いま中国では、いわゆる「全国民への社会保障義務化」をめぐって波乱が起こっています。
これは社会保障の保険料をきちんと法に従って適用せよ――というもので、中国の最高裁が2025年08月01日に公告しました。
・労使間で社保を払わないと合意しても、それは無効
・未納なら労働者は契約解除と経済補償請求ができる
――という法解釈を示しました。
労働者の権利が守られるという、一見いい話なのですが、国民また事業者からも反発が生じています。
これまで法に従い保険料を徴収されていなかった労働者は「それでは手取りが減る」として反発し、保険料を支払っていなかった事業者は「支払えない・事業が成立しなくなる」として反発しているのです。
この戦いは、メディアも巻き込んで大きな波風を立てています。
『人民日報』では、今回の最高裁の公告は新規の法が定められたわけではなくて、法のとおりに全国どの地域でもきちんと社保の保険料を適用しろ――といっているのであって、ネット上の掲示板などにある「“全民強制社保”新規導入」などの言説はオーバーで正しくない、と述べています。
例えば『新浪財経』では――小規模飲食店では「これまで暗黙の不納付」慣習があったものの、補納+経済補償リスクを意識する経営者が増加した――と述べています。
どのメディアも「全国民に社保強制」というのは誤解だとしながら、これが景気をさらに下押しすることになるのではないか――と「おっかなびっくり」な様子が見て取れます。
韓国の下をいくどん底景気の中国ですが、この社保徹底措置は、短期的には下押し圧力になるのは間違いありません。
なぜなら「社会保険料を法律どおりきちんと取る」ことになれば、労働者の皆さんが心配しているとおり「手取りが減る」ことになって、そのぶん消費が減少することになるからです。
また事業者側からしても、これまで規定どおりに社保代金を納付してこなかったのなら、以降はその分は吐き出さなければならず、そのぶんお金が減少します。会社のお金が減れば、投資は減らざるを得ません。
政府からすれば「取り分」が増えるわけですが、問題はそれでも社会保障のシステムが維持できるかどうか分からない――という点です。
実施は2025年09月01日です。
中国の標準的な“社保(五険)”のベースはほぼ全国で共通化されています。
企業年金拠出(基本養老)16%(2019年から多くの省で16%に統一)、失業0.5%(企業)/0.5%(個人)、医療は都市ごと(上海は企業9%(うち生育0.5%含む)、個人2%)、労災は業種別0.2~1.9%(企業のみ)。
ここに住房公積金(住宅積立金:企業・個人とも各5~12%)が都市の裁量で上乗せされます(北京の正式通知でも5~12%)。
この前提で単純合算すると(例:上海の公的料率+公積金を変化させて計算):
企業側=養老16%+医療9%+失業0.5%+労災0.2~1.9%+公積金5~12%
⇒ 約30.7~39.4%。
個人側=養老8%+医療2%+失業0.5%+公積金0~12%
⇒ 10.5~22.5%(※「10.5%」は公積金を含めない五険のみ、「22.5%」は公積金12%を最大で積むケース)。
(吉田ハンチング@dcp)






