ずいぶん前にご紹介したことがりありますが、韓国の半導体企業『サムスン電子』が自社株の消却について動きがあるので、再度ご紹介しておきます。
「株式の消却」は、株式投資をしていない人には分かりにくい概念かもしれません。
ごく簡単にいうと、消却というのは「会社が自社の株式を買い戻し、その株式を完全になくしてしまうこと」です。
例えば、ある会社の発行済み株式が100株あり、その会社が年間100万円の利益を上げたとします。単純化すると、1株当たりの利益は1万円です。
ここで会社が市場に出回っている自社株10株を買い戻し、さらにその10株を消却したとします。すると、その10株は株式としては消滅し、発行済み株式は100株から90株に減ります。
会社の利益が同じ100万円なら、1株当たりでは――
100万円 ÷ 90株 ≒ 1万1,111円
――となります。
自社株消却とは、会社が自社の株式を買い戻した上で、その株式そのものを消滅させ、発行済み株式数を減らすことです。これによって1株当たりの利益や資産価値を高める効果があります。
なぜ企業は株式の消却に動くのか?
では、なぜ企業は株式の消却に動く(動くことがある)のでしょうか?
企業が株式の消却、「自社株買い+消却」に動く最大の理由は、余った資本を株主に還元し、残っている株式1株当たりの価値を高めるためです。
日本証券業協会系の『J-FLEC』も、自社株を買い戻して消却すると発行済み株式総数が減り、1株当たりの価値や1株当たり利益(EPS)が高まるため、配当と同様の株主還元策になると説明しています。
一般論として企業が消却に動く理由は、主に次のように整理できます。
1.1株当たりの価値を高めるため
会社全体の利益や企業価値が同じなら、それを分け合う株式が少なくなるほど、1株当たりに帰属する利益や価値は大きくなります。
そのため、自社株買い・消却は株主価値を高める手段として使われます。
実際、企業の開示資料でも「発行済株式総数の減少を通じた資本効率及び株式価値の向上」を消却の目的として明記する例があります。
2.株主に利益を還元するため
企業が利益を上げても、その資金をすべて設備投資やM&Aに使えるとは限りません。
必要以上の現金を抱えている場合には、配当を出すか、自社株を買い戻すという選択肢があります。自社株取得を「資本効率の向上に資する株主還元策」と位置付けることがあるのです。
3.余分な資本を減らし、資本効率を改善するため
巨額の現金や自己資本を抱えているのに、それに見合う利益を生み出せていない企業では、ROE(自己資本利益率)が低くなります。
そのため、成長投資に必要のない資金を自社株買いに回すことで、バランスシートを適正化し、資本効率を改善しようとします。企業自身も「成長投資と株主還元を組み合わせて資本効率を高める」という説明をしばしば行うことがあります。
4.買い戻した株を将来また市場に出す可能性をなくすため
ここが、単なる「自社株買い」と「自社株消却」の重要な違いです。
会社が買い戻した自己株式を保有しているだけなら、それを将来、M&Aや株式報酬などに利用することができます。つまり、市場に再び出てくる可能性があります。実際、企業は自己株式を役職員への株式報酬やM&Aに利用するため保有する場合があります。
しかし消却してしまえば、その株式は完全になくなります。
したがって、「後で再び使われて株式が実質的に増えるのではないか」という既存株主の希薄化懸念を払拭できます。実際に企業が「将来の自己株式の処分による株式価値の希薄化懸念を払拭する」ことを消却理由として明示することもあります。
――総じていえば、「企業が自社株を買い戻して消却するのは、発行済み株式数を減らして1株当たりの価値を高め、余剰資金を株主に還元するとともに、買い戻した株式が将来再び市場に出て株式価値を希薄化させる可能性をなくすため」――となります。
(吉田ハンチング@dcp)






