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「米国債の格付け引き下げ」にエラい人が一斉に反発。

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さすがイギリスの会社といったところでしょうか。読者の皆さまもすでにご存じでしょうが、2023年08月01日、格付け会社『Fitch(フィッチ)』が、アメリカ国債の格付けを「AAA」から「AA+」に1段階引き下げました。

今回の格付け引き下げは世界を驚かせました。

2011年に『S&P』がアメリカ国債の格下げを行って以来、実に12年ぶりのことです。なぜ引き下げを断行したのかについて、『Fitch』は以下のように説明しています。

プレスリリースから主要部分を以下に引用します(面倒な方は主要ドライバ-のタイトルだけご覧の上飛ばしてください)。

『フィッチ・レーティングス』は、合衆国の長期外貨建て発行体デフォルト格付け(IDR)を「AAA」から「AA+」に引き下げた。レーティング・ウォッチ・ネガティブは解除され、安定的なアウトルックが付与された。カントリーシーリングは「AAA」に据え置かれた。格付けアクションの全リストは、本格付けアクション・コメントの末尾に掲載されている。

●主な格付けドライバー
格付けの引き下げ:
合衆国の格付け引き下げは、今後3年間に予想される財政悪化、高水準で増大する一般政府債務負担、過去20年間における「AA」や「AAA」格付けの同業他社と比較したガバナンスの低下(度重なる債務上限の膠着と土壇場での解決に現れている)を反映している。

ガバナンスの低下:
『Fitch』の見解では、2025年01月まで債務上限を一時停止するという06月の超党派合意にもかかわらず、財政・債務問題を含め、過去20年間にわたりガバナンスの水準は着実に悪化している。

度重なる債務上限の政治的膠着と土壇場での解決は、財政管理への信頼を損なった。

加えて、政府は他の多くの国々と違って中期的な財政枠組みを欠いており、予算編成プロセスも複雑である。

こうした要因に加え、いくつかの経済的ショック、減税や新たな歳出構想が、過去10年間の相次ぐ債務増加の一因となっている。

加えて、高齢化に伴う社会保障費とメディケア費の増加という中期的課題への取り組みも、限られた進展にとどまっている。

一般政府赤字の増大:
一般政府(GG)の赤字は、循環的に悪化する連邦政府の歳入、新たな歳出構想、金利負担の増加を反映して、2022年のGDP比3.7%から2023年には6.3%に増加すると予想する。

さらに、州および地方政府は、2022年にGDP比0.2%の小幅黒字を計上した後、今年はGDP比0.6%の赤字になると予想される。

合衆国議会予算局によると、財政責任法で合意された非国防裁量支出(連邦支出全体の15%)の削減は、2033年までに累積1.5兆ドル(GDPの3.9%)の節約となり、中期的な財政見通しの小幅な改善にとどまる。

同法の短期的な影響は、2024年に700億米ドル(GDP比0.3%)、2025年に1,120億米ドル(GDP比0.4%)と見積もられている。『Fitch』は、2024年11月の選挙を前に、これ以上の実質的な財政再建策はないと予想している。

『Fitch』は、2024年のGG赤字はGDP比6.6%、2025年にはさらに拡大してGDP比6.9%になると予測している。

赤字拡大は、2024年のGDP成長率の低迷、金利負担の増加、2024-2025年のGDP比1.2%という州・地方政府の赤字拡大(過去の20年平均と同水準)による。

債務水準の上昇に加え、パンデミック前の水準に比べ高金利が持続するため、2025年には利子対歳入比率が10%に達すると予想される(「AA」中央値は2.8%、「AAA」中央値は1%)。

一般政府債務の増加:
財政赤字の減少と名目GDPの高成長により、過去2年間の債務残高対GDP比率は、パンデミック前の最高水準である2020年の122.3%から低下したが、今年は112.9%と、依然としてパンデミック前の2019年の水準である100.1%を大きく上回っている。

GG債務残高対GDP比は予測期間中に上昇し、2025年には118.4%に達すると予測されている。

債務比率は、「AAA」の中央値である対GDP比39.3%、「AA」の中央値である対GDP比44.7%より2.5倍以上高い。

『Fitch』の長期予測では、債務残高/GDPがさらに上昇し、将来の経済ショックに対する合衆国の財政基盤の脆弱性が高まると予測されている。

中期的な財政課題は未解決:
今後10年間、金利の上昇と債務残高の増加は利払い負担を増加させ、高齢化と医療費の増加は財政政策改革がなければ高齢者への支出を増加させる。

