2023年04月26日に韓国・尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領とアメリカ合衆国・バイデン大統領の首脳会談が予定されています。
尹錫悦(ユン・ソギョル)さんの大統領就任直後(2022年05月21日)にバイデン大統領が訪韓しましたが、今度は尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領が訪米します。
日程が迫っているためか、米韓の懸案を「片付いた」ことにしたい大統領室の思惑が透けて見えるような話が出ており、驚かされます。
合衆国の「ガードレール条項」とは何か?
本線に行く前に、合衆国が2022年08月に成立させた「半導体法」(CHIPS and Science Act)の「ガードレール条項 草案」(2023年03月21日公開)について、見てみましょう。
↑Googleの自動翻訳なので日本語がヘンなところがありますがご寛恕ください。⇒参照・引用元:『連邦官報』公式サイト「Preventing the Improper Use of CHIPS Act Funding」
半導体法によって利益を受ける者に制限を課す内容で、つまりは補助金をもらう以上はこれを守れという内容です。
特に、「合衆国に半導体ファウンドリーを造るのでお金ください」という企業を保有する韓国のような国に「中国に通じるようなことは許さん」というわけです。
もともと合衆国の資金を使うわけですから、国民の利益に還元されることこそが重要で、「ただただ韓国企業がもうかりました」みたいな結末では困るのです。
韓国メディアの中には「合衆国は半導体やくざになった」みたいな記事を出しているところもありますが、いかがなものでしょうか。
ちょっと長くなりますが、このガードレール条項の骨子を以下に挙げてみます(面倒くさい方は強調文字などの部分だけご覧ください)。
(前略)
懸念される外国における先端施設の拡張を制限するための基準を確立する:
同法は、懸念される外国における最先端・先端施設の半導体製造能力の大幅な拡張を伴う重要な取引を、授与日から10年間禁止し、受給者がこれらの国で最先端・先端技術施設を新たに建設したり、既存の施設を拡張することを阻止するものである。本日の規則案では、重要な取引を10万ドルという金額水準に基づいて定義し、重要な拡張を施設の生産能力を5%増加させることと定義している。
これらの基準値は、製造能力を拡大しようとする控えめな取引も捕捉することを意図している。
CHIPSインセンティブ・プログラムの資金受益者がこれらの制限に違反する取引を行った場合、同省は資金提供の全額を取り返すことができる。
懸念される外国におけるレガシー施設の拡張を制限する:
法令では、懸念される外国におけるレガシー施設の拡張と新規建設に制限が設けられている。提案されている規則は、既存のレガシー施設の拡張を制限し、受給者が新しい生産ラインを追加したり、施設の生産能力を10%以上拡大することを禁じている。
また、法令では、レガシーチップが生産される懸念国外国の国内市場に、その施設の生産物が「主に供給される」場合にのみ、受給者は新しいレガシー施設を建設することができると規定している。
規則案では、レガシー施設の生産物の85%以上が、生産された懸念国において消費される最終製品に組み込まれることを意味すると明記している。
この規則案では、受給者がこれらの例外に該当するレガシーチップ施設の拡張を計画する場合、国家安全保障のガードレールへの準拠を確認できるよう、同省に通知することが要求されることも指摘している。
半導体を国家安全保障上重要なものとして分類する:
法令では、企業が限られた状況下で懸念される外国でのレガシーチップの生産を拡大することを認めているが、本日の規則案では、半導体を国家安全保障に不可欠なものとして分類し、これらのチップはレガシーチップとはみなされず、したがって厳しい制限の対象となると定義している。この措置は、量子コンピュータや放射線集約環境、その他の特殊な軍事能力に使用される現世代および成熟ノードチップを含む、米国の国家安全保障上の必要性に不可欠なチップを対象とする予定である。この半導体チップのリストは、国防総省と米国情報機関との協議により作成された。
米国の輸出規制を強化する:
2022年10月、同省産業安全保障局(BIS)は、中国が軍事力を強化する先端チップを購入・製造することを防ぐために輸出規制を実施した。本日の規則案は、輸出規制とCHIPS国家安全保障ガードレールの間でメモリーチップの禁止技術閾値を整合させることにより、これらの規制を強化するものである。
