日本に帰化されたシンシアリー先生の本が出ているのでご紹介します。
『THE NEW KOREA』(新しい朝鮮)という訳書です。
Alleyne Ireland(アレン・アイルランド)さんが1926年に書いた本を現代日本語訳・解説したもので、日本の併合時代の統治がいかに革新的なものだったのかを知ることができる好著です。
アレン・アイルランドさんは「植民地行政」研究の専門家
アイルランドさんは、1871年生まれのイギリス人で、19世紀、20世紀諸島にかけてのアジア・アフリカ、カリブ海地域などの植民地を訪問し、その統治システムや社会構造について観察・分析した人です。
1951年に亡くなっていますが、植民行政について知悉したジャーナリストでした。
世界各地に植民地を有していたイギリスの人ですから、植民地の行政システムを分析するのには向いていたといえるでしょう。
世界の植民地統治研究の草分けともいえる人物で、アメリカ合衆国の雑誌などで広く執筆活動を行ないました。
1901年には、合衆国の『シカゴ大学』に招聘され、極東の植民地運営を研究するための委員会の責任者に任命、極東に派遣されました。
イギリス、フランス、オランダ、そして日本による植民地経営のシステムを研究。フィリピン滞在の後、合衆国に帰還。
新しく設立された『シカゴ大学』の植民地・商業学部の責任者に就任。その研究方法は、さまざまな客観的データを用いて中立的な立場で「現実」を把握することに努めたもので、アイルランドさんの研究は学術的に高い評価を受けています。
まず、当時の植民地行政についての客観的な記録であるという意味が大きなものです。
複数の植民地の比較を行っていることにも価値があります。現代のポストコロニアル研究や国際開発研究の先駆者とされるのは、そのためです。
第2に、植民地統治の現場を実際に自分で観察し、批判的に分析するという、その姿勢です。アイルランドさんは後の研究者に大きな影響を与えた、といえます。
「新しい朝鮮」というのは……
今回、シンシアリー先生が翻訳・解説したのは、『THE NEW KOREA』という日本の朝鮮併合によって、どのような変化が朝鮮半島にもたらされたのか――に焦点を当てたアイルランドさんの著書です。
これは、朝鮮(あるいは韓国)ウォッチャーにとっては「古典」ともいえる著作で、日本の朝鮮半島統治の「本当」を知るための、必読の書といってもいいでしょう。
タイトルにもなっている「新しい朝鮮」については、少し説明が必要でしょう。アイルランドさんは、「何」を新しい朝鮮と述べているのでしょうか。
以下にシンシアリー先生訳から引用してみます。
(前略)
私が書いているこの『新しい朝鮮』(※ニューコリア)は、その斎藤総督の賢明で配慮ある統治のもとに発展してきた、まさにその『新しい朝鮮』のことである。
(後略)⇒参照・引用元:『THE NEW KOREA』著:アレン・アイルランド 翻訳・解説:シンシアリー,2025年03月10日,p89
アイルランドさんが「新しい朝鮮」と書くのは、斎藤実さんが『朝鮮総督府』の総督を務めた時代の朝鮮のことを指しています。
斎藤総督をTopとする統治が朝鮮に大きな飛躍をもたらすことになると「確信している」と述べているのです。
――実際そうなりました。
新しい朝鮮は、李氏朝鮮のくびきから逃れて近代化へ大きな飛躍を遂げていったのです。その躍進ぶりについてのデータも本書ではきちんと網羅されています。
※斎藤実さんは第3代(1919年~)、および第5代総督(1929年~)。ちなみに歴代総督のうちただ1人の海軍大将(他はみな陸軍大将経験者)。
アイルランドさんの『THE NEW KOREA』は、は日本語訳が他にもあるのですが、筆者はこのシンシアリー先生の新板をおすすめします。
要所、要所で、分かにくい点にシンシアリー先生の解説が入っており、これがとても参考になるからです。
例えば、アイルランドさんが新興宗教の自由について述べた箇所について、シンシアリー先生は、以下のような解説を加えています。
(前略)
原書でも、あとで似たような話が少しだけ出てきますが、中には、「日本ではキリスト教を教えることができない(欧米では普通に学校で教えていました)」、「日本ではキリスト教を信じると罰せられる」というフェイクニュースを広げる人たちもいました。また、当時の朝鮮の独立運動家たちは、キリスト教徒でありながら民族主義者である場合も多く(本来キリスト教は民族主義とは相反するもので、この組み合わせはかなり異例です)、一部の欧米の人たちは、日本が独立運動家たちを取り締まることが、キリスト教徒を苦しめているものだと勘違いしていました。
(後略)⇒参照・引用元:『THE NEW KOREA』著:アレン・アイルランド,翻訳・解説:シンシアリー,2025年03月10日,p89
実に的確な解説だといえます。
ご注目いただきたいのは「本来キリスト教は民族主義とは相反するもので、この組み合わせはかなり異例です」という部分です。宗教にうとい日本人にはあまり気づかない視点だといえます。
シンシアリー先生はもともとキリスト教徒でしたから、こういう慧眼な指摘ができたと思われます。
民族主義者でキリスト教徒というのはおかしいだろ、この人の中でどういう整合性がとれているんだ――と古田博司先生が指摘されたことがあります。
韓国の初代大統領、李承晩――のことです。
李承晩(イ・スンマン)さんの場合は、その上に両班出身(没落はしていましたが)で、儒学が基礎素養。よく人格が分裂しないな――という人でした。
ちなみに、現在の韓国が大統領制になっているのは李承晩(イ・スンマン)さんが駄々をこねて押し通したからです。初代までさかのぼれば、韓国が議院内閣制になる可能性もあったのです。
李承晩(イ・スンマン)さんのことはともかく、このシンシアリー先生が翻訳・解説した新訳「THE NEW KOREA」はおすすめです。
過去に読んだことがあるよ、という人も手に取ることをおすすめします。
(吉田ハンチング@dcp)