2024年12月29日、『済州航空』の航空機が務安空港に胴体着陸を行い、オーバーランしてローカライザーに激突して179人が亡くなりました。
韓国で起こった航空事故で最大に被害者が出た事件となりました。
先にご紹介したとおり、2025年07月19日、事故調査の途中報告が公開される予定だったのですが、遺族からの抗議によって中止されました。
まるで結論のような調査報告になっている――というのがその理由です。また労組も「操縦士を“スケープゴート”にしようとしている」と非難している――とのこと。
メーデーでおなじみの『NSTB』『BAE』などの組織が調査に参加しています。いまだに公式にな調査は出ていません(2025年07月22日現在)。
ただし、21日の調査報告が漏れており、各メディアから報道が出ています。『Reuters(ロイター)』の記事から調査報告から分かったこと――を以下に引用してみます。
(前略)
調査チームは、土曜日に犠牲者遺族に対して行った説明会で、右エンジンの方が左エンジンよりも深刻なバードストライクの損傷を受けていたこと、そして操縦士が損傷の少なかった左エンジンを停止したとみられる状況証拠があることを説明した――と説明会に出席した第三の関係者が語った。
韓国の報道機関であるMBNや聯合ニュースは、土曜日と日曜日にこの内容を報じた。
調査を主導している韓国の鉄道事故調査委員会(ARAIB)は、コメントの要請に即答しなかった。
ボーイングは事故に関する問い合わせをARAIBに回した。
エンジン製造元のCFMインターナショナル(米GEと仏サフランの合弁企業)もコメントの要請にはすぐに応じなかった。
済州航空は、ARAIBの調査に積極的に協力しており、調査結果の正式な発表を待っていると述べた。
航空事故の多くは複数の要因が重なって発生するものであり、国際ルールの下では、事故発生から1年以内に最終報告書が提出されることが求められている。
(中略)
次に韓国メディア『SBS』が入手した事故調査報告の資料についての報道。
(前略)
『SBS』が入手したエンジン調査結果資料には、新たに明らかになった事故の経緯が含まれています。まず、2024年12月29日午前08時57分50秒、管制塔から事故機に対して鳥の活動に注意するよう警告が発せられ、そのわずか36秒後に鳥の群れと衝突したという事実です。
衝突直後、両エンジンは振動を起こしながらも作動しており、右エンジンでは“サージ”、すなわち異常燃焼とともに炎と黒煙が発生していたという内容も記されています。
また、鳥の群れとの衝突から19秒後に操縦士が非常手順を実行し、左エンジンを停止させた事実が、ブラックボックスを通じて確認されたとも記されています。
航空・鉄道事故調査委員会は、機体が胴体着陸する直前まで右エンジンの出力は飛行可能なレベルで維持されていたことも確認しました。
ところが、調査委は遺族向け説明会で、「右エンジンの損傷がより深刻だったのに、操縦士が左エンジンを停止させた」という点を強調して説明したとされています。
つまり、操縦士の判断ミス、あるいは操作ミスの可能性を示唆したのです。
しかし、遺族や専門家、現役の機長たちはこれに対し疑問を提起しています。
左エンジンも損傷していた状況で、もし右エンジンを停止し、左エンジンだけで飛行した場合、安全に着陸できたのかという客観的な資料は全く提示されていないというのです。
【キム・ユジン/遺族協議会代表】
「状況証拠や根拠資料を正確に公開し、もし本当に客観的かつ専門的に調査がしっかり行われたのであれば、それを公開しない理由はないはずです」【A氏/B737機長】
「当時の両エンジンの状態のどちらがより悪かったのか。1番エンジン(左エンジン)が最後まで持ちこたえられるというのなら、その点をシミュレーターでさまざまなケースを想定して試験を行うべきです」特に、調査委は右エンジンの発電装置(IDG)が分離されていたことが判明したとして、操縦士がIDGを直接切ったと見られると説明したことも確認されました。
これによって電力が遮断され、ランディングギアが展開できなかったという趣旨です。
しかし、IDGが衝撃によって分離された可能性はないのかという質問には、「推定である」「他の原因も分析している」と発言を変えたことが確認されました。
【B氏/B737機長】
「オイル温度が高温になったわけでもないのに、(IDGは)人が切ったに違いないというのは、あまりにも過剰な推定です」【クォン・ボヒョン/極東大学 航空安全管理学科教授】
「それ(IDG)を切る必要はないんです。左エンジンを止めた上に、さらに右エンジンのIDGまで切ったというのは、常識的に理解できません」専門家たちは、機体が胴体着陸する直前まで右エンジンの出力が維持されていたという調査委の結論にも注目しています。
【クォン・ボヒョン/極東大学 航空安全管理学科教授】
「間違って切ったか、正しく切ったかは、実は重要なことではありません。問題は、その時点でまだエンジンが動いていたということです。」鳥の群れとの衝突直後、左エンジンの状態や機内状況に関する客観的なデータが提示されていない状況では、遺族たちを納得させるのは難しかったようです。
(後略)↑上掲の『SBS』の報道動画:YouTube『SBSニュース』
これまでは――、
バードストライクが発生し、両方のエンジンが停止。これによって電源を喪失し、ブラックボックス(FDRとCVR)が両方とも停止(フライトデータとコクピット音声が記録されなくなった)、ランディングギア(着陸脚)を手動で下ろすヒマもなく、胴体着陸を行い、
――事故になったと思われてきました。
しかし、バードストライクによって左右のエンジンが損傷を負ったものの、右エンジンの方が深刻で、左エンジンはまだマシだったことが判明した――となっています。

↑右エンジンから煙が出ていることが確認されています。バードストライクによって「より深刻な損傷を受けたと分かった」のは右エンジンです。
また、右エンジンの方が深刻な損傷を受けていたはずなのに、操縦士はマシだった左のエンジンを止めた(燃料供給を止めた)――となっています。
右エンジンが損傷を受けて推力を失ったとして、まだマシだった方の左エンジンを切ってしまったら推力が失われてしまいます。
もしこれが本当なら、操縦士は事態を悪化させたことになります。
なぜなら飛行機は片肺になっても飛べるように設計されています。もし状態の良かった左エンジンに十分の推力が残っていたら、ゴーアラして無事に着陸できたはずです。
まとめてみると、事実は以下のようになります。
右エンジンの方が被害が深刻だった
左エンジンを止めた
(左エンジンへの燃料供給をカットオフした)
事故調査結果の全てが公式公開されたわけではないので、まだよく分かりません。
遺族の気持ちは分からないではありませんが、「何が分かったのか」という事実は途中であっても公表されるべきではないでしょうか。
(吉田ハンチング@dcp)






