日本は世界中の国にお金を融資しています。融資したお金は返済してもらわないといけないのですが、もし返済が滞った場合はどうするのでしょうか。民間のように取り立てを行ったりするのでしょうか? その疑問を財務省にぶつけてみました!
「円借款」で1兆1,400億円貸している!
――日本政府が外国に貸している金額はどのくらいあるのですか? あげてしまうお金でなく、あくまで返済義務のある「貸しているお金」としていくらくらいあるのですか?
財務省 日本政府が、外国(開発途上国)の経済・社会の発展や福祉の向上に貢献するために行っている、お金や技術による援助を「政府開発援助(ODA:Official Development Assistance)」といいます。
これは普通の民間企業が外国との間で行う貿易や投資活動とは異なり、日本政府が国際協力の一環として外国に対して行っている援助活動と考えていただければよいでしょう。
ただし、一口にODAといっても、さまざまな形のものがあります。大きな分類として、援助を受け取る側にとって、「返済義務がないものと、返済義務があるもの」、という分け方があります。
●返済義務がないもの
返済義務がないものとしては、比較的所得の低い国を中心に行う無償資金協力および、日本の持っている技術を伝える技術協力があります。
●返済義務があるもの
一方、返済義務があるものとしては、低い金利でのお金の貸付である円借款というものがあります。日本政府は、2013年度の1年間でおよそ1兆1,400億円の新たな円借款を出すことにつき、相手国政府との間で署名を交わしました。
援助活動であるODAの円借款はこうした実績ですが、援助とは別に、日本の民間企業が途上国など外国との貿易・投資活動をもっと活発に行える環境を整えるということも、私たちは大切だと思っております。
例えば、日本政府が出資している国際協力銀行(JBIC)という機関は、こうした観点から資金貸し付けを仕事としています。このJBICが2012年度の1年間で外国政府に貸し付けることを約束した額は、およそ3,300億円です。
――皆さんこれを知りたいと思うのでお聞きします。円借款の金利というのはどのくらいなのでしょうか?
財務省 それは案件によって異なります。わかりやすい固定金利で言えば、最低0.01%、最高1.7%となっています。お金を借りる途上国の所得水準や借入期間など、案件の様々な状況によって異なります。
*……国際協力銀行(JBIC)の2013年度のデータはまだ公開されていません。そのため、ここでは2012年度のデータを記載しています。
貸したお金を返してくれないことはある!?
――上記の貸しているお金が返ってこないことはありますか? もし、あるとしたらどんな理由ですか?
財務省 例えば皆さんが銀行からお金を借りようとすると、「収入がどれくらいあるか」、「その収入は今後も継続的に得られるのか」など、厳しい審査を受けるでしょう。
私たちがお金を貸すときも、貸したお金が返ってこない事態が起こらないように借りる国の返済能力をしっかりと調べています。
・きちんと長い期間にわたって返済を続けられるようにやりくりしているか
・経済状況が良くないのに高い金利で短期間に返さなくてはいけないお金を借りたりしていないか
・お金の使い道は適切か(例・身の丈以上に着飾ろうと計画していないか)
・隠れた借金がないか
などが調べるポイントです。
なぜなら、私たちが外国に貸すお金はもともと国民の皆さまのお金です。1円たりとも無駄にはできないからです。
しかし、事前に審査しても、お金を借りた国の経済状況が悪化した場合や、政権が代わった場合など、返済予定どおりの支払いができなくなってしまったり、最悪の場合は、お金を返してしまうと自分の生活(経済)が回らなくなってしまうので「返せない」と言われたりすることが、残念ですがまれに起こります。
日本国も「取り立て」は行う!?
――返してくれない場合は、民間と同じように取り立てはするのですか? また、どのような取り立て手段を取りますか?
財務省 当然、返済が滞れば取り立てに行くことになります。
しかし、お金を借りた国(債務国)が日本に返せなくなっているとき、たいていの場合は、お金を貸した他の国への返済も滞っているものです。
こういう状況の下で、日本だけで取り立てのための交渉を行おうとしてもなかなか難しく、また、お金を貸した国(債権国)・お金を借りた国(債務国)双方にとって効率的ではありません。
返済が困難なときに無理に返してもらおうとしても、十分な返済が得られないこともあるので、貸したお金をきちんと返してもらうには、猶予期間を設け、その間に債務国に経済改革などを通じて返済能力を高めてもらい、返済義務を十分に果たしてもらうことも必要です。
また、各国が個別に厳しい取り立てをした結果、その国が二度と立ち直れなくなったり、発展を妨げることになったりしてしまっては元も子もありません。
もともと日本が貸したお金はその国の持続的な発展と成長を期待して貸したものです。取り立てるに当たっても、やり直しが利いて、再び成長の軌道に乗っていけるようにしなければ、初心を忘れた無意味な行為になってしまうのです。
お金を貸す主要国は「パリクラブ」というグループ!
