韓国政府は、アメリカ合衆国の関税交渉で「対米投資3,500億ドルを行うには無制限の通貨スワップが必要」といいだしています。
合衆国政府と「無制限の通貨スワップを要求する交渉を行っている」としています。連銀が『韓国銀行』とのドル流動性スワップを締結する可能性はほぼないと見られますが、韓国政府は可能性に懸けているのです。
韓国の極左メディア『ハンギョレ』は交渉がどうなっているかについて、記事で以下のように書いています。記事から一部を引用します。
大統領室は秋夕(旧暦8月15日の節句)連休最終日の09日午後、カン・フンシク大統領秘書室長、ウィ・ソンラク国家安保室長、キム・ヨンボム政策室長が出席した中、ク・ユンチョル副首相兼企画財政部長官など韓米関税交渉の主務長官らを招集し、交渉状況を振り返った。
04日(現地時間)に米ニューヨークを訪問し、米商務省のハーワード・ラトニック長官と関税交渉の後続面談を行った産業通商部のキム・ジョングァン長官の報告を受け、後続対策を議論するためのものだ。これに先立ち、大統領室は秋夕連休期間の05日、07日、08日にも関税交渉対策会議を開いた。
会議に出席した政府関係者は「通貨スワップに関して肯定的な返事は来たのか」というハンギョレの質問に「答えるのは難しい」と述べた。
APEC首脳会議前に関税交渉妥結が可能かという質問には「時間がかかるだろう」とだけ答えた。
大統領室関係者らは「まだ交渉に進展はない」と述べているが、一部では局面転換の糸口をつかんだ気配もみえる。
キム長官はラトニック長官との会談後、06日の帰国記者会見で「今回のディール(交渉)で、韓国の外国為替市場の敏感さについてかなり共感したと思われる」とし、「われわれが送った案に対して、特に外国為替市場に対する状況に対して隔たりが埋められている」と述べた。
最大の争点である対米投資ファンド問題を扱う主務長官の口から、米国の態度についてここまで前向きな解釈が出たのは初めてだ。
一部では、韓米通貨スワップと関連して意味のある進展が見られたのではという見通しも示されている。
ただし、与党関係者は「通貨スワップについて、米国側の反応は依然として懐疑的だ」と伝えた。
(後略)
合衆国が「韓国の外国為替市場の敏感さについてかなり共感した」というのは、韓国側が想像している話なので無視して大丈夫です。いつものことです。
「答えるのは難しい」「通貨スワップについて、米国側の反応は依然として懐疑的だ」の方が重要です。
もし合衆国側がドル流動性スワップに対して肯定的な反応を閉めているなら、いわずにはいられないのが左派・進歩系政権です。合衆国は一蹴していると見た方が良いでしょう。
韓国メディア『통일뉴스(統一ニュース)』に「通貨スワップの物乞いと為替介入容認の危険性」という記事が出ています。『소통과혁신연구소(疎通と革新研究所)』のチョン・ソンヒ所長の寄稿ですが、面白い内容を含んでいますので、記事から一部を以下に引きます。
記事の主旨としては、無制限の通貨スワップを得られたとしても、金融主権を失う――という面白い主張です。
3,500億ドルの「無条件」対米投資を進めるため、政府が推進中の「韓米通貨スワップ要請」は、表向きは外国為替市場の安定措置のように包装されているが、実際には合衆国中心のドル体制により深く組み込まれる選択である。
通貨スワップは危機時に外貨を緊急確保するための安全弁のように見えるが、その鍵は完全に合衆国連邦準備制度(Fed)が握っている。
現在、合衆国が常設通貨スワップラインを締結しているのは、欧州中央銀行(ECB)、日本、英国、カナダ、スイスの5カ国のみである。
これらはすべて、世界6大基軸通貨(ドル・ユーロ・円・ポンド・スイスフラン・カナダドル)を発行する国々である。
この構造自体がドル中心の金融ネットワークであり、参加権は「信頼できる通貨」を持つ国家にのみ限定されている。
すなわち常設スワップは対等な協力装置ではなく、ドル覇権秩序の中枢を維持するための内部回路に近い。
一方、韓国ウォンの国際的地位はいまだに低い。国際決済銀行(BIS)が2022年に発表した外国為替取引統計によると、
