2022年05月21日の米韓首脳会談の結果、韓国で期待が盛り上がっていた「ドル流動性スワップ」(韓国側呼称は「通貨スワップ」)ですが、共同声明ではスの字もありませんでした。
先にご紹介したとおり、共同声明では「両大統領は、持続可能な成長と秩序正しく機能する外国為替市場を含む金融の安定を促進するため、外国為替市場の発展について緊密に協議する必要性を認識する」という文言は入りました。
そのため、「通貨スワップは無理だったチャンチャン」とはならずに、「これは通貨スワップ締結の布石だ」という解釈をした記事が韓国メディアに出ています。
例えば、『中央日報(日本語版)』には「韓米共同宣言文に初めての登場した為替市場協力…「常設通貨スワップ」構築の土台か」というタイトルの記事が。
『edaily』には「為替レートの不安はぬぐえなかった…米韓常時通貨スワップ不発」というタイトルながら「通貨スワップ議論が水面下で行われるのではないかという観測もある」などと書いています。
折れない心には敬服しますが……
『中央日報(日本語版)』の記事は読者の皆さんも読んでいらっしゃるでしょうから、『edaily』の記事の一部を以下に引用してみます。
(前略)
王允鍾(ワン・ユンジョン)経済安保秘書官は「外国為替に関する協力文句は共同宣言に初めて登場したのではないかと思う」とし「両首脳が金融市場を含めて外国為替市場全体の安定化に多くの関心を持っていると理解してほしい」と強調した。ただし、両国金融共助のための具体的な案が導出されなかったのは残念だ。
(中略)
通貨スワップの議論が水面下で行われるのではないかという観測もある。
政府高位関係者は「企画財政部と合衆国財務省が今後も引き続き協力するという発表は通貨スワップの話が交渉テーブルに再び上がるという意味」とし「短期的な一時スワップを議論することもでき、長期的な常時スワップ議論もなされる可能性がある」とした。
(後略)
懲りないというかメゲないというか、折れない心には敬服するしかありませんが……共同宣言に為替安定の件が入ったのは史上初めてではないか、と大統領室の王允鍾(ワン・ユンジョン)経済安保秘書官が述べたのは確かでしょう。
しかし、その後の「水面下で通貨スワップが話し合われる」というのは観測に過ぎませんし、誰なのか大いに疑問ですが、政府高位関係者の「企画財政部と合衆国財務省が今後も引き続き協力するという発表は通貨スワップの話が交渉テーブルに再び上がるという意味」というのも本当かどうか分かりません。
そもそも「為替安定について共同声明に初めて入った」というのも、韓国政府が泣きついたからだったらどうでしょうか?
つまり、韓国とドル流動性スワップを締結する気はさらさらないのですが、「為替安定に両国が協力するぐらいの文言だったら入れてもいいよ」と合衆国が対応したのが本当のところだったら――です。
ぐらぐらの土台の上に楼閣を造ろうとしている
この為替安定についての文言は「韓国政府が粘ったので入った」と推測できます。
というのは、この異例ともいうべき「為替レート安定への文言」は共同宣言のヘンな位置にあるのです。
「韓米首脳会談の共同声明」の全文を掲載した先の記事でも確認をいただけたらいいのですが……まず共同声明全文は以下のような構成になっています。
<<前段>>
<<平和と繁栄のための支柱>>
<<戦略的な経済・技術パートナーシップ>>
<<グローバルな包括的戦略的提携 朝鮮半島を超えて>
「為替レート安定への言及の文言」は「戦略的な経済・技術パートナーシップ」の中の一番最後、「グローバルな包括的戦略的提携 朝鮮半島を超えて」の直前にあります。
しかも、「戦略的な経済・技術パートナーシップ」のチャプターは、両首脳が
とし、話はこれに関しての人材交流、グローバルサプライチェーンの話に展開。
ロシアのウクライナ戦争によるエネルギー市場の話になって、クリーンエネルギー政策から小型原子炉の開発、基盤整備の件へと進んで、次に宇宙開発の話になります。
そして突然、今回の為替安定の話が出てくるのです。
非常にうがった見方かもしれませんが、小型原子炉・宇宙開発・為替安定については韓国側の要望によって入れたものではないでしょうか。
なぜなら、文前大統領の脱原発スキームによって痛めつけられた原発産業の復権、昨年失敗したロケット事業の回復、為替安定については、全部韓国新政権が欲しいものだからです。
もしこれが本当に韓国の要望によって入れたものであれば、「為替安定について入っているのは異例」と韓国メディアが書くのはおかしな話です。
「通貨スワップは要るんだー」とメディアが騒ぐので韓国政府が共同声明に入れてくれと泣きついた結果――といえるからです。
異例の要望をした結果なので異例になって当然です。
仮に「為替うんぬんの話が韓国政府が泣きついた結果」でなかったとしても、共同宣言には「外国為替市場を含む金融の安定を促進するため、外国為替市場の発展について緊密に協議する必要性を認識する」としか書いていません。
イヤな指摘かもしれませんが「協議する」とも書いていないのです。「協議の必要性があると認識する」ですから「協議してもいいよ」です。
なので、この共同声明を基に「通貨スワップ締結が協議される」「常設通貨スワップへと話は進む」などと述べることは、グラグラの土台の上に楼閣を造るような話です。
とりあえず、本当にこの先ドル流動性スワップについて議論されるのか、にご注目ください。
(吉田ハンチング@dcp)