「おい、こっちまで巻き込むなよ」というお話です。
2023年09月26日、中国・王毅外相が「“人類運命共同体”構想10周年記念」の挨拶を行いました(「人類運命共同体構想白書」が出ました)。
日本人はほとんど知りませんが、この「人類運命共同体構想」というのは、中国・習近平総書記が言い出したことで、大変うれしくないことに、世界各国一丸となって(中国共産党が主導する)未来に進んでいこう――という内容です。
王毅外相の発言から一部を引用するとこんな具合です。全部和訳すると読者の皆さまがうんざりするかと思われますので、一部にします。
賓客の皆様、同僚の皆様、
友人の皆さん「人類運命共同体の構築:中国のイニシアティブと行動」白書の発表に立ちあえることをうれしく思います。
白書は、人類運命共同体の構築という概念の思想的意味合いと生き生きとした実践を体系的に精緻化した重要な文書であり、習近平の「新時代の中国の特色ある社会主義に関する思想」と、習近平の「外交思想」を深く実践するための重要なイニシアティブです。
白書の発表が、各界各層と国際社会の人々が人類運命共同体の遠大な意義をより包括的に理解し、中国の特色ある大国外交の野心的目標をより明確に理解する一助となることを願っています。
親愛なる友人の皆様。
今年は、習近平国家主席が人類運命共同体の構築を提唱してから10周年を迎えます。
10年前、習近平国家主席は「世界は何が問題で、どうすべきか」という世界、歴史、時代の深遠な問いに直面し、大国と大党の指導者としての幅広い戦略的視野、優れた政治的知恵、強い使命感を持ち、人類運命共同体の構築という理念を創造的に打ち出し、歴史の転換点に世界の発展の正しい方向を指し示し、変化と混乱の時に正しい方向を示しました。
これは、歴史の転換点における世界発展の正しい方向を指し示し、混迷の時代における国際協力の強いコンセンサスを形成してきました。
過去10年間、習近平国家主席の個人的な計画・推進の下で、人類運命共同体の構築は構想から行動へ、芽生えから成長へと進み、荒れ狂う時代と雲の中で世界の正しい道を堅持し、危機と試練の中で勇敢に前進し、世界に名高い実践的成果を挙げ、時代をリードしてきた思想力を発揮してきました。
この10年間、人類運命共同体の構築というコンセプトは日々完成されてきました。
習近平国家主席は国賓訪問から多国間首脳会議に至るまで、多くの国際的な場でこの重大な概念を体系的に詳しく説明し、国際社会をこの概念に対する深い理解に導き、「五つの世界」を全面的な目標とし、全人類共通の価値を追求し、「一帯一路」の建設を根本的な道とする新型の国際関係を構築するという概念を徐々に形成してきました。
「一帯一路」はその実践的プラットフォームであり、「世界発展イニシアティブ」「世界安全イニシアティブ」「世界文明イニシアティブ」は科学的理論体系です。
(後略)
読めば読むほどマズイです。
10年前に習近平さんが「世界は何が問題で、どうすべきか」という問題にぶち当たり、「大国と大党の指導者として」打ち出したのが、「人類運命共同体の構築」だ――というのです。
誰も習近平さんに「世界の問題を解決してくれ」なんて頼んでいません。
驚くのは「国際協力の強いコンセンサスを形成してきました」などと述べていることです。いったい、いつそんなコンセンサスが形成されたのでしょうか。
今回の王毅演説に先立つ2023年09月14日、中国の商務部は以下のようなプレスリリースを出しています。
(前略)
习近平强调,踏上新征程,党委和政府办公厅应有新担当新作为新气象。要提高政治站位,坚持以新时代中国特色社会主义思想为指导,胸怀“国之大者”,深化政治机关建设,坚定维护党中央集中统一领导,始终在思想上政治上行动上同党中央保持高度一致。要强化政治担当,紧紧围绕全面贯彻党的二十大精神,加强统筹协调和督促检查,形成强大合力,力戒形式主义,推动党中央决策部署落地见效。要提升政治能力,坚持守正创新,更好发挥党委和政府参谋助手的重要作用。要落实政治责任,坚定不移推进全面从严治党,打造忠诚干净担当的高素质专业化干部队伍,建设让党放心、让人民满意的模范机关,为全面推进强国建设、民族复兴伟业作出新的更大贡献。
