EUのドンブロフスキス上級副委員長(通商担当委員)が訪中。北京の『清華大学』で講演を行いました。
⇒参照・引用元:『欧州委員会』公式サイト「Keynote speech by Executive Vice-President Dombrovskis at Tsinghua University, Beijing」
上掲は『欧州委員会』が公表したキーノートスピーチの内容ですが、なかなか面白い内容です。
中国には開放性も透明性もない。経済を政治化している
講演の頭で、
(前略)
欧州と中国の協力は依然として不可欠です。しかし、地政学的な緊張の高まりを特徴とする世界において、私たちは前向きな協力関係を構築し続けるために、さらに努力する必要があります。
(後略)
と述べているのですが、この後、雲行きが怪しくなります。
中国が政治的な動きを強めて、公正性・開放性を欠いていると指摘しています。「しかし」以下の指摘にご注目ください。
(前略)
開放性はEUの経済力の中心でもある。EUは世界最大かつ最も統合された単一市場を有している。私たち自身の成功は、透明性、多様性、情報へのアクセス、予測可能性の上に成り立っています。
EUは、自由貿易協定の最大のネットワークを擁し、依然として世界一の貿易国である。また、対内・対外ともに世界的な投資大国であり続けています。
オープンでルールに基づいたアプローチは、我々とパートナーに相互の経済的利益をもたらします。
(中略)
はっきりさせておこう。
習近平国家主席は07月、「デカップリングとリンクの切断」に反対していると聞いた。
我々は同意する。
脱リスクはデカップリングの別の言葉ではない。
欧州と中国の経済関係は深く、双方に利益をもたらしてきた。その関係を断ち切るつもりはない。私たちは自給自足や輸入代替を求めてはいない。これはEUが中国自身の政策について実際に提起している懸念である。
EUは、我々の貿易・投資関係の大部分がそのまま維持され、さらに発展することを望んでいる。EU市場は開かれたままである。EUは保護主義を否定する。この立場を変えることはない
EUは、中国経済の目覚しい発展を称賛する。実際、我々はこの状態が続くことを望んでいる。世界がグリーンとデジタルへの移行を成功させるためには、強い中国が必要である。
しかし、EUの開放性が悪用されたり、国家の安全が脅かされたりしたときに、EUが無防備であることは許されない。
そして、「国家安全保障」は欧州では非常によく定義された狭い概念である。
中国は、私たちのリスク認識を軽減するために、多くのことを行うことができる。貿易と投資の武器化が役に立たないケースが幾つかある。
より広い意味で、われわれは中国に対し、われわれの経済関係における互恵性の欠如に対処するよう求める。
数字が物語っている。
現在の貿易赤字は3,960億ユーロに達しており、中国が有利である。
(後略)
EUの経済力の源泉は開放性と透明性だと述べ、それが欠如することは許さないと明言しています。つまり、中国には欠けていると言っています。
また、EUの貿易赤字が「3,960億ユーロ」(約62兆4,809億円)に達していることを示し、互恵性が保たれていないと指摘しているのです。
以下の部分にも要注目です。
(前略)
EU域内市場は依然として投資と貿易に対して開かれている。EU域内市場は、明確に定義されたルール、信頼できるビジネス環境、強力な透明性に支えられている。
一方、欧州企業は中国の方向性に懸念を抱いている。
その多くは、この国での自分たちの立場に疑問を抱いている。
過去数十年間は「Win-Win」の関係であったものが、今後数年間で「Lose-Lose」の関係になる可能性があるのではないかと自問しているのだ。
在中国EU商工会議所が最近行った調査では、回答者の3分の2近くが、かつてないほど中国でのビジネスが難しくなっていると答えている。
中国政府は、国家の安全保障と発展の利益を守るための手段を拡大することで、より政治化されたビジネス環境を作り出している。
その結果、透明性の低下、調達への不平等なアクセス、差別的な基準やセキュリティー要件、データのローカライゼーションや転送要件などが生じている。
(後略)
中国政府がビジネスを政治化しており、開放性・透明性が落ちているという指摘です。「これを是正しないなら……」という言葉を含んでいるでしょう。
Money1でもご紹介した「中国産電気自動車について調査を開始する」というEUの姿勢についても以下のように述べています。
(前略)
欧州委員会は最近、中国からのバッテリー式電気自動車の輸入に対する反補助金調査の開始を発表した。欧州委員会は、中国当局および利害関係者と協議の上、この調査を真摯に行い、その際には確立されたルールに従うことを保証する。
EUは競争を歓迎する。
競争は我々の企業をより強くし、より革新的にする。
しかし、競争は公正でなければならない。
不公正な競争に対しては、より積極的に取り組んでいくつもりである。
(後略)
中国産の電気自動車は公正なルール下での競争の結果売れているのかね?という疑問を呈しています。EUの調査はきちんと行うからな――という宣言に他なりません。恐らく「NG」の判定を出すでしょう。
「中国は欧州企業に公平な競争環境を提供していると考えているのか?」
今回のドンブロフスキス上級副委員長の講演について、欧米記者から中国外交部に厳しい質問が上がりました。以下は、2023年09月25日に行われた定例記者ブリーフィングでの質疑応答です。
『Bloomberg』記者:
EUのドンブロフスキス上級副委員長(通商担当委員)は本日、清華大学での講演で、中国の貿易慣行と政策について声明を発表した。 同委員は、中国が公正な競争と地政学的環境の調整という点で、互恵的な慣行を欠いていることから、EUはより厳しいアプローチを取らなければならないと述べた。これに対する中国の反応は? 中国の貿易政策に対する上記の批判は正当だと思いますか?
