「四月危機」で、多くの韓国企業が資金難に瀕しています。この危機に対処するため、2020年04月23日、文在寅大統領は「強力な意志を持って基幹産業を必ず守ります」と発言。
「40兆ウォン規模」の基幹産業支援を行うことを決めました。これが「危機克服と雇用のための基幹産業の安定基金」――「基幹産業安定基金」です。
以下はその基金の構想をイメージ図にしたものです。
この新型コロナウイルス騒動のため韓国には「○○○基金」が増えるばかりです。まあ、名称はどうでもいいのですが、問題は「基幹産業安定基金」の財源です。
40兆ウォンの債券を市場に流す!?
先の、国民に支給する「緊急災害支援金」の財源約9兆7,000億ウォンについては、赤字国債を発行しなくても済むように、すでに決定された予算の支出をやりくりすることで捻出しました。
先の記事でご紹介したとおり、F-35ステルス戦闘機の導入を諦めたり、為替介入資金の支出を削ったりなどをしたわけです。
ところが、今回の「基幹産業安定基金」40兆ウォンの場合は、さすがに規模が大きすぎて既存の予算からは絞り出すのはもう不可能です。
どうするかというと、
基金が設置される『韓国産業銀行』が「国家保証付き基金債権」を上限40兆ウォン発行してまかなう
つもりなのです。
いろいろ目茶苦茶なのですが、まずその債券そのものの「性質」です。
韓国政府が保証を付けて、国策銀行から発行される債券――国債と何が違うの?という疑問がわきます。むしろ国債を発行して財源を賄(まかな)う方が分かりやすくて良かったのではないのか、と。
実際、韓国メディア『聯合ニュース』の2020年04月23日の記事「基幹産業基金40兆ウォンも『事実上国債の調達』…債券市場の爆弾か」の中でも以下のような部分があります。
金融上のある関係者は「国債は国が直接発行し、資金債券は国が保証して第3者(基金)が発行する」とし「国家債権と評価が同じで、事実上、国債とまったく同じだ」と述べた。
⇒参照・引用元:『聯合ニュース』「基幹産業基金40兆ウォンも『事実上国債の調達』…債券市場の爆弾か」(原文・韓国語/筆者(バカ)意訳)
次に「金額」です。
「40兆ウォン」規模という話ですが、2019年の韓国の「国債純増発行規模」がまさに「44兆5,000億ウォン」なのです。つまり「国債ではないけど、国債と同じ『(信用の)質』の債券をほぼ国債と同じ金額分だけ市場に流す」わけです。債券市場が明らかに過剰供給になると考えられます。
上掲記事では以下のように関係者の声を引いています。
債券市場の関係者は、「政府が40兆ウォンの発行を考えている場合は規模が大きすぎて何を言うべきか分からない」とし「どのように発行しても負担になるしかない数字」と述べた。
債券市場関係者も、この「基幹産業安定基金」の債券発行の話だけで呆然としているのです。
さらに「誰が買うの?」です。
この債券は誰かに購入(投資)してもらって、はじめてお金に換わるわけです。この投資家心理が冷え切っている環境で誰がこの債券を購入する(引き受ける)のでしょうか?
企業? 証券会社? 市中銀行? 国策銀行が発行した債券を市中銀行に買ってもらって、企業にお金を入れる?それなら債券など発行せずに、市中銀行に企業への融資を増やしてもらったらどうなの?――などと、考えるほどアタマの中を疑問符がぐるぐる巡るのではないでしょうか。
ですから、この文在寅大統領がぶちあげた40兆ウォン規模の「基幹産業安定基金」は、「産業銀行」に丸投げして、「40兆ウォン分の債券を発行してお金を作れ」という時点でもうなんだかヘンなわけです。
たぶんこのスキームでは40兆ウォン集めるのは無理ではないでしょうか。
恐らく一番簡単な解答は、産業銀行(基幹産業安定基金)が発行する40兆ウォン分の債券を無条件に全部『韓国銀行』が引き受けることです。
ただ、この「基幹産業安定基金」について、韓国銀行がどんな役割を果たすのかは明らかになっていません(何もしないのかもしれませんが)。
文大統領本人は、赤字国債を発行して責任を取りたくないのかもしれませんけれども、こんな中途半端な金額では支援を求めている業種の多くをカバーして救うことはできません。その上、40兆ウォンのお金を集めるスキームまで可能かどうか分からないのです。
だからやっぱり無理スジですってば。
(柏ケミカル@dcp)