『Radio Free Asia』が面白い記事を出しています。
記事の書き手は程晓农(程暁農)先生で、この方は上海市出身のアメリカ国籍を持つ経済学者。1989年の天安門事件以降、中国からアメリカに移住しています。
中国人民大学で経済学修士号を取得後、全国人民代表大会常務委員会弁公庁研究室や中国経済体制改革研究所で勤務し、同研究所では総合研究室主任や副研究員を務めました。
1989年以降、ドイツ経済研究所やゲッティンゲン大学、プリンストン大学で客員研究員として活動し、プリンストン大学で社会学の博士号を取得しています。その後、アメリカの雑誌『当代中国研究(Modern China Studies)』の編集長を務めました。
↑『Modern China Studies』公式サイト/スクリーンショット
現在の中国は金融危機バージョン2.0である!
程暁農先生は、現在中国は金融危機バージョン2.0に陥っている――とします。
「2.0」なら、バージョン1.0があったわけで、程先生は「バージョン1.0」は1996年に発生した――と述べます。しかし、バージョン1.0の金融危機は国民には知らされなかったし、これまで中国人学者の間でも議論されたことはない――としていらっしゃいます。
しかし、「1.0」は現在の「2.0」につながる萌芽があり、この先の中国に起こることを理解する上で1.0を理解することは非常に重要なのだ――とのこと。
では1996年に発生した中国の金融危機1.0とはどのようなものだったというのでしょうか?
中国の金融危機「1.0」とは?
かなり長くなるのですが、程先生の「中国の金融危機1.0」についての説明を以下に引きます。
中国の金融危機バージョン1.0は1996年に発生した。
この危機への対処により、中国は1997年のアジア金融危機を回避し、その後の経済ブームを迎えることができた。しかし、その金融危機の原因は、中国金融危機バージョン2.0の発生を予兆していたのだ。
1996年当時、中国の工業および商業企業の大部分は国有企業であり、それらの企業は数十年にわたって非効率な経営を続けており、負債は増大する一方であった。
当時、中国には4つの大型国有銀行しかなく、それらの銀行がすべての国有企業に「血液を供給する」役割を担っていた。
1994年末の時点で、12万社に上る国有企業の資産負債率は83%に達していた。これほど高い資産負債率は、ほとんどの国有企業が倒産寸前であることを意味しており、同時に、国有企業の「重荷」を背負っていた国有銀行も危険な状態にあった。
1991年末には早くも、中国四大銀行の貸付総額の20%がすでに不良債権となっていた。
延滞債権や滞留債権を加えると、返済不能な貸付は70%近くに達していた。
当時、四大銀行の不良債権は4,300億元を超えていたが、四大銀行の資本金は1,500億元余りしかなかった。
四大銀行は大幅な資本不足に陥り、破産寸前の状態であった。
さらに悪いことに、多くの国有工業・商業企業は、かなり以前から融資の返済を停止していただけでなく、利子の支払いさえも停止していた。
毎年、1000億元以上の銀行利子の支払いを拒否しており、1994年と1995年には、中国の銀行システム全体に損失をもたらした。
銀行は、不良債権損失をカバーするために、毎年積み立てるべき不良債権引当金を――その年は四大銀行の不良債権引当金はほぼゼロであった。
そのため、銀行は巨額の不良債権損失に直面し、自己資本で支払いを前倒しするしかなかった。
その結果、1994年には、中国銀行の資本勘定は史上初めて自己資本の減少を示した。
この傾向が続けば、銀行システムはすぐに破綻するだろう。当時、一部の学者は、「銀行における信用リスクと損失の最終的な負担者は住民である。 四大銀行は債務超過であり、一旦、住民の預金という支えを失えば、ハイパーインフレと金融危機を招くことは必至である」と述べた。
これが中国金融危機バージョン1.0の真相である。
このバージョン1.0のときと同様な兆候が現在表れている――というのが程先生の指摘です。以下です。
2023年末には国有銀行の純金利マージン※が1.5%を割り込み、危険水域に入った。
この危険な状況の主な原因は、銀行システムが地方政府と国有企業の債務負担に過剰に負担を強いられていること、もう一つの原因は、中国経済が長期の景気後退に陥った後、中央銀行が金利の抑制しかできなかったことである。
銀行の純金利マージンが低すぎて、給与カットや人員整理しかできないという事実に加え、中央政府が地方政府に6兆元の追加債務を認めたことは、実際には潜在的な金融危機の兆候である。
多くの人は、これは経済を救うための措置だと考えている。
実際には、6兆元は利息を支払えない地方政府融資会社の債務を地方政府融資の名義に移転するものであり、地方政府融資会社が直接銀行を圧迫しないように、地方政府融資会社に代わって利息を支払うものである。
65兆元の地方政府融資会社の債務は、デフォルト寸前の状態にあり、銀行システムの存続をいつでも脅かす可能性がある。
中国が最後に経験した金融危機の根本原因は、国有企業が「国庫を食いつぶし、銀行を食いつぶす」という制度的性質のものであった。
現在の金融危機発生の可能性がある根本原因も、やはり制度的性質のものである。
国有企業が「銀行を食いつぶす」という状況が続いていることに加え、新たな脅威として「国庫が銀行を食いつぶす」という状況がある。
現在、いわゆる「財政による銀行を食い物にする」という動きは「地方財政による銀行を食い物にする」ことにとどまらず、中央政府による国家債務の発生、そして銀行によるその引き受けという形でも起こっている。
この観点から、中国の潜在的な金融危機が容易に解決できない理由を理解することができる。
中国は、国有企業の民営化(銀行の「負担」を取り除く)、『WTO』(World Trade Organizationの略:世界貿易機関)への加盟、そして大量の外国からの投資の誘致という3つの方法によって、前回の金融危機を乗り切った。
しかし、今回の金融危機に直面して、中国は同じ方法を繰り返すことはできない。
第一に、現在、国有の大企業は戦略的産業における独占企業であり、民営化することはできない。
第二に、米中関係の悪化により、中国はもはや急速な成長と大量の輸出に頼って経済を牽引することはできない。
第三に、外国からの投資は基本的に中国市場への参入を停止しており、この状況は米中関係の影響を受け、変化する可能性は低い。
中国が前回の金融危機に直面した際には、主に外国貿易の拡大と外国資本の流入という、活用できるさまざまな機会があったため、比較的幸運であった。
しかし、今回の金融危機には、こうした機会は消滅している。
中国政府は、依然として金融危機を根本的に緩和する方法を見つけられるだろうか?
筆者は、それは難しいと考えている。中国の脆弱な銀行システムが中国の安定を揺るがす可能性があるのは明らかだ。
非常に興味深い指摘です。アジア通貨危機時には、実際にドボン騒動を起こした国々にばかり焦点が当たって論じられてきましたが、中国も実は金融危機「1.0」という状況だった――という指摘です。
この1.0を乗り切った当時の「幸運」は、現在「もはやない」というのは実に辛辣ですが、正しい指摘といえるでしょう。
Topの習近平さんはじめ、商務部、外交部、国務院などさまざまな政府機関の人々が「中国よいとこ、投資に最適」とウソばかり述べるのは、まさに経済が救われるための「機会」を得るためのものなのです。
放置して、中国経済が困窮の果てに石器時代に戻るなら、それは世界にとってうれしいことですね。
程先生の指摘する「1.5%」は非常に低い水準であり、銀行の収益性に深刻な影響を与える可能性があります。このような低水準は、銀行の経営環境が厳しい状況にあることを示しています。
(吉田ハンチング@dcp)