汪文斌:
まずお伝えしたいのは、中国はこれまでと同様、法治の原則を堅持し、法に従って個人と組織の合法的な権益を保護し、中国国内のあらゆる国の企業が合法的に活動できるよう、市場志向、法治、国際化された良好なビジネス環境を提供し続けるということです。また、この場を借りて、中国はリスクの発生源ではなく、まさにリスクを予防し解決するための確固たる力であることを改めて強調したい。
中国は、金融の安定を維持し、インフレを抑制する上で、また、エネルギー危機への対応やグリーン変革の実現において、EUの重要なパートナーである。
「脱リスク」という名の「脱中国化」が、機会、協力、安定、発展の代わりに、それ自体がリスクを生み出し、広げるものであるならば、誰もそこから利益を得ることはできない。
中国と欧州は協力して、経済貿易協力の汎安全保障化・汎政治化に抵抗・反対し、リスクに対抗・防止する安定剤となり、世界経済成長の動力源となるべきである。
『Bloomberg』記者:
EUのドンブロフスキス通商担当委員は、中国が中国国内の欧州企業に不公正な競争環境を提供していると述べたが、この批判を否定するのか?これが現在進行中の欧中間の協議の基礎となっているようだ。中国は欧州企業に公平な競争環境を提供していると考えているのですか?
汪文斌:
関連する立場を提示したところです。中国は法治国家です。 法の支配を全面的に推進する一方で、ハイレベルな対外開放を揺るぎなく推進していきます。『ロイター通信』記者:
ドンブロフスキスEU通商担当委員は講演の中で、中国が「対外関係法」や「防諜法」といった新しい法律を通じて、より政治化されたビジネス環境を構築しつつあることにも言及した。中国でのビジネスチャンスを求めている企業にとって、このような動きは憂慮すべきものだ。EUのリスク認識を低下させるために、中国が取れる取り組みはたくさんある。これに対する中国の対応は?
汪文斌:
防諜法と外交法の制定について、中国は繰り返し原則的な立場を表明している。中国側の全ての法執行と司法活動は、事実と法律に基づいて行われていることを、この場を借りて改めてお伝えしたいと思います。
企業が合法的に活動する限り、心配する必要はありません。
私たちは中国と外国との正常な交流と協力を奨励し、支持しており、中国の法律と規則を守る限り、いかなる外国籍の市民と組織も中国で生活し、働くことができます。
『Bloomberg』の記者から「中国は欧州企業に公平な競争環境を提供していると考えているのですか?」というキツイ一発が炸裂しているのが傑作です。
外交部の汪文斌報道官は、中国は法治国家であると述べ、「心配する必要はありません」などと強弁していますが、全く安心などできません。
もう何度だって言いますが、中国は法治国家ではありません。法の上に中国共産党が存在し、恣意的に法律を捻じ曲げることができるのです。中国共産党(そのTopである習近平)の思うさまに法を作り、曲げ、人を拘禁できる国です。
EUの標榜する自由民主主義とは全く相容れない国であり、経済的な自由はなく、そのためフェアな取り引きなど全く期待できません。
これは対EUだけでなく、どこが相手でも同じです。日本の岸田文雄は中国に対して、ドンブロフスキスさんにようにはっきり意見を言えるのでしょうか。
(吉田ハンチング@dcp)