「国際収支統計」について知っていると、その国の経済についての理解が深まります。いえ面倒なものではありません。知れば知るほど面白くなります。
国際収支統計は「いってこい」を捉えたもの
簡単にいえば、国際収支統計は「外国との取引をどのように行ったか」を記録したものです。
「いってこい」の帳簿といってもいいです。
例えば、外国に自動車を輸出して代金を受け取った、海外旅行に出かけて観光地でお金を使った、外国の株式に投資したなどの取引。
また逆に、外国から鉄鉱石を輸入して代金を支払った、観光客が来て宿泊代を受け取った、自国の株式に投資してもらった、などの取引。
完全鎖国でもしていない限り、どの国でも必ず外国との取引があります。この「いってこい」の金額を捉えて計上し、帳簿化したのが国際収支統計です。
基本的にどの国でも月次で国際収支統計を公表しています。
ですので、国際収支統計は「月末時点で、この月内にはこのような『いってこい』があったよ」という報告になっています。
大きな特徴は、国際収支統計は「いってこい」は捉えることができますが、その結果として「なんぼになったのか」は分からないという点です。
例えば、05月は外国の株式を3億ドル買って、自国の株式を1億ドル買われたから株式投資では差し引き資産が2億ドル増えたぞ!というのは分かるのですが、その結果、外国の株式資産をいくら持っているのか、については分かりません。
会社がどのくらいもうかっているかについて考えてみてください。例えば「05月は2億ドルの利益が出た!」と言われても、「待て待て、01~05月でいくら利益が出てるんだ?会社にあるお金はいくらなんだ?」となるでしょう。
つまり、その時点での「いってこい」を記録しているが、「なんぼになったのか」は国際収支統計では分からないのです。
これが「フロー(いってこい)」と「ストック(なんぼあるのか)」の違いです。
そのため「なんぼあるのか」を記録した統計が別にあります。
金融資産についての「なんぼあるのか」を記録したのが「International Investment Position」(対外資産負債残高)です。
国際収支統計を見ているだけでも面白いのですが、「国際収支統計と対外資産負債残高の両方を見ることが重要」になります。
取引の種類によって計上する項目が決まっている!
国際収支統計は、海外との取引、簡単にいえば「いってこい」、その収支を記録したものですが、取引の種類によって計上する項目が決まっています。
これは帳簿ですから当然の話。例えば、家計簿をつけるときでも、住居費、光熱費、食費、保険料などの項目に分けて金額を記入しますが、これと同じです。
まず、国際収支統計は以下のように4つのブロック(大項目)に分かれています。
「ほら面倒くさいものが出てきた」と思われるかもしれませんが、ただの項目名ですのでご心配は無用です。
一番あほらしいのは「誤差脱漏(ござだつろう)」で、これは単に計上の誤差や漏れを入れておくための項目です。
なにせ国の全部の「いってこい」を記録しようというわけですから、どうしても「あれ、おかしいな、合わねぇな」となります。そのときには帳尻を合わせるためにこの項目にその金額を入れるのです。
後の3つ、「経常収支」「資本等移転収支」「金融収支」は、それぞれ取引の種類によって分けるための大項目です。
「経常収支」の大項目には、具体的な物品、サービスなどの取引による「いってこい」が記録されます。
「金融収支」の大項目には、株式・債券による投資、融資つまりはお金の貸し借りなど、金融上の「いってこい」が記録されます。
「資本等移転収支」の大項目は特殊な場合にしか使いません。これは、面倒くさい言い方をすれば、資産の移転が無償で行われた場合に計上するための項目です。
例えば、無償で橋を造りましょう、道路を建設をしましょう――そういった場合には、ここに入力するのです。また債務免除を行った際にもこの項目を使います。しかし、そのような場合にしか使いませんし、普通は金額も大きくありませんから「資本移転等収支」はあまり気にしなくてもいいのです。
というわけで、国際収支統計のメインの大項目は「経常収支」と「金融収支」となります。
ちなみに、
資本移転等収支:capital account
金融収支:financial account
誤差脱漏:errors and omissions
の英語名は知っていると便利です。どの国でも英語版の国際収支統計が公表されていますので、英語名を知っていれば、すぐに数字を読むことができるからです。
というわけで、第1回目はこんなところでいかがでしょうか。次回は「経常収支」についてご紹介するようにいたします。
(柏ケミカル@dcp)