2025年07月12日付けで、フィリピンの外務省は「DFA Statement on the Ninth Anniversary of the 2016 Arbitral Award on the South China Sea」という声明を出しました。
これは南沙諸島についてに紛争で、フィリピン側が中国を提訴し、2016年に「中国の主張は根拠なきもの」とフィリピン側の主張の殆どが認められました。
フィリピン政府は、国際法—特にUNCLOSに基づく紛争解決手段として、この仲裁裁定を依然重要かつ法的拘束力のあるものと位置づけ続けており、その意義を国家の海洋政策および国際関係の基盤として再確認しています。
しかし、中国はこの判決を「紙くず」と一蹴しているのです。
12日にフィリピンが公表した声明に対して、同日中国外交部はすぐさま以下のようなプレスリリースを出しました。
外交部報道官、フィリピンによる「南シナ海仲裁裁定」9年声明発表に関する記者の質問に答える
2025年7月12日 15:55質問:
先日、フィリピン外交部が「南シナ海仲裁裁定」発表から9年に際して声明を出し、フィリピン外相が関連するシンポジウムで基調講演を行いました。これについて中国側はどのようにコメントしますか?回答:
中国の「南シナ海仲裁裁定」問題に関する立場は一貫しており、かつ明確です。当該「裁定」は違法・無効で拘束力のないただの紙切れです。
中国は、いわゆる「裁定」を受け入れず、認めず、またその「裁定」に基づくいかなる主張や行動も受け入れません。
中国の南シナ海における領土主権と海洋権益は、いかなる状況においてもこの「裁定」によって影響を受けることはありません。ここで改めていくつかの点を強調したいと思います。
第一に、「南シナ海仲裁裁定」は国際法の基本原則に違反しています。
フィリピンが一方的に「仲裁」を提起したことは、事前に十分な意見交換を行うという必要な前提を履行せず、中国とフィリピンが合意していた協議を通じた平和的な紛争解決の共通認識に反し、「南シナ海行動宣言」に定められた、直接の当事国同士が友好協議と交渉を通じて平和的に争いを解決するという規定に違反しており、「合意は守られるべき」「禁反言」など国際法の基本原則に反しています。
第二に、「南シナ海仲裁裁定」は『国連海洋法条約』に違反しています。
領土問題は『条約』の管轄範囲には属していません。
海洋境界画定問題は、2006年に中国が明確に「強制仲裁」などの手続きから除外しています。
フィリピン側は中国の声明を無視し、強引に「仲裁」を提起したことは、『国連海洋法条約』の紛争解決メカニズムの乱用です。
「仲裁裁判所」は権限を超えて審理を行い、中国が『条約』締約国として争いの解決方法を自主的に選ぶ権利を侵害しました。
その行為は『条約』の目的と趣旨から完全に逸脱し、『条約』の完全性と権威を著しく損ない、国際海洋法の秩序を深刻に脅かすものです。国際司法裁判所の元院長や国際海洋法裁判所の元判事を含む多くの国際的な権威ある法学者も、「裁定」には重大な誤りがあると考えています。
第三に、「南シナ海仲裁裁定」は南シナ海の基本的事実に反しています。
「仲裁裁判所」は事実認定と法律適用の両面で重大な欠陥があり、下した「裁定」は明らかに誤りが多く、矛盾だらけです。
この「裁定」は、南沙諸島最大の島であり、50万平方メートルの広さを持つ太平島を岩礁であって島ではないと認定し、さらに南沙諸島のいかなる島礁も排他的経済水域や大陸棚を生じさせないと結論付けています。
これは『条約』の規定にまったく合致していません。この「基準」に従えば、多くの国の主張が違法となり、世界の海洋秩序が書き換えられてしまうことになります。
中国は常に、南シナ海の他の関係国と協議を通じて争いを平和的に解決することに尽力しており、ASEAN諸国と共に『南シナ海行動宣言』を全面的かつ効果的に実施し、「南シナ海行動規範」の早期妥結を推進し、南シナ海の平和と安定を維持するための強力な制度的保障を提供しています。
われわれは、関係国に対し、違法な「裁定」という紙切れを持ち出して問題を蒸し返さず、それを口実に権利侵害や挑発行為を企てることのないよう強く求めます。そのような行為は結局、損得勘定に合わず、自ら招いた結果を刈り取ることになるだけです。
このプレスリリースから明らかなのは、中国が国際秩序の破壊者であり、無法者国家であるということです。
中国外交部は、「仲裁裁定は違法・無効で拘束力のないただの紙切れ」と主張しましたが、これは国際司法制度そのものを否定する危険な態度です。
仲裁裁判所(PCA)は国連海洋法条約(UNCLOS)に基づいて設置された正当な国際司法機関であり、加盟国はその裁定を尊重する義務があります。
「裁定は無効」と主張するのは国際法違反です。
中国は「UNCLOS締約国」なのです。裁定手続きに従うべき義務がありました。
しかるに、一方的に「裁定を認めない」とするのは、国際的な合意に基づくルールに背く行為であり、国際社会における法の支配を損なうものです。
中国が主張する「歴史的権利」とやらはUNCLOSに照らして否定されました。
仲裁裁定は、中国の主張する「九段線」や「歴史的権利」主張が、UNCLOSに反し法的根拠がないことを確認したのです。
中国が「歴史的権利」を理由に裁定を無視するのは、現代国際法の枠組みを認めない自己中心的な論理にすぎません。
国際社会は断じてこのような身勝手な無法者行為を見逃してはならないのです。
実力行使や威圧で裁定を否定することは責任ある国の姿勢ではありません。もしすべての国家が「気に入らない裁定は紙くず」と言い始めれば、国際司法制度も国際秩序も崩壊します。
中国が自らを「責任ある大国」などと称するなら、まず国際法の尊重と司法判断の受け入れが求められます。
一方で、中国は「対話による解決」を主張しますが、国際法を無視した一方的な立場では対話の土台すら成り立ちません。
「法に基づく秩序」を前提にした上でこそ、建設的な外交交渉が可能となるからです。
中国は都合のいいときだけ「国際秩序」などという無法者国家に過ぎません。
合衆国の動きは急ですべてはつながっている
注目されるのは、アメリカ合衆国がどうするか――です。いや、このタイミングでフィリピン政府が南沙諸島についての声明を出したということ自体が、合衆国政府の示唆によるものではないのか――というウラまで想起させます。
フィリピンは合衆国の縄張です。
何度もご紹介して恐縮ですが、トランプ第2期政権下で国防総省政策担当国防次官(Under Secretary of Defense for Policy)に任命されたElbridge A. Colby(エルブリッジ・A・コルビー)さんは、その著書『拒否戦略』において、アジア太平洋地域で中国を拒否する方策において、キーとなる国に日本・インド・オーストラリアと共に、東南アジアでは「フィリピン」を挙げています。
コルビー国防次官が重用されている第2期トランプ政権下で、「合衆国は中国を封じ込めるのにリソースと集中すべき」という指針を実施する上で、フィリピンを支援しないわけがありません。
中古で大変恐縮ですが、日本からフィリピンに護衛艦「あぶくま型」6隻が譲渡されるというのは、当然合衆国の意向が後押ししているものと見なければなりません。
合衆国の動きは急です。しかし、全てはつながっているのです。
(吉田ハンチング@dcp)