(後略)習近平は、新たな旅立ちに際して、党委員会と官庁は新たなイメージとして新たな役割を持つべきであると強調した。
それは、政治的地位を向上させ、中国の特色ある社会主義の新時代を指針とし、「国之大者」を胸に刻み、政治機関の建設を深め、中国共産党中央委員会の中央集権的指導をしっかりと守り、イデオロギー、政治、運営面で常に中国共産党中央委員会と高い整合性を保つことである。
政治的役割を強化し、中国共産党第20期中央委員会精神の全面的実施を密接に取り囲み、協調と監督・検査を強化し、強力な相乗効果を形成し、形式主義を避け、中国共産党中央委員会の意思決定と配置を推進し、成果を挙げることである。
政治能力を向上させ、正しく革新的なことを堅持し、党委員会と政府職員補佐の重要な役割をよりよく果たすころとである。
政治責任を実行し、揺るぎなく党の全体的な厳格な統治を推進し、忠実で清潔で責任感のある質の高い専門幹部を育成し、人民が模範機関に満足することを保証する党を建設し、強国の建設を全面的に推進し、新たな、より大きな貢献をする大義の民族の若返りを図ることである。
⇒参照・引用元:『中国 商務部』公式サイト「习近平对新时代办公厅工作作出重要指示」(習近平は中国共産党中央委員会弁公庁に新時代の重要な指示)
問題はこの「国之大者」です。
駐日中国大使館が「中国共産党創立100周年祝賀大会における 習近平総書記の演説全文」(2021年07月02日)を掲載しており、習近平の言う「国之大者」が何かの説明があります。
(前略)
新たな征途で、われわれは必ず党の全面的指導を堅持し、党の指導を絶えず完全にし、「四つの意識」〈政治意識、大局意識、核心意識、一致意識〉を強め、「四つの自信」〈中国の特色ある社会主義の道の自信、理論の自信、制度の自信、文化の自信〉を固め、「二つの守る」〈習近平総書記の党中央の核心、全党の核心としての地位を守り、習近平同志を核心とする党中央の権威と集中統一指導を守る〉をやりとげ、「国之大者」〈国家における大事なもの注〉を銘記し、党の科学的執政、民主的執政、法に基づく執政の水準をたえず高めて、党がもつ、全体を統括し各方面を調整する指導・中核機能を十分に発揮させなければならない。(中略)
注 権力構造における党中央と党の核心、党と国の利益における政治、政治における人心、歴史における中華民族と中華文化の長期繁栄、現実における「二つの擁護」の実施と奏功、発展における「持続可能な発展」の実現が「国之大者」とされる。
習近平総書記の党中央の核心、全党の核心としての地位を守り、習近平同志を核心とする党中央の権威と集中統一指導を守るをやりとげ、「国之大者」を銘記し……と書かれており、大使館の注釈が「国家における大事なもの」としています。
「国之大者」ですから、「国家における大事な者」ではないのではないでしょうか。
これで解釈が合っているなら、「国之大者」は習近平その人を指しているとしか読めません。「権力構造における党中央と党の核心」は習近平なのですから。
つまり、2021年から習近平さんは「オレを崇めよ」と言ってきたことになります。
その上で、今回の弁公庁への指示、王毅さんの人類運命共同体構想を讃える言葉です。
これはカルト、個人崇拝へと進む道です。
さすが反省文を書かされた※王毅外相と言うべきか、習近平カルトの片棒を担いでいます。
※事実確認が取れないため「習近平に反省文を提出するように言われた」はあくまでも噂ですが、王毅さんが号泣して詫びを入れた――という話まで出ています。
もう21世紀だというのに、毛沢東、スターリン、ポル・ポト、金日成に今からなろうというのでしょうか。
習近平カルトと心中するのは中国の皆さんだけにしていただきたいものです。それなら被害者は14億人で済みます。
また、王毅さんの言葉によれば「一帯一路はその実践的プラットフォーム」とも言っていますので、そんなものに入っていては死なばもろともになります。参加している国は早急に抜けないとマズイです。
(吉田ハンチング@dcp)