本日の規則案では、ロジック・チップについては、輸出管理で使用されているよりも厳しい基準値を適用している。
懸念される外国企業との共同研究および技術供与の取り組みに関する制限の詳細:
同法は、受給者が国家安全保障上の懸念を抱かせる技術や製品に関連する懸念外国企業との共同研究や技術供与の取り組みに従事することを制限する。本規則案では、共同研究の取り組みを2人以上の人物によって行われる研究開発と定義し、技術供与を特許、企業秘密、またはノウハウを他の当事者に提供する契約と定義している。
この規則案では、法令で定められた懸念される外国企業に加えて、BIS Entity List、財務省の中国軍産複合企業(NS-CMIC)リスト、連邦通信委員会の国家安全保障上のリスクをもたらす機器およびサービスの安全で信頼できる通信ネットワーク法リストからの企業が追加されている。
また、本規則案では、米国の輸出規制と整合性があり、国防総省および米国情報機関との協議により作成された、国家安全保障上の懸念をもたらす技術、製品、または国家安全保障にとって重要な半導体の詳細が示されている。
(後略)
「懸念される外国」と書いていますが、これは誰が見ても「中国」のことです。
半導体法によって、インセンティブを受け取った企業は、その受け取った日から10年間は中国に最先端・先端の半導体製造施設を建設したり、既にある施設の拡張はできない――としました。
既存施設の拡張は生産能力の5%までしか許容しないし、10万ドル以上の取引は全てチェックします。生産能力を10%以上拡大することは許しません。
最先端の半導体ではなく、レガシーチップであっても、生産能力が拡大できるのは、製造された半導体の85%が中国内の最終製品に組み込まれて消費される場合のみ――です。
つまり、中国内の半導体工場で生産された半導体が製品に組み込まれて輸出され、半導体の15%以上が国外に出るというのであれば、半導体工場の拡張は認めない――のです。
これらが守られないのであれば、半導体法において与えたインセンティブを返却せよ、となっています。簡単にいえば「補助金を返せ!」です。
韓国の『サムスン電子』『SKハイニックス』の中国内工場は「どうするんだ?」という話です。
そもそもラインを動かすための最先端装備を中国に搬入できなくなったので枯死するしかないのですが、ガードレール条項によって、補助金をもらうと今後10年間は中国に対して半導体関連の新規投資、既存施設の拡張が原則できません。
大統領室は「片付いた」とした
本線に戻ります。
韓国メディアでは、拡張が許される条項が盛り込まれたの「ほっと一息」などと報道しているところがありますが、上掲のとおり「どこが一息なんだ」と思わざるを得ない内容です。
また、『毎日経済』は大統領室からのコメントを以下のように報じているのです。
22日、合衆国商務省が発表した半導体法の「ガードレール(安全装置)」条項について、大統領室が「私たち業界に及ぼす影響を分析した結果、韓国企業が中国内に保有中の製造設備運営に支障がないと判断した」と明らかにし、来月26日に予定される尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領とジョー・バイデン大統領の米韓首脳会談前に半導体法関連の追加交渉と「IRA」(インフレ削減法)関連交渉を終えると示した。
23日、大統領室の高位関係者は「今年は米韓同盟70周年になる年だ。安保同盟としての韓国と米国の戦略的同伴者関係は引き続き確認されている」と前提し、「ただ残った問題は世界経済がブロック化され、自国利己主義の中で経済紛争がどのような方向に流れていくのか、その際も我が同盟が有効であるなのか、米韓首脳会談の前にこのような部分が確認されるだろう」と話した。
(後略)
⇒参照・引用元:『毎日経済』「대통령실 “한미정상회담 전 IRA·반도체법 모두 해결”」
この『毎日経済』の報道が正しいのであれば、韓国政府は「IRA」および半導体法、そのガードレール条項についての交渉を諦めたことになります。
邪推するなら、来る米韓首脳階段でそのような論争をして対立を際立たせたくないのでしょう。
しかし、合衆国の同法は韓国の半導体産業を追い込むものであることは間違いないのです。合衆国からすれば「あれだけ言ったのに逃げ遅れたヤツなんか知らんよ」ですが、韓国政府は諦めてはならないし、(もし報道が事実なら)大統領室の人間が記者に対してこのようなことを言ってはいかんでしょう。
韓国の半導体企業『サムスン電子』『SKハイニックス』からすれば、オレたちを見捨てるのか――に他なりません。
たとえ可能性がなくても、少なくとも「粘り強く交渉を続けている」ぐらいは言うべきです。
(吉田ハンチング@dcp)