2025年11月18日、『AidData』が中国についての渾身のリポートを出しました。
『AidData』は、『William & Mar(ウィリアム・アンド・メアリー大学)』にある「Global Research Institute」に属する研究ラボで、国際開発・対外援助・対外融資に関して「誰が・どこで・何を・誰に・どのような効果をもって」行っているかをデータで可視化すること――をミッションとしています。

今回公表されたのは「Chasing China: Learning to Play by Beijing’s Global Lending Rules(中国を追う──北京のグローバル融資ルールに従って『いかにプレーするか』を学ぶ)」というリポートで、実にPDFで449ページにもなります。
タイトルのとおり、中国の開発投資について詳細に追ったリポートです。
2000〜2023年に中国の公式セクター(国有銀行・政策銀行・政府機関など)1,193機関が供与した「2.2兆ドル」規模の融資・贈与をカバーし、217カ国・地域、3万3,580件のプロジェクト/活動を追跡・記録した、まさに渾身のリポートです
なにせ大部のリポートなので、abstract(摘要)部分だけを以下に全文和訳します。
摘要
中国の海外貸付および贈与ポートフォリオは依然として秘密に包まれており、その真の規模、目的、影響についてはさまざまな疑問が渦巻いている。
『Chasing China』は、独自に包括的かつ精緻な証拠源によって、この点を明確にする。
本報告書の著者らは、世紀転換期以降、発展途上国および先進国において北京が資金提供してきたプロジェクトと活動の全範囲を分析している。
彼らは、AidDataが新たに構築した「中国のグローバル融資・贈与データセット(China’s Global Loans and Grants Dataset), Version 1.0」を用いており、これは2000年から2023年までに、中国の公式部門の提供者および貸し手1,193 機関による総額2.2兆ドルに相当する助成金および借款で資金提供された、217カ国にまたがる3万件のプロジェクトと活動を追跡している。
本報告書は、中国の海外貸付ポートフォリオが、これまで理解されていたものよりもはるかに大きいことを示している。
しかし、発展途上国における「一帯一路」インフラプロジェクト向けの貸付は、全体ポートフォリオの中では驚くほど小さな割合(20%)しか占めていない。
中国の先進国向け貸付は、これまで小規模かつ重要性が低いと想定されてきた。
しかし著者らは、北京の貸付ポートフォリオのうち、高所得国および上位中所得国を支援する割合が、12%から76%へと急増していることを明らかにした。
もう一つの主要な発見は、中国の国有債権者が72の高所得国で約1兆ドル規模、約 1万件のプロジェクトと活動に資金提供してきたという事実である。
北京は事実上、新たな世界的ペースセッターとなり、越境援助および信用供与を規定するルールや規範を書き換えると同時に、G7政策立案者に戦略の抜本的見直しを迫っている。
その国際貸付アプローチは、かつては西側諸国の首都において、軽蔑、嘲笑、あるいは当惑の対象であった。
しかし現在、アメリカ合衆国およびその同盟国は、中国と差別化するのではなく、むしろ模倣することによって競争しようとしている。
高所得国への援助および信用供与を自主的に制限し続けるのではなく、G7諸国は、自国の開発金融機関および輸出信用機関が高所得国のプロジェクトや活動を支援することを妨げてきた制約を緩和している。
同時に、低所得国および中所得国のニーズに重点を置いてきた対外援助機関を閉鎖したり、その予算を削減したりしている。
⇒参照・引用元:『AidData』公式サイト「Policy Report Chasing China: Learning to Play by Beijing’s Global Lending Rules」
この摘要だけでも非常に興味深いリポートであることがお分かりいただけるのではないでしょうか。
摘要にも書かれているとおり、中国の貸付は、低所得国や開発国に向かっているのではなく、実はそれをわずかであり、むしろ高所得国と上位中所得国に資金投入されている――というのです。
『AidData』によれば、高所得国だけで約1兆ドル、約1万件。
対象国:72の高所得国
プロジェクト数:9,764件
コミットメント総額:約9,430億ドル(2023年ドルベース)
――となっています。驚くなかれ(当然というべきか)、最大金額の投資先(受益者)は「アメリカ合衆国」です。
約2,500件のプロジェクト・活動、2,000億ドル超を受け取っています。
3.中国の公式セクターからのクレジットの主要な受入先20か国のうち10か国は高所得国であり、中国の国有債権者からこれまで最も多くを受け入れてきた国は、世界中で合衆国をおいてほかにない。
合衆国はこれまでに2,000億ドル超を受け入れており、その一部の貸付は、合衆国の重要インフラの建設を支援したり、中国企業が合衆国企業から重要技術を買収・取得するための資金となったりしている。
しかし、中国の合衆国内における貸付事業の多くは、地政学的または地経学的優位の追求よりも、むしろ利益追求によって方向づけられている。
日本には「28.8億ドル」の中国資金が入っている!
では、どの国にナンボ中国資金が入っているか?――です。
『AidData』はこれを下掲のようにマップにしてくれています。「Which countries received grants and loans from China?(どの国が中国から無償資金(grant)と融資を受けたのか?)」です。
※『AidData』では「grant」を❶ODA(政府開発援助)に該当する無償資金❷OCT(その他の公的資金)としての無償拠出❸返済不要の資金的支援――に分類しています。
↑2000~2023年。
上掲のとおり、最も資金供給を受けているのは合衆国(2,019.8億ドル)ですが、ロシア「1,712.8億ドル」、オーストラリア「1,303.8億ドル」が続きます。
では日本はいくらかというと「28.8億ドル」で他の国と比較すると小さな円で済んでいます。
ちなみに韓国は「82.8億ドル」、北朝鮮は「91億ドル」です。
「金主のいうことは聞かなくちゃならない」という資本主義の原則からいえば、中国資金を取り入れることには大きなリスクがあります。
「地政学的リスク」であり「安全保障リスク」に直結しています。
日本も中国資金を受け入れた企業・組織が「何をやっているか」を洗うべきです。
(吉田ハンチング@dcp)







