2020年5月28日、中国で「第13期全国人民代表大会」(日本の国会のようなもの)が行われ、「中華人民共和国 国家安全法」を香港特別行政区にも適用することが決定しました。
国家安全法の適用について香港市民の間からは批判の声が挙がっており、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアも4カ国共同でこの決定を批判する声明を発表。
大きな騒動になりつつありますが、では「中華人民共和国 国家安全法」は何が問題なのでしょうか?
そもそも「中華人民共和国 国家安全法」とは?
もともと中国には「国家の安全を守るため」に1993年に制定された国家安全法がありました。しかし、国の発展や周囲を取り巻く環境の変化に適応するために習近平国家主席の主導で旧安全法を廃止し、新しい法律を作ることになったのです。
そうして生まれたのが今回話題になっている「中華人民共和国 国家安全法」です。
この新法は2015年7月1日に行われた全国人民代表大会第15回会議で可決され、その日から施行されました。ただし、香港とマカオは一国二制度の下、特別区となっているため、この安全法は適応外でした。
「民主的独裁体制」ってなんだ? 政権批判を許さない法律の施行
新しい国家安全法で問題となるのが第十五条です。
第十五条 国家坚持中国共产党的领导,维护中国特色社会主义制度,发展社会主义民主政治,健全社会主义法治,强化权力运行制约和监督机制,保障人民当家作主的各项权利。
国家防范、制止和依法惩治任何叛国、分裂国家、煽动叛乱、颠覆或者煽动颠覆人民民主专政政权的行为;防范、制止和依法惩治窃取、泄露国家秘密等危害国家安全的行为;防范、制止和依法惩治境外势力的渗透、破坏、颠覆、分裂活动。
第十五条 国家は、中国共産党の指導を堅持し、中国の特色ある社会主義体制を堅持し、社会主義民主政治を発展させ、社会主義法の支配を向上させ、権力の運営を統制し監督するメカニズムを強化し、国民が自分の家の主人となる権利を保障する。
国家は、反逆、離反、扇動、転覆、または人民の民主的独裁体制を覆す扇動行為を防止し、抑圧し、法律に従って処罰しなければならず、国家の安全を脅かす国家機密を盗み、漏洩する行為を防止し、抑圧し、法律に従って処罰しなければならず、領土外の勢力による潜入、破壊工作、転覆、離反を防止し、抑圧し、法律に従って処罰しなければならない。
※赤アンダーライン、強調文字は筆者による(以下同)
国(というより中国共産党)の安全保障を維持するために、安全を脅かす活動や言動を防止、抑圧するとあります。
つまり、政権批判や抗議活動を実際に行っていなくても、その可能性があると国が判断すれば行動に出られるという「俺がルールだ!」といわんばかりの法律です。
実際に、施行から8日後の7月9日には、中国当局に不当に拘束された人たちを救う弁護士など、人権派活動家数百人が拘束される事件も発生。安全法の施行によって、規制がより強まったことが広く知れ渡りました。
国家安全法ではネット上での政権批判も処罰の対象となり得るなど、安全保障の範囲を幅広く指定。施行後は言論統制がより厳しくなり、国にとって不利益になる情報を遮断するなど、監視の目が拡大しました。
そのため、国家安全法は「国民の自由を脅かす悪法」と当時大きな非難を受けました。
香港の行政長官は「問題ない」と一蹴した!
中国共産党の権力を維持するための国家安全法ですが、第十一条には以下のように記されています。
第十一条 中华人民共和国公民、一切国家机关和武装力量、各政党和各人民团体、企业事业组织和其他社会组织,都有维护国家安全的责任和义务。
中国的主权和领土完整不容侵犯和分割。维护国家主权、统一和领土完整是包括港澳同胞和台湾同胞在内的全中国人民的共同义务。
第十一条 中華人民共和国の国民、すべての国家機関と武装勢力、政党と人民団体、企業と公共機関、その他の社会団体は、国家の安全を維持する責任と義務を負う。
中国の主権と領土の完全性は不可侵である。 国家の主権、統一、領土の完全性を守ることは、香港、マカオ、台湾の同胞を含む全中国人民の共通の義務である。
「国家安全の維持は香港、マカオ、台湾も共通の義務」とあります。
しかし、先述のように香港は一国二制度のためこの法律は適用されませんでした。そのため、これまで香港では(比較的/本土よりは)まだしも自由に政治を語ることができ、政策に対して強く反発したり、時にはデモ活動を起こしたりできたのです。
このような「政府の胸三寸でどうとでもなる法律」が香港に導入されれば、香港でも中国本土と同様の「制限」が課せられ、言論の自由が奪われることになります。「雨傘運動」など二度と起こらなくなるかもしれません。そのため、香港に住む人々は猛反発しているのです。
そもそも、香港の一国二制度は、中国とイギリスが交わした「中英連合声明」に基づく政策。
自由を奪う法律を導入するかどうか以前に、国家間の取り決めを崩すような行動を取るべきではないという批判も挙がっています。
大きな騒動になるつつある国家安全法の香港導入ですが、香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、「特に問題ない」「他国が介入することではない」と一蹴。
2020年6月には法として施行される見通しですが、果たして批判を抑えて強行するか、それとも……。今後の展開に注目です。
(大宮サンダース@dcp)