韓国の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は、「韓国第一の営業マン」として率先して海外出張を行いセールスを繰り広げています。そもそも司法畑の人なのに珍しいことです。
韓国は――偉い人が「よし、ワシが討って出る!」――が好きな国ですが、「とにかく輸出を増やさなければ国が傾く」を大統領自身が理解していることを示しています。ですので、いいことではあります。
読者の皆さまもすでにご存じでしょうが、尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領はオランダに外遊に出かけていました。半導体製造に必須の露光装置で最有力な企業『ASML』があるからです。
今回の出張が注目されるのは、韓国側は「売り込みをかけるものがない」からです。
例えば、サウジアラビア・UAEへの出張では武器と原子力発電所を売り込み、ポーランドへの出張でも同様でした。
しかし、今回のオランダは逆です。韓国が誇る「K-半導体」を作るのに必須の装置はオランダ側が押さえており、韓国は「売り惜しみをしないでくださいね」とお願いする立場です。
アメリカ合衆国と中国の対立が深化しており、合衆国の要請によってオランダは中国に対して露光装置の輸出を控えている状況です。中国も困ったことになっていますが、(よせばいいのに)中国にファンドリーを造った韓国企業も板挟みで動きがとれません。
Money1でもご紹介してきたように、特に困った事態なのは『SKハイニックス』です。『Intel(インテル)』から買ったはいいがアップグレードできそうにない在中国工場などをどうすることやら……です。
サムスン・SKの総帥も大統領に動向
2023年12月12日、尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は、Willem-Alexander(ウィレム・アレクサンダー)オランダ国王と共にブラバント州フェルトホーフェンにある『ASML』本社を訪問。
毎度おなじみと言ってしまえば、それまでなのですが、今回の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領の出張には、『サムスングループ』の李在鎔(イ・ジェヨン)総帥と『SKグループ』の崔泰源(チェ・テウォン)総帥も動向しました。
以下のようなクリーンルームに入った写真も公開されています。
機密施設への「制限人数以上の訪問」を要求した
『ASML』の露光装置製造現場も視察――と報じられているのですが、これについて『中央日報』が面白い報道を出しているのです。
オランダ外務省から、韓国外交部の要求が儀典に沿ってない、プロトコルを逸脱していると指摘されていた――というのです。
↑YouTube『YTN』公式チャンネル「オランダが尹訪問前、韓国大使招致…オランダは過剰な儀式要求に『不満』」
本件は『中央日報』の後追いで、上掲のように『聯合ニュース』も報じています。
面白いのは、
「半導体装備企業であるASMLの機密施設『クリーンルーム』に韓国側が定められた制限人数以上の訪問を要求したことに懸念を示しました」
という部分です。
機密施設に入れるというので「技術剽窃のための人員を送り込もうとした」というのは邪推に過ぎるでしょうか。『サムスン電子』と『SKハイニックス』の総帥がいるのですから「うちの社員も同行したい」という要求を出したのでは……。
もし「大統領に産業スパイが動向していた」なんてことであったら確実に国際問題です。
「韓国とオランダの半導体同盟を構築」と主張
↑今回大統領室が公開した中でのベストショット。いい笑顔です。
今回の訪問で、韓国とオランダは、3件の半導体分野協力MOU(Memorandum of Understandingの略:了解覚書)を締結しました。第20代大統領室の出したプレスリリースによれば以下のようになっています。
1.「韓国-オランダ先端半導体アカデミー」を新設する協力MOU
世界的に半導体人材不足が深刻化する中、両国政府(韓国産業通商資源部・オランダ外交部)は、最先端の半導体生産装備を活用して両国の大学院生に現場学習の機会を提供する。この「先端半導体アカデミー」では、両国から100人が参加し、2024年02月にオランダで第1回が開催される予定。
2.「次世代半導体製造技術R&Dセンター」を韓国に設立するMOU
『ASML』は『サムスン電子』と一緒に1兆ウォンを投資して、次世代EUV基盤の超微細プロセスを共同開発する。
3.「EUV用水素ガスリサイクル技術開発」を行うMOU
『SKハイニックス』は『ASML』と一緒に、EUV装置内部の水素を燃やさずにリサイクルする技術を開発する。この技術によって電力使用量は20%減り、年間165億ウォンのコスト削減を達成できると見込んでいる。
この成果をもって韓国第20代大統領室は「韓国はオランダと半導体同盟を構築」としています。
↑第20代大統領室が公開した「オランダと半導体同盟構築」という動画。YouTube「@president_yoon」チャンネル
「韓国とオランダが半導体同盟」となるのかは、何より合衆国がどのように動くか次第です。韓国が親中国に転ずれば、合衆国は韓国企業に露光装置を渡すなとオランダに要求するでしょう。また、韓国企業が中国に建てたファウンドリーはどうするのか?という困難な状況が変わったわけでもありません。
(吉田ハンチング@dcp)