2022年09月01日、韓国の関税庁から「08月の’22年08月の輸出入の現状」を公表しました。暫定版ながら08月の輸出入、貿易収支が締まったのです。
結論からいえば、結果は最悪です。
08月は途中経過として、08月20日時点で、
輸出:334億2,400万ドル
輸入:436億4,100万ドル
貿易収支(輸出 – 輸入):-102億1,700万ドル
と非常に悪い実績でした。
いつもなら残りの10日間で大きく黒字を稼ぐのですが、当月はそうはなりませんでした。
以下の暫定版ながら締まったデータをご覧ください。
2022年08月01~31日(暫定)
輸出:566億7,200万ドル
輸入:661億4,600万ドル
貿易収支(輸出 – 輸入):-94億7,400万ドル⇒参照・引用元:『韓国 関税庁』公式サイト「’22年8月の輸出入の現状」
20日時点「-102億1,700万ドル」が、31日時点で「-94億7,400万ドル」となりました。
つまり、21~31日は「貿易収支:+7億4,300万ドル」で回ったことになります。
金額は小さくなりましたが、相変わらず最後の10日間は黒字になるという傾向は変わりません。
それはともかく、今回の注目は通関ベースながら貿易収支が「-94億7,400万ドル」もの赤字で締まったという点です。
さすがにこれほどの規模になると、恐らく国際収支統計でも赤字になります。
なぜそう言えるのかの説明をすると、3年ぐらい前にやったのと同じ長い話をまたしなければならないのですが、できるだけ簡単にやっつけてみます。
予測に興味のない方は以下から小見出しを2つ飛ばして、先にお進みくださいませ。
国際収支統計でどのくらいブレるのか
そもそも通関ベースの貿易収支と国際収支統計の貿易収支で数字が大きくずれるのは、簡単にいえば「計上の仕方が異なる」からです。
3年ほど前にくどくどやりましたので、ここでまた長い話をしてお手間を取らせるも申し訳ないですので、結論だけいいますと――輸出金額についてはほとんどぶれない(2%未満で上にぶれることが多い)のですが、輸入金額は通関ベースから大きく下がります※1。
貿易収支は「輸出 – 輸入」で求めますので、通関ベースで貿易収支が赤字になったとしても、輸出金額が増えて、輸入金額が大きく下がれば黒字になることがあるわけです。
例えば、2022年の「残酷な四月」には、通関ベースの貿易収支は「-24億7700万ドル」でした。これが国際収支統計では赤字になったか?
答えはNoです。
この程度の赤では国際収支統計の貿易収支は赤字にはなりません。
ただし、国際収支統計上の貿易収支は黒字ながら「薄かった」せいで、「残酷な四月」の効果もあり、経常収支は赤字に転落しました。
国際収支統計で経常収支が赤字「-7億9,300万ドル」になった、この2022年04月を例にとって、通関ベースと国際収支統計の輸出入・貿易収支がどのように違うのかを比較してみます。
2022年04月「通関ベース」
輸出:578億5,100万ドル
輸入:603億2,800万ドル
貿易収支(輸出 – 輸入):-24億7,700万ドル2022年04月「国際収支統計」
輸出:589億2,670万ドル
輸入:559億7,900万ドル
貿易収支(輸出 – 輸入):+29億4,770万ドル⇒データ引用元:『韓国銀行』公式サイト「ECOS」/『韓国 関税庁』
上掲のとおり、輸出金額は、通関ベースと国際収支統計であまり変わりません。ただし、国際収支統計の方が増えています。
通関ベース:578億5,100万ドル
国際収支統計:589億2,670万ドル
国際収支統計 – 通関ベース:10億7,570万ドル
次に輸入金額を比較すると、以下のように国際収支統計では輸入金額が大きく減少しているのが分かります。
通関ベース:603億2,800万ドル
国際収支統計:559億7,900万ドル
国際収支統計 – 通関ベース:-43億4,900 万ドル
輸出金額の方は、通関ベースと国際収支統計で同じ計上の仕方なのであまりズレないのですが、輸入金額の方はこのように大きく下ブレするのです。
「輸出(わずかながら上ブレが多い) – 輸入(大きく下ブレする)」ので、通関ベースの貿易赤字が国際収支統計では黒転する――ということが起こります。
実際、2022年04月は上掲の結果、
通関ベース:-24億7,700万ドル
国際収支統計:+29億4,770万ドル
国際収支統計 – 通関ベース:+54億2,470万ドル
通関ベース「-24億7,700万ドル」の赤字が、天地なんと「54億2,470万ドル」もひっくり返って、国際収支統計の貿易収支が「+29億4,770万ドル」で締まったのです。
もちろん、それでもこの04月は「残酷な四月」の特性※2で経常収支は赤字に転落したわけなのですが。
面倒くさい人は飛ばしていただいて大丈夫です。貿易統計(関税庁・産業通商資源部)と国際収支統計では以下のように輸出入の金額を計上します。
国際収支統計
輸出:FOBの金額
輸入:FOBの金額
貿易統計(関税庁・産業通商資源部)
輸出:FOBの金額
輸入:CIFの金額
FOBは「Free On Board」
CIFは「Cost,Insurance and Freigt」
関税庁・産業通商資源部の公表する貿易統計の「輸入金額」は物品の輸入についての「運賃・保険料込み」であり、国際収支統計ではこれを除いたFOBの金額で計上します。
面倒くさい人は飛ばしていただいて大丈夫です。韓国の場合、毎年04月は外国への利払い・配当払いが集中しますので、経常収支を構成する4つの大項目のうち、第1次所得収支が大きな赤字になります。そのため、2022年は貿易収支が薄いながらも黒字になったのに、経常収支は赤字に転落しました。
08月の通関ベース「-95億ドル」は国際収支統計でどう締まるか?