ウォンは世界の外為市場取引の1.9%を占め、第12位にとどまった。これは、
ドル(88.5%)
ユーロ(30.5%)
円(16.7%)――などの主要基軸通貨と比較すると微々たる水準である。
さらに国際通貨基金(IMF)の統計によれば、世界の外貨準備に占めるウォンの比率は0.2%未満にすぎない。
ウォンはいまだに「非基軸通貨」であり、世界金融秩序の中で独自の安全性を認められていない。
こうした現実の中で、韓国が合衆国に「無制限通貨スワップ」を要請するということは、単なる協力要請ではない。
それは危機時に自国通貨の信頼を確保する独自装置ではなく、ドルという覇権通貨の防衛線に組み込まれる行為にほかならない。
(後略)⇒参照・引用元:『統一ニュース』「通貨スワップの物乞いと為替介入容認の危険性」
韓国では、基軸通貨という言葉が「ハードカレンシー」の意味で使われていますが、韓国のウォンが全くハードカレンシーではない――というのは『BIS』の統計からも明らかです。
「韓国が合衆国に『無制限通貨スワップ』を要請するということは、単なる協力要請ではない」――というのが面白い物言いです。
これをチョン所長は(タイトルにある)「物乞い」と指摘しているのです。
言葉は厳しいかもしれませんが「物乞い」に他なりません。
さすが「反米メディア」というべきですが、しかしこの物乞いは「ドル覇権に組み込まれることだ」とチョン所長は言うのです。
以下がこの記事の結論(めいたもの)部分です。
(前略)
通貨スワップは単なる危機対応のための技術的装置にすぎず、それ自体で経済安定を保証しない。過去の事例を振り返れば、スワップを締結したからといって、外為市場のショックや金融危機が完全に遮断されたことはほとんどない。
むしろスワップと為替交渉が結合する際、韓国のような非基軸通貨国は「金融主権を担保にとった政治的取引」という構造の中へと引きずり込まれる。
現在、韓国政府が無制限スワップを要求し、合衆国の為替引き下げ圧力と政策監視に受容的な姿勢を見せるなら、表面上は「安定」を得たように見えても、実質的には「管理される経済」への回帰を意味する。
ドル供給という名目上の安全網の背後には、合衆国の外為政策の監視と、貿易・投資政策への干渉という実質的従属が潜んでいる。
外為市場の一時的安定のために金融主権を放棄した瞬間、韓国は自らの経済政策を自由に設計・実行する権利を喪失する。
アルゼンチンの教訓は明白である。
2025年初頭、アルゼンチンは国家不履行を宣言し、ドル覇権秩序の中で通貨主権を放棄した結果、自国通貨の信頼を失い、インフレと貧困率が爆騰した。
IMFと合衆国の支援にもかかわらず、スワップ依存の構造は危機の緩衝ではなく、負債の爆弾を増大させただけだった。
これは単に他国の事例ではない。
韓国も急激なドル流出時には防衛余力が大きく弱まる。
韓国が真の金融安定を望むなら、「ドル依存の鎖」を断ち切り、外為政策の自律性を回復しなければならない。
外貨準備の多様化、ウォンの国際化、内需中心の産業構造への転換、そして多者の外為協力網の構築が、その具体的な方法である。
外為主権の回復は、単なる経済政策の選択ではなく、国家主権と金融自律性を守る問題であり、自主経済の第一歩であると同時に金融主権の最後の防波堤である。
⇒参照・引用元:『統一ニュース』「通貨スワップの物乞いと為替介入容認の危険性」
大笑いです。「外為主権」ってなんだよ――という話です。ドルを発行できる合衆国ですら、経済危機に見舞われることはあります。
韓国は金融が脆弱で、どの国も世界経済から独立して存在などできません(鎖国でもやっていれば別ですが)。それゆえに基軸通貨である「ドル」がいるのです。
反米意識が強すぎて、ドル供給を保証するドル流動性スワップを「合衆国に隷属すること」などという言説が出るのです。
「韓国では政治的でないものなど、何もない」――です。
経済を「ナショナル・アイデンティティの問題」として語るタイプの政治言説に他なりませんが、このような言説を行う人は、韓国には少なくありません。
(吉田ハンチング@dcp)






