『韓国銀行』李昌鏞総裁「通貨スワップの話なんかしないよ」。

広告
おススメ記事

先にご紹介したとおり、韓国は国政監査のシーズンです。

2025年10月20日、国会企画財政委員会の国政監査に出席した『韓国銀行』の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、韓国政府とメディアの期待を木っ端微塵に砕きました。

結論からいえば「通貨スワップの話などしていない」――と述べたのです。;

『共に民主党』のジン・ソンジュン議員の、

「『韓国銀行』と合衆国財務省間の通貨スワップ案を検討したことがあるか」

――という質問に対して、李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、

「アルゼンチンのケースのような話をしているようだが、通貨スワップは短期的な流動性を目的とするものであり、(3,500億ドルのような)長期投資やそのような目的に使われるものではない」

「恐らく今回の交渉チームも、われわれが年間で供給できる外貨の規模(最大200億ドル)がどの程度なのかを十分に認識した上で交渉を進めていると承知している」

――と答えました。

「通貨スワップは短期的な流動性を目的とするものであり」については、Money1でもご紹介してきたとおりです。

韓国政府が「よこせよこせ」と連呼している中央銀行間の(しかも無制限の)「ドル流動性スワップ」は、金融危機時のバックストップになるためのものであって、投資資金になるものではありません。

しかし「アルゼンチンのケースのような話をしているようだが」には少し説明が必要です。

「ESF」は米国財務省が保有する「国家の外為安定用・緊急即応資金」

ちょっと回り道になるのですが、合衆国政府が持つドル供給について理解するのに必要な知識ですので、ここでご紹介しておきます。

できるだけ簡単にやっつけるのでどうかご寛恕ください。ESFについてすでにご存じの方は次の小見出しまで飛ばしてください。

韓国メディアでは「アルゼンチンとは通貨スワップを締結するくせに、韓国とは締結しないのか」といったひがみみ根性丸出しの反米発言が散見されますが、これは中央銀行『韓国銀行』のドル流動性スワップと、アルゼンチン救済策を混同しています。

先にMoney1でもご紹介したアルゼンチンとの通貨スワップなるものは、中央銀行間のドル流動性スワップではありません。

これはアルゼンチンの中央銀行に「合衆国政府」が外貨(ドル)を融通するというものです。

具体的にいうと財務省が持つESF(Exchange Stabilization Fundの略で日本語では「為替安定基金」)を使うのです。

このESF(為替安定基)は、合衆国財務省(U.S.Department of the Treasury)が管理・運用している国家の外為安定用・緊急対応資金です。

1934年に「Gold Reserve Act(黄金準備法)」に基づき設立されました。当時の世界は金本位制の崩壊期にあり、ドル相場を安定させるために創設されました。

つまり連銀とは別のルートで、政府が直接ドル売買を行う場合に使用し、相場を安定させるためのものだったのです。

至極簡単にいうと「緊急時にドル流動性を供給するための合衆国政府が持つプール資金」です。

この資金は、合衆国財務長官が管理し、会計上の位置付けは一般予算とは別の「特別会計(off-budget account)」になっています。

また国会承認が不要で、個々の取り引きに議会承認不要なため、トランプ大統領が「アルゼンチンを救わねば」などと言い出したときには、即応性のある資金源となるわけです。

実際、1995年のメキシコ「ペソ危機」の際に約200億ドルの救済支援でESFが使われたことがあります。また、1997年のアジア通貨危機、2008年のリーマン・ショック時にもこの基金の出番となりました。

2020年のコロナ危機では、『FRB』(Federal Reserve Boardの略:連邦準備制度理事会)の緊急融資プログラムへの保証資金提供の役割(約4,540億ドル枠の一部を担う)を果たしました。

2025年08月末時点で、合衆国財務省が保有するESFの規模は「総資産:約2,209.6億ドル」です(下掲が財務省が公表しているデータ)。

ちなみにトランプ政権がアルゼンチン政府を支援しようというスキームはこうです。

すでに合衆国財務省と『アルゼンチン中央銀行(BCRA)』は「200億ドル規模の為替安定(通貨スワップ)協定」を締結しています。

上記のとおり、これは中央銀行間のドル流動性スワップではありません。

核心部分は、合衆国財務省(ESF)と『BCRA(アルゼンチン中央銀行)』の二国組織間スワップであることです。

合衆国側がEFSからドルを供給し、アルゼンチン側がペソを差し出し、これを交換。満期が来たら反転決済(スワップバック)を行います。

ただし期間・ヘアカット・金利やマージンなどは未公表です。また、これに民間シンジケート・ローンが加わった二層構造になっていますが、担保や保証などについてはまだ協議中で公表されていません。

上掲で、『韓国銀行』の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁が「アルゼンチンのケースのような話をするようだが……」は、このESFを利用した仕組みについて言っているのです。

通貨スワップなんか無理だしお門違い

本筋に戻ります。

韓国政府が執拗に「恵んでくれ」と物乞いを続けているのは、中央銀行間の(しかも無制限の)「ドル流動性スワップ」です。

合衆国財務省がアルゼンチンと締結した「為替安定(通貨スワップ)協定」は、ドル流動性スワップではありません。

しかも上掲のように、ESFには「総資産:約2,209.6億ドル」しかないのです。

韓国には合衆国に投資する3,500億ドルがないよね――という話に、なぜ合衆国財務省がプール資金を出してやらねばならないのでしょうか。

『国民の力』のパク・ジョンフン議員の、

「無制限の米韓通貨スワップ締結など、さまざまな話が出ているが、現実的に可能なのか」

という質問に対して、『韓国銀行』の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、

「こうしたオプション(無制限・財務省との通貨スワップなど)が今なぜ議論されなければならないのか、よく分からない

「おっしゃった(無制限通貨スワップに関連する)さまざまな副作用のために、(通貨スワップ締結に関する)現実化する可能性は高くないと考える

――と述べました。

また、「『FRB』のパウエル議長にもお会いになりましたか?」という質問に対しては、

「はい、会いました。

FRBの通貨スワップは、現在私たちが抱えている問題とは全く合致しないので、その話をする必要はありませんでした

――と李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁はキッパリと答えています。

これまた先にご紹介しましたが、李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁はG20財務大臣・中央銀行総裁会議に出席するため、2025年10月16日合衆国ワシントンD.C.に出張していました。

もちろん『FRB』のパウエル議長もいたのですが、韓国政府が必死になっているにもかかわらず、李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は「通貨スワップ」の話など一切していません。

韓国政府が執拗に求めている無制限のドル流動性スワップなどお門違いな話ですし(もう何度だっていいますが投資資金を入手するためのものではありません)、そんなばかな話をパウエル議長にもちかけなどしたら恥ずかしい――と分かっているからです。

李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は「はは、オレバカ嫌い」という風のある人なので、無知蒙昧な議員の質問が我慢ならないのでしょう。

ハッキリ言いますが、韓国の政治家が「スワップが成らねば関税交渉は進まない」などの調子で発言することの方が、国際的には不見識に映るのです。恥ずかしいことです。

もっとも韓国の政治家に「恥ずかしい」という感情があれば、このような国にはなっていません。

(吉田ハンチング@dcp)

広告
タイトルとURLをコピーしました