10年越しにOINKの典型例といわれた『ローンスター』事案が結審しました。
先にご紹介したとおり、『ICSID』(International Centre for Settlement of Investment Disputesの略:国際投資紛争解決センター)が出した裁定は、「『韓国外為銀行』の売却に対して韓国政府が遅延行為を行った」と認定しています。
これは実質的勝利などではなく、韓国政府の敗北です。
支払わなければならない金額は「2億1,650万ドル」(+完済日までの利子)と、『ローンスター』が求めていた「46億7,950万ドル」よりも少なくなりましたが、その理由は大部分が『ICSID』仲裁部の介入できる以前の話だから――というだけです。
2022年08月31日に『ICSID』から判決が出た後、同日中に韓東勳(ハン・ドンフン)法務部長官が記者会見を行い、不満を表明しました。
↑マスクを着けないとやっぱり山崎邦正(月亭方正)さんに似ている韓東勳(ハン・ドンフン)長官。2022年08月31日の記者会見にて。
記者会見では、韓東勳(ハン・ドンフン)長官は、「『ローンスター』の請求額からは大きく減額されたが、今回の仲裁部の裁定については受け入れがたい」と話した。
韓東勳(ハン・ドンフン)長官が受け入れがたいと述べたのは、韓国政府の責任を認めた裁定であるからです。
「仲裁判定で少数の意見が韓国政府の意見をそのまま受け入れて、(ロンスター請求を)全く認めなかったことだけを見ても、手続き内で最後まで争うことになると思う。政府は取り消し申請などを積極的に検討する」としました。
「少数の意見が」……というのは、今回の裁定は3人の仲裁委員によって審議されたのですが、このうち2人が韓国政府の責任を認め、1人は認めませんでした。そのため、韓国政府の意見が全面的に認められる目は十分にあると見ているようです。
韓東勳(ハン・ドンフン)長官は「最後まで戦う」と述べましたが、裁定の取り消しを申請するには120日以内に行わなければなりません。
『ローンスター』と因縁深い尹政権の面々
不思議なことに、尹錫悦(ユン・ソギョル)政権の高官は、かつて『ローンスター』事案に関わった面々ばかりです。
先にご紹介しましたが、尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領と韓東勳(ハン・ドンフン)法務部長官は、『ローンスター』が為替操作を行ったとした疑惑を操作する検察チームの一員でした。
さらに、韓国の情報機関『国家情報院』のNo.2である企画調整室長に就任したチョ・サンジュンさん、金融監督院の院長となったイ・ボクヒョンさんも検察チームにいました。
『ローンスター』はこの疑惑によって起訴され有罪となりました。
そのおかげで『韓国外換銀行』を『ハナ金融グループ』に売却する際の価格が安くなりました。
『ローンスター』は「4億3,300万ドル」安くなったと見積もり、この半分に韓国政府の責任がある――と『ICSID』に認定されたわけです。
つまり、今回『ICSID』に認定された「2億1,650万ドル」の損害賠償は、当時の検察が頑張って有罪にしたからともいえるのです。
『ローンスター』事案に関係のあるのは、尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領と韓東勳(ハン・ドンフン)法務部長官だけではありません。
秋慶鎬(チュ・ギョンホ)副首相兼企画財政部長官(財務大臣に相当)と韓悳洙(ハン・ドクス)国務総理(=首相)もかつて関わっていました。
まず、秋慶鎬(チュ・ギョンホ)さんは、財政経済部の銀行制度課長として「『ローンスター』が『韓国外換銀行』を売却するときの金額について」を議論する会議に参加していました(「10人会議」をいわれます)。
2012年に『ローンスター』が『ハナ金融グループ』に売却する際には、金融委員会の副院長でした。
今回『ICSID』がその管掌範囲を超えて売却承認を遅延させた、と指摘した金融委員会のメンバーだったのです。
次に、韓悳洙(ハン・ドクス)国務総理は、2003年に『ローンスター』が『韓国外換銀行』を買収した際には、『ローンスター』の法的な代理人を引き受けた法律事務所の顧問でした。
韓悳洙(ハン・ドクス)さんは、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権で経済副首相を務めた2006年には「『ローンスター』が投資しなければ『韓国外換銀行』は破産状態だった」と発言したことで知られています。
このように、尹錫悦(ユン・ソギョル)政権の高官たちは、多くが『ローンスター』事案のかつての関係者です。
本当に尹錫悦(ユン・ソギョル)政権が『ICSID』に対して「裁定の無効化」を申し立てるのかにご注目ください。無効申請を行っても結果が出るのは1年後などになりそうですが……。
(吉田ハンチング@dcp)