韓国の2022年度の最低賃金が「9,160ウォン」に決まり、文大統領の公約であった「2022年までに最低賃金を1万ウォンに上げる」は達成されませんでした。
この公約は「所得主導成長」を標榜した文在寅政権の中核をなすものでした。
所得主導成長とは、労働者の所得をまず向上させ、これによって消費が増え、企業の景気もよくなり、経済が成長していくという考え方です。最低賃金を1万ウォンに上げるのも、これを実現するための手段として掲げたのです。
最低賃金を上げた結果は惨憺たるものだった
2017年に大統領に就任した文在寅さんは、自営業者・中小企業からの反対を押し切って、2018年に最低賃金を「6,470ウォン」から16%アップさせ「7,530ウォン」としました。
結果は惨憺たるものでした。
2018年の就業者数の対前年同期比の増減数が大幅に下落。自営業者・零細企業の廃業が増え、労働コストが上昇したことから従業員を減らす動きが大きくなり雇用情勢も悪化。
その上、所得の少ない人の所得がさらに低くなり、その一方で所得の多い人の所得がさらに高くなるという事態になりました。つまり、貧富の差が大きくなったのです。
しかるに、文在寅大統領は2018年05月、国家財政戦略会議で「最低賃金引き上げの肯定的評価が90%」と発言。
これには国民、メディアも猛反発。
06月には、政権で最低賃金引き上げを主導してきた洪長杓(ホン・ジャンピョ)経済主席秘書官が更迭されました。
それでも文在寅政権は(よせばいいのに)2019年の最低賃金を2017年比32%アップの「8,530ウォン」とします。
雇用情勢はさらに悪化し、文政権はそのため雇用対策で公務員を増やすなどと言い、読者の皆さんもご存じのとおり「まともな雇用とは思えない仕事」を乱造しだしたのです。
このどうしようもない情勢の中、当時の企画財政部(財務省に当たりまます)長官だった金東兗(キム・ドンウォン)さんと、最低賃金の上昇を主導してきた張夏成(チャン・ハソン)政策室長がもめ、結局二人とも辞職となりました※。
金企画財政部長官からすれば「お前の主張する最低賃金上げを行ったら雇用情勢が悪くなり、その失敗を企画財政部が引き受けるのかよ」といったところで、もめないわけがありません。
ここまでで、まだ2018年中の出来事です。
つまり、所得主導成長を実現する手段として考えられた「最低賃金を1万ウォンにする」という政策は、最初の実施段階からすでに破綻していたといえます。
また、政権内部に入ってこれを主導した、洪長杓経済主席秘書官、張夏成政策室長は、翌年にはもういなかったのです(二人とも学者あがり)。
にもかかわらず、文政権は現在にいたるまで最低賃金を上げ続けてきました。
次期大統領は大丈夫か?という話
ある種実験のようになった所得主導成長でしたが、結局のところ失敗したという他はありません。
しかし、韓国はこの失敗の結果を引き継いでいかなければならない状況となっています。最低賃金は「9,160ウォン」になってしまいました。
賃金には下方硬直性という特徴があって、いったん上げると下げるのは容易なことではありません。次期政権は、これを引き継いで運営しなければならないのです。文在寅大統領が残した負の遺産は韓国に重くのしかかっています。
次期政権が仮に李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事になったら、「ベーシック・インカム」を導入する、などと言い出すかもしれません。これもまた「実験」になるでしょう。
失敗したら……。
⇒参照・引用元:『IDE-JETRO』公式サイト「文在寅政権の経済学――「所得主導成長」とは何か」著者:安倍誠
(吉田ハンチング@dcp)