できるだけ簡単にと書いたのですが、やはり長くなってしまいました。誠に申し訳ありません。
で、この08月の通関ベース「-94億7,400万ドル」が国際収支統計で赤字になるか、です。恐らく赤字になると筆者は予想します。
国際収支統計になったときに、輸出金額、輸入金額がどのくらいぶれるのかを過去データに当たって予想してみます。
2022年01月~2022年06月の「通関ベースの輸出金額」が「国際収支統計でいくらに締まったが」というと……(国際収支統計は06月までしか公表されていませんので)。
上掲のようになります。通関ベースの輸出金額が国際収支統計の輸出金額になると、この18カ月で平均1.0%上振れします。
つまり、国際収支統計の方が通関ベースの輸出金額より平均で1.0%大きくなります(-2.4%~+3.5%)。
次に2022年01月~2022年06月の「通関ベースの輸入金額」が「国際収支統計でいくらに締まったか」というと……。
上掲のようになります。通関ベースの輸入金額が国際収支統計の輸入金額になると、この18カ月で平均6.9%下振れします。
つまり、輸入金額の場合には、国際収支統計の方が通関ベースの金額より平均で6.9%減少します(-8.6%~-4.9%)。
この変動を、08月の通関ベースの輸出・輸入金額に当てはめると、どうなるか?
輸出:566億7,200万ドル
輸入:661億4,600万ドル
貿易収支(輸出 – 輸入):-94億7,400万ドル
上掲のようでしたから、輸出については、最も大きく上振れした「+3.5%」を適用すると、「566億7,200万ドル」は「586億5,600万ドル」になります。
輸入については、最も大きく減少した「-8.6%」を適用すると、「661億4,600万ドル」は、「604億5,700万ドル」となります。
つまり、この18カ月の変動幅の中に収まる限りにおいて、08月の国際収支統計は最良の場合でも、
輸出:586億5,600万ドル
輸入:604億5,700万ドル
貿易収支(輸出 – 輸入):-18億200万ドル
となると予測できます(輸出を最大、輸入を最小にとった場合)。ですので、あくまでも予測ですが、この08月は国際収支統計でも貿易収支は赤字になると見込めるのです。
※ただしあくまでも予測です。文政権下でそれまでの変動幅から全くハズれたデータが出たことがあり、そのときは予測を外しました。格好悪いですが正直に書いておきます。
問題は経常収支がどうなるか
上掲予測はともかく、通関ベースで「-94億7400万ドル」という大赤字です。ここまでの赤字を黒字にひっくり返したことはありません※。もし、この通関ベース「-94億7,400万ドル」が黒転するなら前代未聞の事態が起こったことになります。
問題は、国際収支統計での貿易収支が赤転した場合、経常収支が赤字転落する可能性が高まるということです。
もう何度だっていいますが、韓国は(国際収支統計における)貿易収支が赤字なると、経常収支の黒字がおぼつかない国なのです。
日本のように、貿易収支で赤字が出ようが、配当払いなどを計上する第1次所得収支が莫大な黒字なため、経常収支は黒字という国ではないのです。
08月の経常収支が赤転すると、過去の例からいって「韓国はいよいよ危ない」ということになります。
08月の国際収支統計がどのように締まるのかにご注目ください。結果は10月初旬に分かります。
※ただし、鉛筆をなめて黒字にすることができないわけではありません。『韓国銀行』が政治的な理由で統計を曲げないことを望みます。
(柏ケミカル@dcp)