――国同士でお金の貸し借りをするのも、けっこう面倒ですね。
財務省 日本をはじめ、お金を貸す側の主要な国はパリクラブというグループに入って、ソリダリティ(連帯)の原則に基づいて行動しています。
そこでは、例えばある国が「返せなくなった、どうしよう」と言ってきたときに、主要な債権国が一緒になって、「これくらい緩くした条件で返してもらえれば自分たちも損はしないし、あなたのやり直しも利くよね」という条件をメンバー全員で合意し(これを「コンセンサスの原則」といいます)、債務国と交渉をして、返済期間を元々の条件よりも長くして緩めてあげたりするのです。
これを債務の「リスケジューリング(条件の見直し)」、私たちは略してリスケと呼んでいます。
――リスケは、民間でも行っていますね。国の借金も同じなのですね。
財務省 リスケにもさまざまなメニューがあり債務国の事情に応じた対応を行っています。リスケが行われると同時に、債務国も、国際通貨基金(IMF)などの国際機関の力を借りて、経済政策を見直すなどして経済運営を改善するよう取り組みます。
また、どういったお金(期間・金利)をどれくらいの量で借りたら、債務は安定的に推移していくかということ(債務の持続可能性)についても、債務国自身が例えば財務省の債務管理担当職員の能力を強化するための研修などを通じて強化させていくのです。
なお、お金を借りて道路や橋を造って、経済成長したかったのだけどうまくいかず、借金だけが山のように残ってしまった一部の貧しい国(重債務貧困国HIPCs:Heavily Indebted Poor Countries)といいます)に対して、体力を回復させて、再び成長を目指せるように債権国が協調して、一定の経済改革等の達成を条件に返済を免除する取り組みも行われています。
「パリクラブ」以外からお金を借りていたら・・・・・・?
財務省 パリクラブとの交渉により、債務国はパリクラブのメンバーに対して緩やかな返済が行えるようになったとします。
ところが、その国が、パリクラブ・メンバー以外の国から、例えば高い金利で早く返さなければいけないお金を借りていて、その厳しい条件のまま返済を続けなければいけないとしたら、債務国の返済負担は一部(対パリクラブ分)が減るだけにすぎません。
また、同じ債権国という立場で見てみると、メンバー以外の国は利益を損なうことなく返済を受け続けられるのに対して、返済条件を緩くしたことで、パリクラブのメンバーだけが本来得られる利益を失うことになってしまいます。
――なるほど。パリクラブのメンバー以外からお金を借りていることもあり得るわけですからね。
財務省 こうした事態が起こらないように、パリクラブは、緩い返済条件に合意するときには、メンバー以外の債権国との間でもパリクラブと同等の条件での返済を認めるように交渉してくださいと債務国に求めるのです。
これは「コンパラビリティ(同等性確保)」の原則といい、パリクラブの一つの大きな存在意義となっています。
――これも民間の金融機関でも行われていますね。
財務省 また、パリクラブでは、自分たちがお金を貸した国について、返済に遅れが目立ってきたとか、経済状況が悪化しているのに高金利で早く返さなくてはいけないお金をたくさん借りているとか情報を交換しています。
こうした情報共有によって、貸す側が危ない貸出をしないで済むことにもつながっているのです。
*……「パリクラブ」のメンバー国は以下のとおりです。
オーストラリア
オーストリア
ベルギー
カナダ
デンマーク
フィンランド
フランス
ドイツ
アイルランド
イタリア
日本
オランダ
ノルウェー
ロシア
スペイン
スウェーデン
スイス
イギリス
アメリカ
■財務省からのまとめ
少しでも債権国と債務国の交渉のイメージが浮かぶとよいのですが、いかがだったでしょうか。
世界が緊密に結び付くなかで、それぞれの国は果たすべき役割を担っています。貸す側の国々は、財政政策をはじめとする政策が健全で、自国の経済の状況が持続的でなければ、途上国の発展に貢献していくことはできません。
また、借りる側の国々も、借りたお金を有効活用して成長につなげ、将来的に返済していける体力を持つようにしなければなりません。
「体力」と言いましたが、これはすなわち、貸す側・借りる側関係なく、きちんとした経済運営をしているか、きちんとした開発計画に従って国の開発を進めているか、その結果、経済の状況が安定的になっているかということです。
この点について、政府がきちんと責任を果たしているかが重要なのです。
(高橋モータース@dcp)