2022年11月23日、『韓国銀行』が待望の「International Investment Position」(対外資産負債残高:略称「IIP」)を公表しました。
今回のIIPは、2022年第3四半期までの結果です。毎月公表される国際収支統計はフローですが、IIPはストックです。つまり残高を示しています。
下掲が公表された最も大事な表組2Pですが、これでご飯三杯はいけるというものです。いけない人は飛ばしてください。
⇒参照・引用元:『韓国銀行』公式サイト「International Investment Position(Q3 2022)」
純資産が増えて万歳なのか?
まず全般的状況としての対外資産(韓国が外国に投資した結果の資産)、対外負債(外国が韓国に投資した結果の負債)、および純資産(資産 – 負債)は以下のようになりました。
対外資産:2兆829億ドル(-406億ドル)
対外負債:1兆2,669億ドル(-826億ドル)
純資産:7,860億ドル(+419億ドル)※( )内は対前期比の増減額
⇒参照・引用元:『韓国銀行』公式サイト「International Investment Position(Q3 2022)」
資産が「406億ドル」減りましたが、負債はその倍以上の「826億ドル」も減少したので、結果的に純資産が「419億ドル」増えることになりました。
韓国は資産の方が多く、純資産は「7,860億ドル」あります。
では「純資産が増えた。良かった!」という話なのでしょうか。いいえ。実はいろいろと面白い点があるので、幾つかご紹介します。
「負債が減った」と字面だけ見ると、なんだか借金が減って喜ばしく思えるかもしれませんが、これは外国からの投資が減少していることを意味します。
負債が826億ドルも減少した最大の理由は何か?です。
外国人は韓国の株式投資から856億ドルも抜いた
以下をご覧ください。負債の細目を見ると……です。
⇒参照・引用元:『韓国銀行』公式サイト「International Investment Position(Q3 2022)」
Portfolio investment(証券投資)の負債金額が対前期比で「856億ドル」も減少しています。
韓国への投資で株式、債券を外国人が購入した場合、負債としてここに計上されるのですが、その金額が減るということは、その金額分の株式、債券を売っぱらって逃げちゃったことを意味しています。そうでなければ負債は減りません。
つまり資金流出を意味しています。さらに細目を見ると、
Equity securities(株式):-724億ドル
Debt securities(債券):-131億ドル
小計:-856億ドル
この四半期で外国人は株式をなんと「724億ドル」、債券を「131億ドル」売却したのです。
こういうのをセルコリアというのではないでしょうか。
この4四半期の証券投資負債の部の金額推移を見ると面白いことが分かります。以下をご覧ください。
証券投資の負債金額は右肩下がりですが、それはオレンジの線が示す株式がどんどん下がっているからです。債券による負債額、銀色の線はほぼ横ばいです(この点も非常に興味深い)。
つまり、この4四半期の間に外国人は韓国の株式をどんどん売却。2021年4Qから2022年3Qまで、驚くなかれ「2,693億ドル」もお金を流出させたのです。
このような次第で、負債が減っているのですが、これは喜べる話でしょうか。
債権の資産が減少した大部分は外貨準備が減った
もう一つ、面白い点を挙げてみます。「外国からお金を取り立てることができる債権」資産の部です。以下をご覧ください。
2022年第3四半期
対外資産:1兆186億ドル
対前期比:-296億ドル⇒参照・引用元:『韓国銀行』公式サイト「International Investment Position(Q3 2022)」
対前期比で資産(assets)が「-296ドル」です。何が減ったのでしょうか?
Type別に分けた箇所を見ると「Reserve assets」すなわち外貨準備が「-215億ドル」となっています。
ちなみに、この「Reserve assets」の項目に記載されている金額は、毎月『韓国銀行』が公表している外貨準備高の数字と合致しています。
つまり、韓国は第3四半期に対外債権資産を「296億ドル」なくしましたが、そのうちの72.6%である「215億ドル」は外貨準備高の減少によって起こりました。
これまた、「純資産が増えた。ばんざーい」で済む話でしょうか。
政府と『韓国銀行』の資産が溶けちゃったのだ
他にもまだあるのですが、長くなるのでもうひとつだけ。
その消失した資産は誰がなくしたのでしょうか? Sector別のところに主犯が書いてあります。以下をご覧ください。
⇒参照・引用元:『韓国銀行』公式サイト「International Investment Position(Q3 2022)」
上掲のとおり、対前期比で「General government(一般政府)」が「-17億ドル」、「Central bank(韓国銀行)」が「-220億ドル」と、対外資産を失っています。
韓国政府と『韓国銀行』を合計して「-237億ドル」です。
全体では「-296億ドル」ですので、その約80.1%は韓国政府と『韓国銀行』が失ったのです。
もちろん外貨準備が溶けるということは、そういうことなのですが。
長くなるのでもうやめますが、他にも面白いとことがありますので皆さんもぜひ探してみてください。
(吉田ハンチング@dcp)