(あくまで通関ベースですが)「2カ月連続の貿易赤字」になったことについて韓国メディア『朝鮮日報』が面白い記事を出しています。
以下に記事の一部を引きます。
韓国の貿易に赤信号が点灯した先月、韓国の輸出入貿易収支が48億9,000万ドルの赤字を記録した。
これは1966年の貿易統計作成後の史上最大値だ。最大値は2008年01月に40億4,000万ドルの赤字だった。
14年ぶりに赤字規模最大を更新したのだ。
昨年12月に続き、2カ月連続貿易収支赤字も14年ぶりに初めてだ。
専門家らは、サプライチェーンのショック発原価や原材料価格の高騰など輸入額が輸出額を追い越し、韓国の産業活力が落ちていると警告している。
(中略)
しかし、政府は史上最大の貿易赤字にも「一時的な現象であり、2008年のグローバル金融危機とは状況が異なる」という立場だ。
輸出増加傾向が維持されており、経済のファンダメンタルズを懸念する状況ではない、というのが政府側の主張だ。
(後略)
『朝鮮日報』は、そもそも保守系で進歩系文政権に批判的なメディアです。
史上最大の赤字を記録したのに、韓国政府は「赤字は一時的なもの」などと言っていると批判しています。韓国政府を批判したいので声が大きくなっているのでしょう。
韓国政府の反論とされている「経済のファンダメンタルズを懸念する状況ではない」は「まだ分からん」と言ってるだけです。
しかし、これも当然のこと。確かにまだ分かりません。ですが、過去の事例から見ると危ない兆候が現われてきたと見るべきです。
「韓国通貨危機」のとき貿易収支は激減した
インチキといわれることもある「通関ベース」の統計なので、国際収支統計でどうなったのかを確認したいところなのです。『朝鮮日報』の記事にある2008年01月の貿易赤字「40億4,000万ドルの赤字」というのが、国際収支統計ではどうなっているかというと……。
貿易収支はうっすいながらも「6億3,090万ドル」の黒字です。しかし、経常収支は赤字の「-6億8,870万ドル」。
つまり、韓国の経常収支を黒字にしようと思ったら、貿易収支が「6億3,090万ドル」のようなわずかな黒字では不可能ということが一つ。
もう一つは、「通関ベース」の統計で貿易収支が赤字になっても、国際収支統計の方で赤字になるとは限らないということです。さらに踏み込んでいえば、韓国の通関ベースの統計はアテになりません。
2008~2009年「韓国通貨危機」時に韓国がなぜ傾いたのかというと、貿易収支のプラスが急激に減少、これによって経常収支がマイ転。しかも、この傾向が続いた――つまり資金流出が継続された――せいです。
2007~2008年の月次の貿易収支の推移(国際収支統計より:データ出典は『韓国銀行』)をグラフにすると以下のようになります。
赤い楕円で囲った2008年の貿易でのもうけ――貿易収支の金額の低さをご確認ください。左にプロットされた2007年の貿易収支とはまるで違います。
2007年と2008年で貿易収支がどのくらい減ったのかと比べてみると、以下のようになります(単位:億ドル)。
2007年 | 2008年 | 増減 | |
01月 | 16 | 6 | -59.4% |
02月 | 12 | -4 | -131.5% |
03月 | 26 | 11 | -57.2% |
04月 | 18 | 5 | -72.7% |
05月 | -7 | -6 | -24.6% |
06月 | 36 | 9 | -75.8% |
07月 | 37 | 4 | -89.8% |
08月 | 37 | -22 | -160.5% |
09月 | 52 | 17 | -67.8% |
10月 | 36 | 8 | -76.9% |
11月 | 45 | 15 | -67.4% |
12月 | 17 | 75 | 333.2% |
最後の12月だけを別にして対前年同期比で、韓国にとって最も大事な貿易収支が激減したことがお分かりいただけるでしょう。
韓国経済が危険になるときには……
前述のとおり、たかだか「6億ドルのプラス」ぐらいの貿易収支黒字では、韓国の経常収支はプラスになりません。ですので、2008年は経常収支が7カ月も赤字に転落してしまったのです。
つまり、韓国経済の危機要因として認識されるべきなのは、「①貿易収支が減少してきたら」「②貿易収支で赤字が出てきたら」――危ないという点です。
そして、通関ベースとはいえ、2021年12月、2022年01月と貿易収支は2カ月連続で赤字だったのです。
ですから、韓国政府の言う「まだ分からない」のは、そのとおりですが、焦点は「貿易収支の減少がこのまま継続するか」「国際収支統計でも赤字になるのか」です。
というわけですので、韓国経済に危ない兆候が出ているのは確かなのです。
(柏ケミカル@dcp)