コロナ禍の責任を中国共産党に負わせる判決がアメリカ合衆国・ミズーリ州で出ました。
中国に
2025年03月07日、アメリカ合衆国・ミズーリ州は以下のようなプレスリリースを出しました。
ミズーリ州司法長官、COVID-19パンデミックを引き起こした中国に対し、史上最大の240億ドルの判決を勝ち取る
ジェファーソン・シティ(ミズーリ州)–本日、ミズーリ州司法長官アンドリュー・ベイリーは、新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックを引き起こしたとして、中国共産党に対し240億ドル(約3.6兆円)の損害賠償判決を勝ち取った。
この額は、ミズーリ州史上最大の判決額の6倍に当たる。
「これは、中国に責任を問う戦いにおいて、ミズーリ州および合衆国にとって画期的な勝利です」とベイリー司法長官は述べた。
「中国は法廷に出廷することを拒否しました。
しかし、それによって無数の苦しみと経済的破壊を引き起こした責任から逃れられるわけではありません。
われわれは、ミズーリ州の農地を含む中国所有の資産を押収することで、1セントたりとも漏らさず回収するつもりです」
連邦裁判所は、ミズーリ州が裁判所に対し「十分な証拠」を示し、中国がCOVID-19パンデミックを引き起こし、それを悪化させ、ミズーリ州民に損害を与えたことを立証したと認定した。
この判決は、2020年に当時のエリック・シュミット司法長官が中国共産党を相手取り提起した訴訟に基づいている。
同訴訟では、パンデミック発生時に中国が医療用防護具(PPE)を含む重要な医療機器の生産、購入、輸出を妨害したと主張していた。
ミズーリ州は今後、この240億ドルの判決金の回収に着手する。
必要に応じてトランプ政権と連携し、中国所有の資産を特定・押収する計画であり、これはミズーリ州の経済および国家安全保障を守るための重要な一歩となる。
ミズーリ州は、中国共産党などを相手どって、コロナ禍の責任を問う裁判に勝利し、約240億ドルを払わせる判決を得ました。
今回の裁判では、
原告であるミズーリ州(ミズーリ州司法長官アンドリュー・ベイリーを代表とする、以下「原告」または「ミズーリ」)は、以下の9名の被告を相手取り訴訟を提起した。
となっており、その9名の被告というのは――、
中華人民共和国
中国共産党
中華人民共和国国家衛生健康委員会
中華人民共和国緊急管理部
中華人民共和国民政部
湖北省人民政府
武漢市人民政府
武漢ウイルス研究所
中国科学院
――としています。
端的にいえば、被告は「中国」です。
しかし、他国政府を相手取っての裁判は「主権免除」の原則があって、普通は行えません。それをすれば国際法違反です。
実は、今回の裁判が面白いのはこの点にあります。
コロナ禍被害の責任をどのように中国に負わせるのか、どのように主権免除をくぐり抜けるのか――が非常に苦労した点なのです。
主権免除には「例外規定」がある!
合衆国では外国主権免除法(FSIA:Foreign Sovereign Immunities Act, 28 U.S.C. § 1602–1611) により、原則として外国政府はアメリカ国内で訴追されません。
これがいわゆる「主権免除」です。
しかし、以下のような例外が設けられており、該当する場合には外国政府に対する訴訟が可能となります。
1.商業活動例外(Commercial Activity Exception, 28 U.S.C. § 1605(a)(2))
外国政府が「商業活動」を行った場合、その行為に関する訴訟については主権免除が適用されません。
例:外国政府がアメリカ国内で商業契約を結び、その契約に違反した場合
2.不法行為例外(Tortious Act Exception, 28 U.S.C. § 1605(a)(5))
外国政府がアメリカ国内で不法行為を行った場合、主権免除が適用されません。
この主権免除の例外規定を使ったのです。
次のような理屈を編み出しました。
中国は、コロナパンデミックの存在と伝播性を隠蔽するだけではなく、PPEを買い占め独占する積極的なキャンペーンを行った。
これによって、ミズーリ州の国民は多大な迷惑を被った――これは商業的な被害であり、不法行為に当たる――だから主権免除の例外に当たるのだ――としたのです。
PPEというのは、「感染性病原体を含むさまざまな危険への曝露を最小限に抑えるのに役立つ着用品や装備品」を指す言葉です。
例えば、サージカルマスク、N95レスピレーター、滅菌手袋、手術着、フェイスシールド、医療品や医療機器、検査用品、手指消毒剤、予防薬などがこれに当たります。
「効果的なPPEを入手できることは、ミズーリ州のパンデミック対策にとって「極めて重要」であった。特にパンデミックの初期において、医療従事者用のPPEが不足していたことが、ミズーリ州のパンデミック対応を大きく妨げました」とし、
中国の妨害工作によって、それが入手しにくくなり、大きな被害を受けた――と理屈づけたのです。
中国が早期に積極的にPPEを買いだめしたこと、また、中国でPPEを生産する合衆国の工場を国有化し、中国にある米国の工場から合衆国のPPEの輸出を禁止するという独占的な手段を取ったこと――などを「中国の妨害工作」と規定しています。
この「中国にコロナ禍の責任を負わせる」裁判はいったん棄却されたのですが、控訴審ではこの理屈が通りました※。
※一度地裁で棄却されました。しかし、その後ミズーリ州が控訴。合衆国第8巡回区控訴裁判所が一部訴えを認め、再審理を命じました。具体的には外国主権免除法(FSIA)に基づく欠席裁判手続きを進めるように差し戻しが行われたのです。
中国はガン無視の欠席裁判だがそれでも成立した!
また、この裁判で注目すべきは、中国政府がガン無視した欠席裁判だったのですが、それでも成立した点です。
通常の訴訟では、被告が出廷しない場合、原告の主張が認められやすくなって、「デフォルト判決(欠席裁判による判決)」が出されます。
しかし、FSIA(主権免除)に基づく訴訟では、外国政府に対して簡単にはデフォルト判決を下すことはできません。
FSIA § 1608(e) には次のように規定されているのです。
「外国国家またはその政治的下部組織、機関、または道具的機関に対するデフォルト判決は、原告が裁判所に対して証拠を提示し、裁判所がそれを満足する形で確認した場合に限り下される」
――と。
つまり、原告が証拠を提出し、それを裁判所が「十分に納得できる」と判断した場合にのみ、デフォルト判決を下すことが可能となります。
これは、外国政府に対する不当なデフォルト判決を防ぐための仕組みです(外国政府に対して国内で次から次へとデフォルト判決を出すわけにはいかない)。
しかし今回の裁判では、原告が十分な証拠たるものを積み上げたと裁判所が判断。
――で、今回の判決、結論は以下です。
(前略)
したがって、本裁判所は被告らに対し、連帯責任として 244億8,882万5,457ドル(約3兆6,454億円) の支払いを命じる。さらに、判決後の利息(ポストジャッジメント・インタレスト)も加算されるものとする。※円換算は2025年03月12日の「1ドル=148.86円」で行いました。
「中国政府はミズーリ州に約245億ドル(約3.6兆円)払え!」です。
中国政府は払うわけがありませんが、ミズーリ州は冒頭で引用したプレスリリースにあるとおり、
トランプ政権と連携し、中国所有の資産を特定・押収する計画であり……
と述べています。資産を差し押さえてでも回収するつもりです。
先にご紹介したとおり、中国は国有企業ばっかりなので、それも押さえるつもりでしょうね。
大変に面白い判決内容ですので、原文を読みたい人は以下にアクセスしてご覧ください。
(吉田ハンチング@dcp)