韓国メディア『朝鮮日報』に面白い記事が出ています。
スタートアップ企業の紹介をする記事で、ミス韓国に選抜されたことのあるガーディウス・ユ・ヘミさんが代表を務める『커스벤(CUSVEN:カスベン)』が、「ドレスウォッチ」を製造・販売しており、これはかつての「時計強国」時代を思い起こさせるものだ――という内容です。

↑『CUSVEN』の公式サイト/スクリーンキャプチャー
記事から一部を以下に引きます。
韓国はかつて時計強国だった。
1970年代以降1990年代まで、韓国はスイス、日本に続く時計3大生産国と呼ばれた。
サムスンなど大企業も時計を作って海外に輸出し、貴金属店では国産ブランドの時計が婚礼の贈り物として愛された。
韓国時計の「第二の全盛期」を準備する人がいる。
ガディウス・ユ・ヘミ(43)代表は、ドレスウォッチブランド「カスベン」を運営している。
韓国だけでなく日本・スイス・イタリアなど世界各地から高級部品を取り寄せ、数十年時計を扱ってきたわが国の時計職人が組み立てる。
ユ代表に会い、小さな時計の中に隠された複雑な物語を聞いた。
◇ラグジュアリー時計とスマートウォッチの間の隙間を狙うブランド
カスベンはクラシックなデザインのドレスウォッチ専門ブランドだ。ホームページで自分の嗜好に合わせてカスタマイズできる。
(後略)
まず、多くの日本人が「韓国はかつて時計強国だった」に「?」となるでのはないでしょうか。
時計強国の意味にもよりますが、韓国がかつて時計をやたら輸出していたのは確かです。
ただし「スイス、日本に続く時計3大生産国と呼ばれた」は強弁です。「香港」をなかったことにしています。
韓国は日本を真似してやたらに時計を輸出していた
FOK OI-LING, CATHERINE(霍靄玲)さんとCHEUNG TUNG-LAN, TONY(張東林)さんが著した「A STUDY OF THE HONG-KONG WATCH AND CLOCK INDUSTRIES」(1987年05月)の中から数字を引いてみます。
これは、香港の時計産業がいかに巨大になったのかを研究した論文で、1979~1985年の時計輸出の量と金額が記録されています。
1985年 時計輸出量
スイス:2,506万1,000個
日本:6,496万7,000個
香港:3億2,515万6,000個
韓国:2,011万2,000個1995年 時計輸出金額(単位:香港ドル)
スイス:110億1,500万香港ドル
日本:79億4,400万香港ドル
香港:66億1,600万香港ドル
韓国:9億2,000万香港ドル
1985年時点で、スイスは2,506万個の時計を輸出していますが、日本はその約2.6倍の「6,496万個」の時計を輸出しています。
日本が世界的な時計輸出国になったのは、クオーツ時計の発明によります。1969年に『セイコー』が開発した世界初の量産型クォーツ腕時計「アストロン」は産業の転換点でした。

↑世界初の量産型クオーツウオッチ「セイコー クオーツアストロン 35SQ」/PHOTO(C)Seiko Epson Corporation
ただし、輸出急増の決定的な要因は「ICの大量生産とLCD/LEDの普及(日米メーカーの低コスト化)」「電池・歩留まり・自動化の改良による一気の低価格化」「OEM/ODMと垂直分業の進展」などの複合的です。
上掲のとおり、韓国も大きく輸出量を増やしていますが、これは日本の成功を真似した(パクった)からです。また、上掲のとおり「香港」をすっ飛ばしています。
香港の輸出量は1985年時点で3億個を超えています。異常な数字ですが、これは「時計の組立は労働集約型で、数台のボンディングマシン※や検査機器があれば大量に生産することが可能だった」点が大きな理由です。
※ボンディングマシンというのは部品同士を電気的・機械的に接合する工程で使われる機器のことです。ICチップを基盤に接続したり――といったことに使用します。
1985年時点での輸出量と金額が分かっていますので、時計の単価を計算してみると以下のようになります。
スイス:439.5香港ドル(約8,459.5円)/本
日本:122.3香港ドル(約2,353.7円)/本
韓国:45.7香港ドル(約880.8円)/本
香港:20.3香港ドル(約391.5円)/本
※( )内の円換算は1985年の「1HKD = 19.2445JPY」を用いました。
スイスは高級時計と輸出していましたが、香港はその1/20未満の価格で大量に時計を輸出していたことが分かります。
韓国は日本の半額未満の価格(約37.4%)の価格で輸出していたのです。
今回の記事で新たな韓国のスタートアップ企業として「カスベン」が紹介されていますが、「日本・スイス・イタリアなど世界各地から高級部品を取り寄せ、数十年時計を扱ってきたわが国の時計職人が組み立てる」というもの。
そもそも韓国に「数十年時計を扱ってきた時計職人」という人は存在するのでしょうか。
(吉田ハンチング@dcp)







