何度もご紹介しているとおり、韓国のエネルギーインフラ政策は支離滅裂のひと言に尽きます。
今回ご紹介するのは、支離滅裂のツケは結局血税で補てんすることになる――という、一種の因縁話みたいな顛末です。
文大統領のせいで原発産業は傾いた
文在寅大統領が「脱原発」を公約に掲げて当選したことから始まり、これを守るために多くの無茶が積み重ねられました。
Money1でもご紹介してきたとおり、再生可能エネルギー発電施設の乱造とそれを補助するための巨額の補助金投入、電気買い取り価格の高騰による発電会社の赤字など、挙げればそれこそ切りがありません。
この無茶の中には、すでに稼働している原子力発電所の停止、承認された原発建設計画の白紙撤回が含まれています。
これまた先にご紹介しましたが、まだ稼働でき、経済性もあると判断された「月城原発1号機」が文大統領の鶴の一声で「廃炉」と決定され、これを監査された官僚が証拠の隠滅を図るという事件まで発生しています。
しかし、原発産業に携わる企業からすれば、原発の停止・廃炉、建設計画の白紙撤回などが鶴の一声で決まるなど、たまったものではありません。売上の消滅を意味しますから、会社が傾きかねない事態です。
実際、あの『斗山重工業』も経営が極端に悪化し、2020年のコロナ禍の中、国策銀行『産業銀行』から支援を受けて命脈を保つというギリギリの状況になりました。
Money1で「あの」を付ける理由は、『東芝』から盗まれた「原子炉制御基盤関連の設計図入りの外付けHDD」が同社に渡ったと目されているからですが(確証は取れていません)、『斗山重工業』は韓国原発産業の一翼を担う重要な企業です。
その会社を傾けるというのも相当なもので、これなど文大統領による災害の一つといっていいでしょう。
企業からすれば怒り心頭なのも当然で、『韓国電力公社』傘下の『水力原子力発電』は「損失額の補てん」を要求しています。
文大統領のツケは「6,600億ウォン」にもなる
2021年11月25日、韓国の産業通商資源部は「第137回の国政懸案点検調整会議」を開催し、「原発削減コスト保全実施計画」を審議、確定しました。
簡単にいえば、損害補てんの対象を確定させ、損失金額の申請ができるようにしたのです(以下がプレスリリース)。
<<以下に注目ポイントを和訳>>
○費用保全対象事業は、事業者が原発削減のために当該発電事業等をしないと決定し、行政措置まで完了した事業である。
-費用保全対象となる原発合計7基のうち、現在費用保全申請が可能な原発は5基であり、これは2023年12月まで工事計画認可期間が延長された新ハヌル3・4号機が除外されたため。
ㅇ費用保全原則は
①適法・正当に支出した費用
②エネルギー転換政策の履行と直接関係のある費用を
③元金相当で保全するが、
④重複保全を防止する。ㅇ費用保全の範囲及び規模は、
①新規原発の場合、許認可取得のために支出した用役費と許認可取得以後支出した敷地購入費、工事費等であり、
②月城1号機の場合、継続運転のための設備投資費用と物品購入費用、継続運転による法定負担費用など。
廃炉となった「月城1号機」はじめ、計画白紙撤回など削減対象となった原発は全部で7基ですが、そのうち、工事計画の認可に時間がかかるのでその分延長となった新ハヌル3・4号機は含めないとしています。ちょっとずるい感じがいたしますね。
これで損害を受けた企業は申請できるわけですが、上掲のとおり「正当に支出した金額」「元金相当で」「重複申請するんじゃねぇぞ」などの注文をつけています(笑)。
で、政府が支払わなければならない損害補てんがどのくらいになりそうかですが、韓国メディア『ChosunBiz』の記事によれば、廃炉にする「月城1号機」の費用が5,652億ウォン」(約537億円)と一番大きく、小計「6,665億ウォン」(約633億円)になりそうとのこと。
廃炉の費用が「約537億円」なんかで足りるだろうかと思われるかもしれませんが、ご安心ください。韓国メディアでもこれについては疑問が出ています。正直いくらになるのか韓国政府も電力会社も分からないというのが本当のところです。
結局ツケは国民に回して終了の予定
韓国政府は「電力産業基盤基金」から支払うつもりですが、この基金にあるお金は将来の韓国の電力基盤を整備するために、国民が支払う電気料金に3.7%を賦課して集めたものです。
ですから、鶴の一声で決めたツケ、この時点で「6,665億ウォン」は、結局国民の血税で補てんすることになった――というわけです。
どっとはらい。
(吉田ハンチング@dcp)