韓国レゴランド「2,050億の不渡り」は人災である

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『韓国レゴランド』のABCP(Asset-Backed Commercial Paper:資産担保コマーシャルペーパー)が不渡りとなったことをきっかけに、韓国の短期資金調達市場が大混乱となりました。金利が急騰して、借り換えにも支障を来す有り様です。

韓国メディアによれば、借り換えの金利がついに20%のCPも出るという無茶苦茶な状態で、いまだに沈静化してはおりません。

しかし、そももなぜ『韓国レゴランド』のABCPは不渡りを出したのでしょうか。

政治的な、あまりに政治的な

先記事でご紹介したとおり、このPF(プロジェクトファイナンス)のスキームは、江原道傘下の『江原中道開発公社』(GJC)が、事業資金を調達するために特殊目的法人(SPC)『アイワン第1次』を設立。

このSPCがABCPを発行して2,050億ウォンを集めました。発行の際には、他ならぬ江原道が保証を付けました。地方政府が保証を付けたので、ABCPがはけたわけですが、償還寸前の2022年09月29日になって、江原道は償還が不可能と表明。

裁判所に(事実上破綻したとして)『江原中道開発公社』の回生申請を行いました。このために10月06日、ABCPは不渡りと判断されました。

読者の皆さまも「解せぬ」と思われるでしょう、江原道の急な手のひら返しがなぜ起こったのか、です。

このちゃぶ台返しの背後には、先に行われた「全国同時地方選挙」で江原道知事が交代したことがあります。

前知事は崔文洵(チェ・ムンスン)さんで、そもそもこの人が『韓国レゴランド』建設に邁進したのです。

ちなみに、この崔文洵さんは野党に転落した『共に民主党』所属で、平昌五輪オリンピックの競技場を利用して「2021年には冬季アジア競技大会を南北共同開催しよう」とぶち上げたことがある人物です。

この一事だけでだいたいどういう人か想像がつくでしょうが、崔文洵(チェ・ムンスン)知事が無理に無理を重ねて(後述)江原道に『韓国レゴランド』建設を実現させました。

で、全国同時地方選挙で、新たに金鎮台(キム・ジンテ)さんが江原道知事に当選。フタを開けて見ると『レゴランド』が無茶苦茶な状態であることが判明します。

そこで、金鎮台(キム・ジンテ)知事は(うかつにも後先の影響を理解することなく)『江原中道開発公社』の回生申請を発表してしまったのです。

ちなみに、金鎮台(キム・ジンテ)知事は『国民の力』所属です。

つまり、前知事・崔文洵(チェ・ムンスン)さんは『共に民主党』、現在の金鎮台(キム・ジンテ)知事は『国民の力』なので、ここに政治的な報復劇、あるいは王朝交代によるちゃぶ台返し(前任者の政策の全否定)を見る方もいらっしゃいます。

もちろん、そのような色合いもありますが、事はそれほど単純ではないのです。

レゴランド建設のための無茶苦茶

というのは、前知事・崔文洵(チェ・ムンスン)さんが『レゴランド』を建設するために無茶の上に無茶苦茶を重ねて実現したという事実があるからです。

崔文洵(チェ・ムンスン)さんは知事に就任した直後の2011年09月、イギリスの『Merlin Entertainments Ltd.(マーリン・エンターテイメンツ)』とレゴランドの投資合意書を締結。

『マーリン・エンターテイメンツ』は欧州第1位、世界Topクラスの規模を誇るアトラクション施設運営企業。レゴランドなどを世界各地で運営しています。

2012年、江原道はレゴランドを建設するための施工会社として『エルエル開発(LLD)』を設立。江原道が44%を握り、『マーリン・エンターテイメンツ』も22%を出資しました。

この『LLD』が2019年に『江原中道開発公社』(GJC)へ社名変更するのですが、時を戻してお金の話です。

『江原中道開発公社』はSPC『KIS春川開発流動化株式会社』を通じて210億ウォンの融資を受けたのですが、『マーリン・エンターテイメンツ』は210億ウォンでは事業推進は難しいとして追加の融資を要求。