CBOは、利払い費が2033年までに倍増し、GDPの3.6%になると予測している。CBOはまた、メディケアと社会保障の義務的支出が同期間にGDPの1.5%増加すると見積もっている。

CBOは、現行法の下では、2033年までに社会保障基金が枯渇し、2035年までに病院保険信託基金(メディケアパートAの給付金支払いに使用)が枯渇すると予測しており、適時に是正措置が実施されない限り、財政軌道にさらなる課題をもたらすことになる。

さらに、2017年の減税措置は2025年に期限切れとなるが、これまでのようにこれを恒久化しようとする政治的圧力がかかる可能性が高く、その結果、赤字見通しがより高くなる。

格別の強みが格付けを支える:
合衆国の格付けを支えているのは、幾つかの構造的な強みである。

その中には、ダイナミックなビジネス環境に支えられた、大規模で先進的、かつ多様性のある高所得経済が含まれる。重要なのは、ドルが世界有数の基軸通貨であるため、政府の資金調達の柔軟性が極めて高いことである。

景気後退に陥る経済:
『Fitch』の予測によれば、信用状況の悪化、企業投資の弱体化、消費の鈍化により、合衆国経済は23年第4四半期と24年第1四半期に穏やかな景気後退に陥るだろう。

合衆国の実質GDP成長率は2022年の2.1%から今年は1.2%に鈍化し、2024年の全体成長率はわずか0.5%にとどまると『Fitch』は見ている。求人倍率は依然として高く、労働参加率もパンデミック前の水準より(1pp)低いため、中期的な潜在成長率に悪影響を及ぼす可能性がある。

『FRB』の引き締め:
『FRB』は2023年03月、05月、07月に25bp利上げした。

『Fitch』は、09月までに5.5%から5.75%までさらに1回の利上げを予想している。

経済と労働市場の回復力は、インフレ率を2%の目標に近づけるという『FRB』の目標を複雑にしている。06月のヘッドライン・インフレ率(総合インフレ率)は3%に低下したが、『FRB』の主要物価指数であるコアPCEインフレ率は前年同月比4.1%と高止まりしている。

このため、2024年3月までフェデラルファンド金利の引き下げは行われない可能性が高い。さらに、FRBは住宅ローン担保証券と米国債の保有残高を減らし続けており、金融環境をさらに引き締めている。01月以降、FRBのバランスシート上のこれらの資産は2023年07月末時点で5,000億ドル以上減少している。
(後略)

⇒参照・引用元:『Fitch』公式サイト「Fitch Downgrades the United States’ Long-Term Ratings to ‘AA+’ from ‘AAA’; Outlook Stable」

イエレンさんなどエラい皆さんが猛反発!

今回の格付け引き下げに対して、すぐにイエレン財務長官が真っ向から反対を表明しました。よほど頭にキたようです。イエレンさんは、以下のように述べています。

「『Fitch』の決定に強く反対する」

「合衆国債が依然として世界有数の安全かつ流動性の高い資産で、合衆国経済が強いという投資家や世界中の人々の認識を変わるものではない」

「合衆国政府は財政が持続的になるようしっかりと取り組んでいる。債務上限に関する法律には1兆ドル以上の財政赤字削減が盛り込まれ、財政の道筋は改善された」

次にホワイトハウスのカリーヌ・ジャン=ピエール報道官の出した声明です。

「『Fitch』が適用した評価モデルはドナルド・トランプ政権時代に下落したが、ジョー・バイデン政権になって改善された」

「世界主要国の中で合衆国が最も強い回復を見せているこの時期に合衆国の格付けを降格するのは現実に反する」

さらに、皮肉屋のクルーグマン先生。

「過去1年間、最も大きな経済ニュースは、合衆国が景気後退なしにインフレを下げることに成功したことだ」

最後に『ゴールドマン・サックス』のアレックス・フィリップス先生です。

「今回の格下げは主にガバナンスと中期的な財政問題を反映しているが、新しい財政情報は反映していない」

「格付け変更によって国債を強制的に売却しなければならない主要保有者がいない可能性が高く、今回の措置が金融市場に直接的な影響を与えることはないだろう」

皆さん今回の格下げを「解せぬ」としていらっしゃいます。例のシーリング問題は誰もが「どうせプロレス」と思っていたわけですが、『Fitch』としては「もっとまじめにやれ!この野郎どもが」と頭にきたのかもしれません。

まあ次は皆さんもうちょっと真剣にやるかもしれません。

(吉田ハンチング@dcp)

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