韓国の産業通商資源部は、04月の貿易収支が「3億9,000万ドル」と公表しており、このまま締まると経常収支は確実に赤字に転落するでしょう。
ただし、「国際収支統計」と関税庁・産業通商資源部が公表している「貿易統計」では、数字にぶれがあるので、このままは締まらないと思われます。では、韓国04月の経常収支が赤字に転落する可能性はどのくらいあるでしょうか。
「輸入金額」のぶれを予測する
まず、経常収支が赤字になるかどうかという話は、国際収支統計でどのような数字に締まるかによります。で、韓国の場合には、貿易収支がどの程度黒字になるかです。
貿易のもうけを示す貿易収支は、「輸出 – 輸入」で求めます。関税庁・産業通商資源部は、04月の輸出入・貿易収支を以下のように発表しています。
輸出:511億9,000万ドル(約5兆5,951億円)
輸入:508億ドル(約5兆5,524億円)
貿易収支(輸出 -輸入):3億9,000万ドル(約426億円)
この数字が国際収支統計でどう締まるかです。
国際収支統計の場合、輸出入の金額は「FOB価格」(Free On Board:本船渡条件)で計上します。
一方の貿易統計(関税庁の通関統計)では、輸出は「FOB価格」ですが、輸入は「CIF価格(Cost,Insurance and Freigt)」で計上します。
輸出:FOB価格
輸入:FOB価格
貿易統計
輸出:FOB価格
輸入:CIF価格
FOB価格、CIF価格というのは、輸出入の際に出てくる用語で、以下の違いがあります。
CIF価格:運賃・保険料込みの価格
関税庁・産業通商資源部の公表する貿易統計の「輸入金額」は物品の輸入についての「運賃・保険料込み」であり、国際収支統計ではこれを除いたFOB価格で計上します。
そのため、貿易統計(通関ベース)と国際収支統計では、輸出金額はほぼぶれないのに輸入金額が大きき下振れするという違いが出ます。
2021年01~03月でどのくらいぶれているかというと以下のようになります。
まず輸出金額です。
| 貿易統計 | 国際収支統計 | ぶれ幅 | |
| 01月 | 480.1億ドル | 466.6億ドル | 2.8% |
| 02月 | 448.1億ドル | 446.6億ドル | 0.3% |
| 03月 | 538.3億ドル | 543.8億ドル | -1.0% |
| ぶれ幅平均 | 0.7% |
同じFOB価格で計上しているため、「輸出金額」はほぼぶれません。関税庁・産業通商資源部の公表するデータの方が3カ月平均で0.7%大きく出ます。
次に輸入金額。
| 貿易統計 | 国際収支統計 | ぶれ幅 | |
| 01月 | 440.5億ドル | 409.3億ドル | 7.1% |
| 02月 | 421.1億ドル | 386.3億ドル | 8.3% |
| 03月 | 496.5億ドル | 464.6億ドル | 6.4% |
| ぶれ幅平均 | 7.3% |
「輸入金額」の場合には、関税庁・産業通商資源部の公表データは運賃・保険料を込みのCIF価格であるため、国際収支統計よりも平均で7.3%も大きく出ていることが分かります。
というわけで、現在公表されている04月の輸出入・貿易収支のデータに上記の補正をかけてやれば、国際収支統計で締まったときのデータを予測できるのではないでしょうか。
補正をかけると以下になります。
輸入:508.0億ドル ⇒ 7.3%補正:471.1億ドル
貿易収支(輸出 – 輸入):37.1億ドル
国際収支統計に締まった場合の2021年04月の貿易収支は「37.1億ドル」になると予測できます。
経常収支は赤字になるか?
では、この貿易収支「37.1億ドル」で経常収支は赤字になるでしょうか?
経常収支は、①貿易収支、②サービス収支、③第1次所得収支、④第2次所得収支の合算です。
韓国の場合、②サービス収支と④第2次所得収支はほとんど常に赤字ですので、③第1次所得収支が頼みの綱です。ところが、何度もご紹介しているとおり、04月は海外への巨額の配当支払いが発生するため2021年も黒字になる見込みはほぼありません。
ですので、
②サービス収支:赤字
③第1次所得収支:赤字
④第2次所得収支:赤字
経常収支(①~④の合計):?
となります。ですので、②~④の赤字の規模が焦点になります。そこで、②④については直近6カ月の平均値を、③については2020年04月の数字を入れてみます。
結果は以下のようになります。
②サービス収支:-6.2億ドル
③第1次所得収支:-22.5億ドル
④第2次所得収支:-3.9億ドル
経常収支(①~④の合計):4.5億ドル
経常収支はすれすれ「4.5億ドル」のプラスでなんとか赤字は免れました。
しかし、サービス収支の赤字が改善しているので直近6カ月の平均を入れたのですが、2020年01月~2021年03月のサービス収支の平均「-11.7億ドル」を代入したらすぐに赤字に転落します(非常に薄い赤字)。また、サービス収支の赤字が昨年より5億ドル大きくても赤転です。
先にご紹介しましたが、『韓国銀行』のパク経済統計局長が「04月に経常収支が赤転する可能性」を否定していないのは、このようなスレスレな状態にあるからではないでしょうか。
(吉田ハンチング@dcp)