これを受けて、江原道は2014年に支給保証を2,050億ウォンに拡大します。

問題は、この2,050億ウォンへの拡大について、江原道議会の承認を得ずに行ったことです。

最初の210億ウォンの支払い(というか投資)については、2013年09月10日に議会から「支給保証に対する同意」を得ています。ところが、保証金額が約10倍にも拡大したにもかかわらず、これを議会の同意を得ることなく決定しました。

これはしっかり監査院が報告しているのです。

2015年12月の地方自治体財政運営実態監査結果報告書で、監査院は、

「江原道はマーリングループがレゴランドコリア起工式(2014年11月28日)以前に確実な財源調達計画を設けることを要求したという事由で、2014年11月27日、都議会の議決を得ていないまま2,050億ウォンで債務保証規模の拡大に承認した

と指摘しています。

これは、完全に地方財政法違反です。

地方財政法第13条第3項
自治体から債務を保証された債権者や債務者の主債務規模など契約の重要部分を変更するためには自治体が予め地方議会の議決を得なければならない。

また、監査院は勝手な計画について「都議会の統制機能を無力化し、この事業が当初の計画と異なり事業性が悪化した場合、江原道の財政負担が大きくなる懸念がある」と明確に指摘しています。

そして……監査院の指摘どおりになったのです。

無茶苦茶な事業構造と拙速な回生申請

つまり、そもそも前知事・崔文洵(チェ・ムンスン)さんが地方財政法違反を犯してまでレゴランド建設に邁進したのが間違いでした。

どのような経営状態になっているかというと、「『江原中道開発公社』の2,050億ウォンの債務に対する利子だけで年間100億ウォンを超える」「『江原中道開発公社』の年確定収益はレゴランド入場料関連の2億ウォン余りに過ぎない」のが現状なのです。

つまり、事業として継続可能なものではありません。放置すれば、江原道に甚大な被害を与え続ける病根になります。そこで、金鎮台(キム・ジンテ)知事は回生手続きに踏み切った――のです。

ですので、『共に民主党』知事の政策を否定せんがために『国民の力』新知事がちゃぶ台をひっくり返したのだ――という見方は単純に過ぎます。

どこかで誰かが止めないと、非合理極まる甚大な赤字被害が積み重なったはずなのですから。

ただ、これにより短期資金調達市場に不信感が募り、壊滅的な打撃を受けたので、金鎮台(キム・ジンテ)知事が回生手続きに向かったのは大失敗、拙速に過ぎたと見なさざるを得ません。

鬼の首でも取ったかのように……

『国民の力』所属の知事が大失敗したので、『共に民主党』党首の李在明(イ・ジェミョン)さんはじめ国会銀、崔文洵(チェ・ムンスン)前知事などがここぞとばかりに『国民の力』、金鎮台(キム・ジンテ)知事を非難しています。

崔文洵(チェ・ムンスン)前知事は「金鎮台(キム・ジンテ)発金融危機」などと喜々として述べているほどです。「いや、大本はあんたのせいじゃん」なのですが。

韓国はなんでも政争の具になる国ですが、この江原道での案件は現在国政レベルで起こっていることにそっくりです。前左派政権のTopが非合理なことを好き勝手に行ったため、それを修正しなければならず、是正過程でとんでもない事故が起こる――のです。

起こってしまったことは仕方がないので、とにかく短期資金調達市場をなんとか安定させなければなりません。韓国金融当局は必死ですが、凌ぎきれるでしょうか。

ABCPまた、CPについては以下の先記事を参照してください。

韓国の短期資金調達市場に壊滅的な打撃。レゴランドの不渡りで信用が失墜した
韓国の短期資金調達市場が阿鼻叫喚の地獄絵図となっています。すでにご存じの読者が多いかかもしれないのですが、事の発端は、江原道に建設した「韓国レゴランド」のCPが不渡りとなったことです。事はレゴランドだけで済まない大変な状況になっていますので...

(吉田ハンチング@dcp)

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