当に我々の側なのか」という不信感を拭えないでいます。
合衆国の不信は、朴槿恵(パク・クネ)、文在寅政権で醸成されたものですので簡単に取り除くことはできません。合衆国が次々と踏み絵を迫っても別に不思議でもなんでもないのです。
合衆国にオールインしている?
しかし、現政権の姿勢を批判する声が韓国メディアにも出ています。例えば以下のような記事です。
(前略)
韓国政府と企業の動きに批判がないわけではない。中身のある資本と技術が米国にすべて吸い取られ、韓国の先端産業は空洞化させられるのではないかという懸念が代表的なものだ。
そのような心配にも関わらず、韓国政府と企業は、米国に事実上“オールイン”している。
だが、その後に展開された状況には、心配させられるばかりだ。
直後には、北米以外の地域で生産された電気自動車と中国など懸念される国家から供給されたバッテリーや主要鉱物を用いた電気自動車を消費者が購入する場合、税額控除対象から除く米国のインフレ削減法(IRA)によって、現代自動車は大きな打撃を受けることになった。
半導体分野での米国の輸出入規制など中国に対する牽制も、韓国企業に予期せぬ付随被害を与えている。
輸出全体の60%、素材輸入の60%を中国と香港に依存している韓国半導体業界としては、米国のこのような措置は無視できないほどの強い衝撃にならざるをえない。
米国は、サムスン電子とSKハイニックスに「事案別許可」という出口を開いてはいるが、不確実性は今もなお残っている。
さらに、米国の急激な金利引上げは韓国経済の基盤を揺さぶっており、為替相場安定のための米連邦準備制度理事会との通貨スワップの議論については、新たな情報はない。
(後略)
左派・進歩系メディア『ハンギョレ』ですので、そもそも親米保守系の尹錫悦(ユン・ソギョル)政権には批判的で当然ですが、合衆国にオールイン(?)が気に入らないご様子です。
この記事の主張は根本のところで間違っています。
韓国は同盟の意味を理解していない
まず、それぞれの国は自身の国益のために動いて当然であること。合衆国は合衆国の国益を第一に考えて当然で、「韓国が合衆国の役に立つところを示すこと」で、初めて合衆国は韓国のために動いてくれるのです。
同盟関係は、お互いにとっての価値を高め合うことでしか維持できません。
お互いが利益を得られる状態ではなくなり、一方だけが努力を続けなければならない片務的な関係になった時点で、それまでの同盟関係は破棄されます。
韓国メディアや韓国の識者の皆さんには、「自国が同盟を維持するに足るどのような努力をしたのか」という視点が欠けがちです。
そのため、何かあると「合衆国に後頭部を殴られた」などと言い出すのです。
『現代自動車』や半導体産業が合衆国のインフレ削減法(IRA)や対中国半導体規制で韓国がひどい目に遭うといっていますが、前者はまだしも、後者については全く同意できません。
合衆国は、トランプ大統領の時代から半導体戦争を始めていましたし、ECRA(輸出管理改革法)の制定は2018年08月13日です。米中の対立が激化する方向になることは、誰の目にも明らかだったのに、中国本土に最先端のメモリー半導体のファウンドリーを建設したりしたのです。
逃げられる時間はあったと見るべきで、事態への対応を疎かにしたのは韓国政府と韓国企業です。
韓国は「お母さん」を求めているのか?
また、上掲記事の最後の部分には、またぞろ「通貨スワップ」が登場しており、「合衆国は韓国のウォン安を救うために通貨スワップを締結して当然」という態度をにじませています。
つまり『ハンギョレ(日本語版)』の記事の筆者は、
・中国本土に進出した韓国半導体産業は規制されなくて当然
・通貨スワップを締結して当然
と主張しているのです。理由は、尹錫悦(ユン・ソギョル)政権が「合衆国にオールインしているから」だというのです。
対中国の対応を見れば、とてもオールオンしているようには見えませんが、それは自覚していないご様子。
朴槿恵(パク・クネ)大統領が(合衆国の制止を振り切って)対日戦勝記念日に訪中し、習近平総書記の横に立ったこと、文在寅大統領の合衆国無視の言動の数々もなかったことにしています。
現在の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領も訪韓したペロシ下院議長をスルーするという非礼を見せました。
尹錫悦(ユン・ソギョル)政権は確かに親米に舵を切りましたが、それまでの「マイナス」を埋め合わせることから始めなければならないことを完全に忘れているのです。
まとめるなら、上掲記事は「韓国の要求をなんでも聞いてくれ」――というような主張で、韓国は無条件に保護してくれる「お母さん」を求めているように見えます。
そんな「お母さんのような国」はありません。
(吉田ハンチング@dcp)